第三話日常の色
次の日、僕はいつもと同じ時間に家を出て学校に向かった。いつもと同じように満員電車に乗って学校のある水野駅で降りる。そしていつもの通学路を通って校門をくぐり、教室へと向かった。違ったのは僕が教室に入るとすでにいた人からあいさつをされたことだ。
「おはよう」
声をかけてくれたのは君だった。僕が教室に入るのはいつも一番で他には誰もいないはずだった。だから今日は突然声をかけられてびっくりした。
「おはよう、今日は早いね」
「宿題するの忘れちゃって、学校来たら誰かいるかなーって思って早く来てみたんだ。けど早すぎて誰もいなかった」
冷静を装う僕に気味は無邪気に笑いかける。
「そっかいつも僕が一番に来るからびっくりしたよ。それより宿題って何か出てたっけ?」
「数学の宿題が出てたよ。もしかして寝ちゃってて聞いてなかったの?」
「かもしれない…どうしよ早くやらなくちゃ」
昨日、のんきにテレビを見ている場合じゃなかった。
「じゃあ一緒にやろうよ。あと、これ昨日のハンカチ」
「そんな急ぎじゃなくてよかったのに。ありがとう」
差し出されたハンカチを僕は受け取る。いつもとは違う洗剤の匂いがして少しだけドキッとした。
「ひざはもう大丈夫?って言っても昨日の今日だから大丈夫じゃないよね」
「う~ん。大丈夫ではないけど水篠君が心配するほど重傷じゃないよ。ばんそうこうも貼ってるしね。そんなことより宿題。早くやらないと終わらなくなっちゃう」
「あぁ、そっか。急がないとだね」
僕は君と一緒に問題を解き始めた。朝のホームルームの時間が近づき、教室の中にみんなが集まり始めたころ
「終わったー」
二人同時に声を出し、何とか一時間目の数学に間に合わせることが出来た。
「良かった。星月さんがいなかったら宿題やらずに一時間目受けるとこだったよ」
「わたしも一人だったら一時間目に間に合わなかったかも。ありがとう」
「こちらこそありがとう」
そう言って僕は自分の席に戻り、ホームルームが始まった。。
一時間目の数学では昨日寝ていたのがばれていたのかどうかわからないが、先生に指された。朝に宿題をしていなかったらと思ったら、心臓がバクバクしていた。問題で出されたのは宿題でやったところの復習だったから何とか無事乗り越えた。
僕は次からは寝ないでちゃんと授業を受けると決めた。
その日の放課後、僕は君に改めてお礼をしてから帰ろうと思い、君の方を見た。けれど君は友達としゃべっていてここで話しかけに行ったら邪魔になってしまう。僕は仕方なく帰ろうと、教室の扉を開けたとき後ろから声が聞こえた。
「水篠君またね」
消え入りそうなその声は夕焼けと共に僕の耳を照らす。
「うん、またね」
僕は小さく手を振り返し、教室を後にした。
君の友達からは
「水篠と仲良かったの?」
なんて声が聞こえてきたが君の答えは聞こえなかった。君以外の人は色を視れば、僕のことをどう思っているか分かってしまう。あまりいい感情を持たれていないのは分かっている。今までも敵意や悪意の色を持った人を避けながら、生きてきたから友達もあまり多くはない。でも君の色は透明で色が無い。君がどう答えたのかは少し気になった。
僕が廊下を進んでいくと、背は小さいのにものすごく明るくてはっきりした色を持った女子が向こうから歩いてくる。
『秋人と同じくらい明るいな』
そう思いながら走ってくる女子を見ていた。視線を感じたのかその女子はいきなり振り返る。
「えっと何か用ですか?」
「あ、いや、何でもないですごめんなさい」
不意を突かれた僕はだいぶ挙動不審な返し方をしてしまった。その女子は不思議そうな顔でこっちを見た。けどすぐに僕の後ろに向かって歩いて行ってしまった。
『変なやつだと思われたかな?』
色が視え始めたころは色をよく視ようと、人のことを見すぎてしまうことが多々あった。
だけど最近は視慣れてきて、少し視ただけで色の判別ができるようになってきていた。だからそこまで人のことをジッと見ることが無かったんだけど、今回は秋人と同じぐらい明るくてはっきりした色だったから珍しいなと思って視すぎてしまった。高二にもなって変な噂が広まるのは嫌だから気を付けないと。
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