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透明色  作者: 神木駿
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第二十三話彼の色

今日は彼のお葬式の日、雨のせいか悲しみのせいかそこら中に暗い色が落ちている。会場に着くと秋人君がもう来ていた。私は声をかけようと思ったけど、彼の色を視て声をかけられなくなった。

「なぁ葵」

秋人君は彼に話しかけた。

「お前は昔っからそうだった。誰かのために自分を犠牲にするのは当たり前だってそう思ってた。それは最後まで変わらなかったみたいだな。星月さんを助けて……ハハッ、ほんとお前らしいよ」

涙を押し殺し、彼の遺影に笑顔を向けていた。いつもと変わらないような明るい笑顔。でも秋人君の色はあの子が見せた深い悲しみの色をしていた。小さなころから同じ土地で育ってきた幼馴染で親友を亡くした悲しみ。私の感じているよりも深く暗いものだろう。

「でもよ……こんなに早くなくていいだろ。もっと…もっとたくさん……やりたいことも話したいことも……。お前とは大人になっても爺さんになっても…ずっと……ずっと…親友で……」

秋人君は下を向いて涙を流していた。彼には見せないように。私は秋人君を残して会場を後にした。

「ねぇ秋人来てない?朝連絡したんだけど返信なくて」

「秋人君ならもう来てたよ。でも今はまだ行かない方がいいかも。葵君との最後の別れだから」

「そっか…分かった」

桃は少し心配そうな顔をしてうつむく。

私が会場について少ししたら式が始まった。彼は多くの人と関わっている感じは無かったけど、式にはクラスの子や他学年の子も来ていた。他にも私が見たことない人たちも来ている。多分中学や小学校の時の同級生だろう。この中には本当に悲しんでいる人しか来ていない。それは彼が生きている間にたくさんのやさしさを分けてきた証拠だ。私と初めて会った時も他の誰も気にしていない私のことに、彼は気付いて声をかけてくれた。

会場は暗い色で覆われていたが不思議と嫌な感じはしない。彼を想う優しい気持ちで溢れていたからだろう。

式が終わり私は彼の顔を見ようと会場に戻った。そこには彼の母と小学生ぐらいの男の子が彼の入った棺を見て二人は泣いている。彼とのお別れを邪魔しちゃいけない。でも私は言わなきゃいけない。

「あの……私、星月渚と言います。葵君とはいつも仲良くさせてもらっていました。葵君は私をかばって……」

ダメだ。涙が零れそうになる。私は必死に涙をこらえて言葉を続ける。

「葵君は私をかばって犯人に刺されました。ほんとうにごめんなさい。ごめんなさい」

私は頭を下げた。止めようと思っていた涙はあふれ出てくる。どうしようもない気持ちがこみあげて私の心をぐちゃぐちゃにしていく。私は泣いちゃいけないのに、今一番つらいのは家族である二人のはずなのに。

「顔を上げて、あなたが謝ることじゃないわ」

彼のお母さんは自分の涙を拭いて、優しく私に語り掛けた。私が顔を上げるとお母さんは言葉を続けた。

「こんな可愛くて綺麗な子を助けて、この子は立派なことをしたわ。渚ちゃんって言ったかしら、あなたは葵の彼女?」

お母さんがなぜ今こんなことを聞いてくるのか分からなかったけど私はその問いにすぐに答えることができた。

「はい」

涙ぐんで声はうまく出せていないけどお母さんは分かってくれた。

「そう……この子彼女が出来たら報告するって言ってたのに、全く彼女が出来た報告もしないで私よりも先に死んじゃうなんて」

お母さんの言葉で私は彼の最後の言葉を思い出した。

「あの、それ葵君が最後に言ってました。お母さんには親より先に死んじゃうなんてって言われそうだって。弟君には寂しい思いをさせちゃうかもって」

お母さんはその言葉を聞いてハッとした。

「そう…そんなことも…この子は昔から人のことをよく見ていたわ。たまに人の考えてることが分かるんじゃないかしらって思うぐらい思い切った行動をしたりして。最後までこの子は変わらないわね」

お母さんは彼の方を見て優しく笑う。その色は言葉では語ることが出来ないぐらい優しい色だった。

「ありがとう渚ちゃん。この子ね今年に入ってからずいぶんと表情が豊かになったのよ。今まで見せないぐらいにね。多分あなたのおかげよね。あなたと出会えてとっても幸せだったと思うの。だからこの子の彼女になってくれてほんとにありがとう」

私はお母さんの言葉を聞いて涙があふれだしていた。彼と出会った日からの思い出が一気に流れ込んでくる。ここではもう泣かないって決めていたのに、私の目は涙で滲んで何も見えなくなっていた。お母さんは私の涙を拭こうと自分の手で私の頬をぬぐった。その手のぬくもりが彼とそっくりだったから私はまた涙を零した。

私の涙が落ち着いた頃お母さんは葬儀屋の人に呼ばれた。

「じゃあね」

お母さんの優しい声は彼にも届いているだろうか。弟くんは彼のそばを離れようとしなかった。私の言葉を聞いた後、涙を拭いて溢れそうになる涙をずっとこらえていた。まるで彼に寂しくないよと示しているようで。

「最後のお別れできた?」

会場の外に出ると桃が聞いてきた。 

「うん。ちゃんとできたよ」

桃の瞳に映る私は歪に笑っている。

「そっか…。じゃあ私は秋人と一緒に帰ろうと思うんだけど渚はどうする?」

「私は一人で帰るよ。またね桃」

「うん……またね」

私は桃に手を振り、彼のいた会場をあとにした。

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