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透明色  作者: 神木駿
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第十五話幸せの色

次の日の朝起きると君は何事もなかったかのようにふるまう。

「おはよう葵君」

「おはよう、渚さん」

僕もまた、同じようにふるまう。

「さて、秋人たちも起こさないとだね」

僕たちより早く寝たはずの秋人と小桜さんは、まだスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。

「秋人。起きろ朝だぞ」

僕が秋人を起こそうとすると、秋人は寝ぼけているのか面白いことを言い出した。

「母さんあと五分」

それを聞いた僕はにやにやが止まらない。秋人はとんでもないことを言ったことに気付いたのか掛け布団をばっと持ち上げた。

「俺、今なんて言った?」

「母さんあと五分って言ってたぞ」

僕は秋人の真似をする。

「油断した。完全に家だと思ってた」

秋人は恥ずかしくなったのか自分で一回はがした布団に再びこもった。向こうでは君が小桜さんを起こしている。小桜さんも秋人と同じで朝が弱いのか布団をつかんで離さない。

「ほ~ら桃。そろそろ起きなさい」

渚さんがやっとのことで小桜さんを起こした。

「あ~葵君おはよ~」

小桜さんがまだ眠そうに言ってくる。

「おはよう、よく眠れたみたいだね」

「うん布団が気持ち良すぎてぐっすりだよ。眠気覚ますために顔洗ってくる」

小桜さんはふらふらした足取りで洗面所に向かった。秋人はまだ布団にこもっている。そろそろ本気で起こさないと。僕は両手で秋人から布団をはがす。

「ほら桃さんも起きたから秋人も顔洗ってこい」

「分かったよ起きるよ。あ~あ、めっちゃ恥ずかしいな」

秋人は顔を抑えながら洗面所に向かった。

「ねえ昨日のこと覚えてる?」

「うん。もちろん覚えてるよ」

「じゃあやっぱり昨日のことは夢じゃなかったんだね。あの子が言ってたいみごって、昔あった差別的な意味の忌み子のことだよね。この辺ってそんな風習があったのかな?」

「どうだろう?あったとしてもこの旅館が出来る前のことだろうから、だいぶ昔なんじゃないかな」

昨日の女の子が言った言葉の意味はたぶん合っている。

「そうだよね。でもちゃんと向こうに行けてたらいいな」

「そうだね。向こうで友達いっぱい作れるといいよね」

僕と君はあの子が幸せになることを願っていた。寂しくて哀しい思いをしてきたあの子が少しでも救われていればいい。多分君も同じことを思ってるんだろう。

「二人で何の話してるのー」

小桜さんが君に飛び込んだ。

「ん~幽霊の話」

「えっ幽霊…それは聞きたくないかも」

小桜さんは顔を引きつらせて、耳をふさぐようなそぶりをした。

「なんか幽霊って聞こえたんだけど誰か視たの?」

秋人が小さく縮こまりながら戻ってきた。確か秋人も幽霊が苦手だった気がする。

「渚さんこの話はあとでにしよっか。幽霊苦手そうなのが二人もいるから」

僕は秋人と小桜さんを見ながら君に小声で言う。

「秋人君も幽霊ダメだったの?それは意外だったな」

君はびっくりしていた。

「うん、幽霊とか視たことはないけど、見えないものって怖くない?昔っからダメなんだよ」

そんな秋人を見て君は無邪気に笑う。話を横で聞いていた小桜さんが変な反応を見せる。

「ねえ今、秋人君って」

少し焦った顔をしながら君に聞く。

「え?だって葵君は下の名前で呼ぶのに、秋人君は上の名前だと変な感じしない?」

君は首をかしげながら小桜さんに返した。君からは相変わらず何も見えないがこれはただの天然だろう。小桜さんもそれを感じ取ったのか心配するようなことは何もないと悟った。

「確かにそうだね。うん、変な感じだよね。私も葵君って呼んでるし」

今ので思い出したが、僕は秋人と小桜さんが付き合えるようにしようと思っていたのに、今回の旅行では何もしてなかった。

それよりも濃密なことが多すぎて、そっちが手につかなかった。

「じゃあ朝食食べに行くか」

秋人が元気よく言った。朝食は大広間でバイキング形式になっている。こっちもいかにも旅館って感じがする。

「そうだね。混んでくる前に行こう」

僕は秋人の提案に乗った。朝食の会場に着くともう結構な人数が来ていた。僕たちは空いている席を見つけてそれぞれ好きな料理を取りに行く。朝はそんなに食べない僕はご飯とみそ汁、それとおかずに鮭を取って席に戻った。

「葵君それだけ?」

小桜さんが僕の皿を見て言う。

「うん。朝はいつもそんなに食べてないから」

「ええ?もったいないな。私なんか何食べようか迷っちゃったから、食べたいの全部取ってきちゃったよ」

小桜さんの持ってきた皿を見ると、バイキングにあったほとんどのメニューが乗っている。

「小桜さんは朝からそんなに食べて大丈夫なの?」

山盛りになっている小桜さんの皿を見て心配になった。

「うん!大丈夫だよ。食べたらすぐに消化するから。それより今小桜さんって言ったよね。下の名前で呼ぶんじゃないの?」

テーブルにお盆を乗せて僕に視線を向ける。

「あ、またやっちゃった。上の名前で呼ぶのは癖みたいなのだから抜けきらなくって」

「でもそうだよね。いきなり呼び方変えたら混乱するよね。私もたまに混乱しちゃうよ」

「こ…じゃなくて桃さんもそんなことあるの?」

また間違えそうになった。

「さん付けじゃなくていいよ。それより、私のこと何だと思ってるの?」

「じゃあ桃。はね、え~っとコミュ力おばけ」

小桜さんの印象を率直に伝えようとした。

「コミュ力おばけって褒められてるのかな?」

小桜さんは笑って言った。

「もちろん褒めてるよ。誰とでも仲良くなれそうな感じがする。実際女子が苦手な秋人が普通に話せてるのがすごいと思うし」

「そう言われるとうれしいな」

小桜さんは少し照れている。秋人の話をすると途端に色が変わるのは見ていて面白い。

「何話してるの?」

君は小桜さんとは正反対で少量の料理を皿に盛って戻ってきた。

「葵君が私のことコミュ力おばけって褒めてくれたの」

小桜さんは嬉しそうに君に話す。

「ああ、桃は確かにコミュ力おばけかもね。学校でも先生とか後輩とか、いろんな人から気に入ってもらってるよね」

君も小桜さんのことを褒める。

「ええ?そんなに言われると照れるよ」

君は小桜さんをほめちぎり、楽しそうに笑っていた。そういえば秋人はまだ料理を選んでるのかなとバイキングの方を見た。すると山盛りになった皿を持った秋人がこっちに近づいてくる。

「待たせちゃって悪かったな。どの料理もおいしそうで」

「大丈夫先食べちゃってたから。それより秋人それは盛り過ぎじゃない?」

僕は山盛りになった皿を見て言う。小桜さんの量でも驚いたが秋人はそれ以上だ。

「ん?これぐらい余裕で食えるよ。むしろ葵はそんな少なくていいのかよ」

「僕は朝はそんなに食べないから…」

全員がそろったところで、秋人はすごいスピードで食べ始めた。見る見るうちに皿に乗ってた料理が秋人の胃の中に入って行く。その様子を見ていた君が若干引いている様に見えた。

「秋人!もうちょっときれいに食べなよ。渚が引いてるよ」

小桜さんもそれに気づいたようで秋人を止める。

「あっごめん。おいしすぎてつい」

秋人は一旦食べるのをやめて皿を置いた。

「もう秋人はさっきからそればっかり。いくらおいしそうでも限度があるでしょ」

小桜さんが秋人に説教?ではないけどそれに近いことをしていた。

「ごめん。ちょっとはしゃぎ過ぎた」

秋人は反省して食べるスピードを緩める。僕は秋人が怒られているのがちょっとおかしくて軽く笑った。

「葵、今なんで笑ったんだよ。気付いてるぞ」

「ごめんごめん。秋人が怒られてるのが面白くて。秋人って意外と優等生だから、学校とかでも怒られるようなことはあんまりしないからさ」

「まあ確かに怒られるようなことはしないけど、意外とってなんだよ。どこからどう見ても優等生だろ」

秋人は小桜さんの方に目をやったが、小桜さんは首をかしげて言った。

「見た目はあんまり優等生には見えないと思うよ」

「まじ?」

秋人は君の方も見たが君も首をかしげて笑うだけだった。

「え、渚さんから見ても俺ってそんな感じなの?」

「ま、まあでも秋人はいいとこいっぱいあるから大丈夫だよ」

小桜さんがすかさずフォローを入れた。

「それはほんと?」

秋人が聞き返した。

「うん、ほんとだよ。人がやらないことも率先してやるし、優しいし、気も使えるし。まあ見た目だけじゃ秋人の良さは伝わらないよ」

小桜さんは自分で言って恥ずかしかったのか、段々と色が淡いピンクに変わっていく。

「え~そんなに言われると照れるな~」

秋人の色はただ明るいだけ。相変わらずの鈍感さだ。秋人もこの前の海で小桜さんのことを少しは意識してるとは思うんだけど、あと少し何か足りない気がする。何かきっかけがあればこの二人は進展しそうだな、なんて考えてたらみんな朝食を食べ終わったみたいだ。

「「ごちそうさまでした」」

「重要なお願い」続きが気になる!とか面白い!とか思われた方はぜひブックマークや星で評価を頂けると嬉しいです!

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