第十四話哀しみの色
僕たちは布団を敷いてごろごろしながら、トランプでババ抜きや七並べをして遊んだ。
「そろそろ眠くなってきたな」
秋人が目をうつろにしながら口を開くと、小桜さんもそうだねと同意した。もともと布団は敷いてあるし、寝る準備はみんなできていた。秋人と小桜さんは昼間の山走りの疲れが今来たのだろう。眠たくなってきたと言った後、すぐに寝てしまった。
僕はあの子との約束がある。
「ちょっと夜風に当たってくるね」
君に自然な言い訳をして外に出ようと思ったけど、帰ってきた返事は予想外の物だった。
「私も行きたい」
それを断るのも変な感じがするし、僕たちは二人を起こさないように部屋の外に出た。外に行くと夏とは思えないほど涼しい風が通りすぎて行く。
「葵君、どこ向かってるの?」
君は僕の後ろを歩きながら聞いてくる。ここまで来てしまったら言うしかない。
「えっと実は、お昼の女の子がいるって言ったでしょ?その子に夜の十二時にさっきの場所に来てくれって言われたんだ」
さっき女の子に言われた言葉を君に話した。君は驚きながらも真面目に話を聞いてくれた。
「そっか。なんか不思議な子だね」
「うん。こんな時間に来てなんて言われるからどうにも気になってね」
僕が話し終えたところでさっきの場所に来た。
「あ!おにいちゃん来てくれたんだ。そっちのおねえちゃんはだぁれ?」
女の子が駆け寄ってきた。
「このお姉ちゃんは僕のお友達だよ。一緒に遊んでもいいかな」
僕は君を紹介する。女の子は一瞬考えたけどすぐに明るい顔を見せた。
「うん!みんなで遊んだほうが楽しいもん!あそぼあそぼ」
女の子は元気いっぱいに答える。
「何して遊ぶの?」
君は女の子に聞く。
「う~んとね。じゃあおままごとしよう。おにいちゃんがおとうさんでおねえちゃんがおかあさんね」
女の子は笑顔で言った。僕たちは女の子の言う通りの配役でおままごとを始める。
「私ねこうやって遊ぶお友達がずっとほしかったの、だからねさっきおにいちゃんが見つけてくれたときはすっごく嬉しかったんだ」
普通に遊んでいると女の子は寂しげな口調で話し始めた。とっさに入ってきたこの子の声を僕は聞かなきゃいけない、そう思った。
「周りはみんな大人の人ばっかりだし、私が遊ぼって言っても大人の人はみんな嫌な顔して全然相手にしてくれないの。なんかよく分からないけど大人の人からはいみご?って呼ばれてたの」
「いみご?」
何のことだろうと考えていると女の子はさらに続けた。
「それでね。五歳になった時におとうさんとおかあさんが私をこの山に連れてきたの。おとうさんとおかあさんは私に『ここで待っててね。迎えに来るから』って言ったんだ。だからね。私はおとうさんとおかあさんのことをずっと待ってたんだ。ずっと一人で」
女の子はうつむいた。君はその話を聞いて辛そうな顔をする。僕たちは儚く消えてしまいそうな女の子の声を一つも逃さないように耳を傾ける。
「そっかじゃあ今日はお姉ちゃんたちがいっぱい遊んであげるね。そういえばお名前聞いてなかったね。教えてくれる?」
女の子はうつむいていた顔を笑顔に変えた。
「えっとね、みはるだよ」
「みはるちゃんかぁ。いい名前だね。よーしおにいちゃん頑張るよ!」
僕は意気込んだ。
「おにいちゃん!そんなおっきい声出したらダメだよ。しー」
女の子は指を口元に持っていきながら言った。
「あっそうだね。ごめんごめん」
僕は慌てて声量を落とした。その様子を見ていた君は優しく笑う。
「ふふふ、葵君お父さんなのに怒られてる」
女の子も君につられて、くすくすと笑った。僕と君は時間を忘れて女の子と遊んだ。この子の中で楽しい思い出になるようにと。
突然女の子は口を開く。
「ほんとはねおとうさんとおかあさんが来ないの分かってるんだ。でもあとちょっとだけあとちょっとだけって思ってたら、ここから動けなくなっちゃったの。おにいちゃんが気付いてくれなかったら私はずっと独りぼっちだった」
悲しげな顔をする女の子の色は薄くなっていく。
「あーあ、おにいちゃんとおねえちゃんが、ほんとのおとうさんとおかあさんだったらよかったのにな」
女の子は笑顔だったが目には涙を浮かべていた。女の子の涙が頬を伝い、地面に一粒落ちると女の子の体はだんだんと透けて消えていく。
「あっ…」
君は手を伸ばし女の子に触れようとしたがその手は届かない。山の木々が風に揺られ音を出す中、女の子の声が聞こえた。
「バイバイおにいちゃんおねえちゃん。一緒に遊んでくれてありがとう」
あの子から最後に視えた色はたまらなく悲しい色をしていた。あの子がここで感じていた悲しみを受け止めることは僕には出来ない。けど見えた色の中に少しだけ輝く美しい春の色が視えた。あの子の名前のように儚くきれいな色。その色が僕たちと遊んで生まれた色ならいいな。君は僕の隣で涙を流す。頬を伝う一筋の涙には、君のやさしさが詰まっているように見えた。
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