新しい家
第1章 新しい家
オッティガは、ミシガン州のアッパー半島の最北端にあるキーウィノー半島で1月下旬に生まれました。コッパー ハーバーの旧砦から約7マイル東に位置しています。彼は4頭のカワウソの同腹子の中で唯一の雄でした。彼の名前、オッティガは、「群れのリーダー」の原住民名でした。
カワウソ達の棲家は、シュラッター湖に流れ込む小川の大きな白い松の切り株の中にありました。切り株は直径約8フィートで、根元が空洞になっていました。以前、マスクラット(訳註:北米産の齧歯類)は切り株の下と枝分かれした根の下にトンネルの迷路を掘っていました。そして、カワウソの赤ちゃん達が生まれたのは、その暗く乾いた通路でした。
木こりが何年も前にこの松の木を切った時、彼らは下の20フィートが空洞であることに気づきました。彼等はそれが崩れるがままに放置し、何年もの冬の雪と夏の太陽がそれをさらに腐敗させました。それは巨大な丸太で、端が開いているので、男の子や女の子が直立できる大きさでした。丸太の中には、木が腐っていない場所がいくつかあり、棚状の板となってほぼ全長にわたって残っていました。中空切り株のこれらの出っ張りは、大きな松の切り株の下にある地下の通路と共に、カワウソ達にとって格好の遊び場になりました。
オッティガの最初の思い出は、姉妹たちと鬼ごっこやかくれんぼをして過ごした幸せな時間でした。彼等はトンネルを前後に走り、大きな古い丸太に出入りし、短い小さな足で運べる限りの速さで走りました。彼等は疲れると一緒に丸まって眠りにつきました。時々、彼らは柔らかくて黒い毛皮で出来た1つの大きな球のように見え、4つの広い毛むくじゃらの尾と4つのヒゲとボタン鼻の小さな顔によって幼獣達が4頭いるとわかります。
鬼ごっことかくれんぼは楽しいことでしたが、オッティガはまだ幼い頃、人生にはのんきなゲームだけでなく危険が伴うことを初めて知りました。
その日は、キーウィーノー半島の春にありがちな、曇った霧の日でした。幼獣達は、取っ組み合ったり、レスリングをしたり、喜びのあまり金切り声をあげて遊んでいるとき、霧笛の悲しげな泣き声を聞きました。彼等がトンネルを駆け抜けたとき、遊びにあまりに熱中していたので、母親が餌を取りに行ってる間、松の切り株に留まるようにという命令をすっかり忘れていました。オッティガは外に駆け出し、彼と鬼ごっこをしていた妹のテタウィッシュがすぐ後に続きました。灰色の春光の中で、オッティガは切り株の周りを半周し、中空の丸太の中に潜り込んで隠れようと計画しました。
オッティガが丸太から約2フィート離れた時、テタウィッシュの怯えた悲鳴が聞こえました。彼が肩越しに一瞥すると、かろうじてアメリカワシミミズクが目に入りました。その鉤爪は大きく広がり、まっすぐ彼に向かって急降下している所でした。オッティガは恐怖に襲われました。フクロウの猛烈な攻撃をかわすために、彼は本能的に叫び声を上げながら後ろに下がりました。フクロウは一瞬戸惑いました。この赤ちゃんカワウソが安全な獲物なのかどうか確信が持てず、彼はためらいました。フクロウが舞い上がって2度目の攻撃を仕掛ける前にオッティガは中空の丸太に潜り込みました。そして端まで這い上がり、1つの棚の下に隠れました。
オッティガは恐怖に震えていました。母親に従い、安全な切り株の家の中にいればよかったと心の底から後悔しました。オッティガが静かに隠れている間、切り株の下に戻ったテタウィッシュは、オオフクロウが弟を捕まえて、フクロウの雛達の餌にするために連れ去ったと思いました。オッティガは静かにうずくまり、周囲の音に耳を澄ませました。しかし、とてもおびえていたので、静かにしているのはとても困難でした。彼はこれまで一人きりになったことはありませんでした。そして、すぐに囀るような鳴き声を上げ、助けを求め始めました。
オッティガの姉妹達は彼の声を聞き、巣穴から顔をのぞかせました。大きくて獰猛なフクロウが、切り株と丸太の間の木の切り株の上に止まって、オッティガが出てくるのを待っていました。姉妹たちは、弟に警告しようとしましたが、恐怖に襲われ、切り株の避難所の下に身をかがめました。しばらくの間、オッティガはまた静かにしていました。彼は用心深く這い出し、丸太の入り口にある棚の下から外を覗き込みました。彼は注意深く外を見ましたが、手遅れになるまでフクロウに気づきませんでした。フクロウが彼の頭をつかむために急降下し始めたとき、彼はやっとそれを目にしました。
ギリギリのタイミングでオッティガは丸太に戻りました。彼は恐ろしいフクロウが丸太に入ってきて彼を捕まえるのではないかと恐れ、恐怖で叫びました。フクロウはくちばしをカチッと鳴らし、大きな丸い目と羽毛の角が入り口に迫りました。その時突然、フクロウが丸太に入る前に、黒い毛むくじゃらの稲妻が飛び上がり、フクロウを足元から叩き落としました。獲物を獲りに行っていた母親が戻ってきたちょうどその時、オッティガの恐怖の叫び声を聞いたのでした。幅広い水かきのある足で風のように走りながら、満身に怒りを込めてフクロウに飛びかかり、口を目一杯開けてフクロウの逆だった羽に食いつきました。フクロウは羽の塊にしか見えなくなり、母親カワウソの足元に転がり落ち、もはや哀れな姿にしか見えなくなりました。オッティガの母親は、もうひと噛みするのは辞め、息子が無事かどうか確かめるために丸太の中に駆け込み、途中で口から羽を吐き出しました。
オッティガは母親に会えてこれほど嬉しいことはありませんでした。彼はまだ震えていましたが、彼女は彼を安心させるように軽く触れました。そしてくすくす笑いの声(chuckle)を上げながら丸太の入り口に戻りました。フクロウは飛び去っていました。慌てふためき、憤激し、生きていて良かったと感謝しながら。母親は振り向いてオッティガを呼び、自分の後について切り株に戻るよう促しました。しかし、オッティガはもはや、30分前そうであったような冒険好きのカワウソの赤ちゃんではありませんでした。彼が母親の後を追って丸太から出るまでには、少しなだめる必要がありました。そして安全な我が家に戻ると、彼は暖かく乾燥した巣穴の中の姉妹たちの近くに身を落ち着けました。
その夜、母カワウソは不安で落ち着きがありませんでした。彼女はこれ以上切り株にとどまることを恐れていました。彼女の子供達は急速に成長しており、用心するにはあまりにも楽しいことが満ち溢れていました。遊んでいる時や巣の外でトイレに行っている時など、いつでもフクロウに捕まる可能性がありました。母カワウソは自分の赤ちゃんに餌をやりました。そして完全に暗くなった時、彼女について小川を下っていくように子供達を呼びました。夜の安全な闇の中で、彼女は彼等を導いて小さな小川を下り、シュラッター湖に辿り着きました。それから彼らは湖のほとりに沿い、川が流れ出る所までやって来ました。
流出口とスペリオル湖のほぼ中間、シュラッター湖に流れ込む小川のほとりに、放棄された大きなビーバーの家を見つけました。それはカワウソの家族にとって完璧な家でした。ビーバー達は、利用可能な近くの木材をすべて切り倒し、前年に新しい場所に移動していました。彼等は、森に棲む他の家族が移り住むことが出来るように、家の中に居心地の良い巣を残していました。家は交差した棒で建てられ、厚さ約1フィートの厚さに泥で塗り付けて固められ、高さ数フィート、幅7フィート近くの粗い小山のような形をしていました。オオカミやオオヤマネコがそれを引き裂くことができないほどしっかりと構築されていて、斧を持った男でさえ、上部に穴を開けるのに相当苦労したでしょう。
家の中から地下通路がビーバー池の水につながっていました。彼等の新しい家を攻撃しようとする者がいれば、カワウソ達は気づかれずに水の中に逃げ込み、水中を泳ぎ、池の岸辺に隠れることができました。岸辺にも、森の中や、切り株や曲がりくねった根の下、そして中空の木の中へと逃げ込む多くの通路がありました。多くの隠れ場所は、遊びのことしか考えていなかい子供達を喜ばせましたが、母親のカワウソも喜ばせました。彼女は、秘密の巣穴が突然の危険からの避難所を提供できることを納得しました。夜明け頃、彼女はすっかり安心し、新しい家の中で彼女の疲れた子供達と一緒に丸まり、眠りにつきました。