更なる冒険
第20章 更なる冒険
オッティガとスリークは、暖かい8月の暗闇の中を泳いで家族の元に戻ったとき、すっかり仲良くなっていました。スリークの3頭の子供達は、父親と再び遊ぶ機会に大喜びし、父親はすべての子たちを率いて陽気に誰でも参加自由の遊びをしました。ブラックホーク、ネセダ、トマ、オライタは興奮のあまり、狂ったように水中でイルカ泳ぎをしたり宙返りしたりしました。スリークの子供達も楽しい乱闘に拍車を掛けました。
7頭全員がスリークを追っかけましたが、スリークは彼らよりもはるかに速く潜ったり、泳いだり、水から飛び出たりすることが出来ました。時々、彼らが彼を捕まえようとしたとき、彼は深さ12フィート以上ある池の底に飛び込み、軟泥で一杯の底に沿って泳ぎ、水面に自分の居場所を示す泡の鎖だけを残し、池の端にある流木の山の間に浮上しました。ビューティの子供達はどこで彼を探せばよいのか分かりませんでしたが、スリークの子供達は以前にもこのゲームをしたことがあり、隠れ場所を見つけるまでにそう時間はかかりませんでした。
スリークは彼らに別のゲームも見せました。土手の上にあった大きなハコヤナギの木が嵐によって根こそぎにされ、島を横切って倒れていました。スリークは木の枝を駆け上がり、主幹を登り、最後には土手から約12フィートの高さにある根の最上部までよじ登りました。カワウソ達は木の根の間から急な傾斜の土手まで滑り降り、そして土手から池へ滑り落ちました。この滑り台は木、根、堤防を含めて長さ20フィートを超え、オッティガの子どもたちがこれまで見た中で最も長く、最も急な滑り台でした。
スリークの小さなカワウソ達はスリークの後を追って木の上に登り、彼の後について飛ぶように斜面を滑り降りました。しかし、次に頂上に到達したブラックホークは、水面を見下ろした時、恐怖に身をすくめました。滑り台は非常に高くて急なように見えました。そして、抗議の囀り声を上げながら、慎重に這って地面に戻りました。スリークの女の子達は金切り声を上げて笑い、遊び仲間にもう一度挑戦するよう促しました。ついにオライタは、この子達にできることは自分にもできると腹を括りました。彼女はありったけの勇気を振り絞ってよじ登り、長い滑り台を滑り降りました。それがどれほど楽しいかを知った彼女は、兄弟たちにもゲームに参加するよう勧めました。
しかし、彼らはまだ半信半疑でした。彼らは根の上まで駆け上がり、滑り台の前半を滑り落ちて地面に着きました。しかしその後、滑るのを中断し、岸の別の場所に走って水の中に入りました。時間があれば、きっと彼らはオライタたちに加わるのに十分な自信を獲得したでしょう。しかし、両親が引っ越しなければならないと決めた時、彼らはここに数日滞在しただけでした。
オッティガとビューティは、11頭のカワウソは一か所で快適かつ安全に暮らすには多すぎることを知っていました。スリークとその伴侶と子供達には、この地域で入手できるすべての食べ物が必要でした。そしてまた、親カワウソ達は、家族がそれぞれ単独で暮らしたほうが、子供達の方が安心するだろうと感じました。その夜、オッティガとビューティと4頭の子供達は、新しい友達に別れを告げ、川を下る旅を続けました。
カワウソたちは途中にある多くの砂州で休憩を取って遊びました。川の数マイル上流にあるソークシティダムが開いた時、水位はその下何マイルも高くなります。しかし、朝になると水門は通常閉鎖され、水位は下がります。これが起こると、小魚や大きな魚さえも砂州の小さなプールや浅瀬で捕まえられ、カワウソは食べたいだけの魚を全て捕まえることに全く問題はありませんでした。しかし、彼らはよほどお腹が空いていない限り、あまり食べませんでした。なぜなら、ザリガニがいる限り、彼らはザリガニを好んだのです。
彼らはミル・クリーク、スプリング・グリーンのワゴン橋を通り、そして川沿いの素晴らしい自然地帯を通りました。静かな川の水域には島々が点在し、ブドウの蔓、ツタウルシ、トネリコ、ハコヤナギ、シナノキ、モクマオウ(swamp oak)が絡み合って、カワウソにとって素晴らしい隠れ家や寝場所を形成していました。ある島で、彼らは3頭の独身の雄カワウソが一緒に暮らしているのを見つけました。彼らは全員生後約1年半で、カワウソは2年目か3年目になるまで交尾しないため、これらの若い雄たちは夏の間一緒に生活をしていました。
独身カワウソ達は仲間が来たことをとても嬉しく思い、自分たちの島の家を自慢したいと思いました。西岸には、泳いだり餌を獲ったりするための一連の池や沼があり、それらはツタウルシ、イラクサ、低木が生い茂る小道で結ばれていました。島の岸辺にはいくつかの深い滑り台があり、島の最下部には通常の飛び込み塔(diving tower)がありました。これは滑り台ではなく、深さ16フィート以上のプールの上にぶら下がった高い飛び降り場でした。
独身カワウソ達は子供たちの前でパフォーマンスを見せるのを楽しみました。彼等は、土手から飛び込んで鼻先から着水し、ほとんど水しぶきを上げない方法を子供達に見せました。独身カワウソ達がどのように勧めても、子供達は全員、今回はオライタも含めて、このゲームに挑戦することに恐れをなしました。若い雄の1頭が水に飛び込み、中型のバッファローフィッシュ(buffalo fish、訳注:ミシシッピーバレーに生息する大型サッカー類)を捕まえ、誇らしげに岸まで運び、訪問者達に食べるよう誘いました。
子供達は礼儀として少し食べましたが、ザリガニでお腹が一杯なので、遊んだり探検したりすることにもっと興味がありました。彼らは砂州の周りを狂ったように競争し、宿主やお互いを追いかけ、一時はビューティさえもゲームに参加しました。しかし、独身カワウソ達が遊びで少し乱暴になったとき、彼女は立ち止まって心配そうに見守ることがよくありました。しかし、子供たちは決して不平を言ったり、泣いたりはしませんでした。
オッティガは彼らの家を探すために先に進んでいました。そして次の夜、彼は、川のさらに先の所から、ザリガニでいっぱいの細い小川が流れ出ている、という知らせを持って戻ってきました。昼寝の後、オッティガは早朝に家族を先導し、川の左岸を泳ぎ下りました。オライタと三人の兄弟達は、日光に照らされて茶色に輝く背中を優雅にアーチ状にしながら、硬い砂の上の海岸に沿って競走しました。すぐに彼らはスニード・ホローの河口にある特大の砂州に到着し、ここでオッティガは彼らを川から遠ざけ、スニード・クリークを上流へと導きました。
彼等が池から池へと移動しながら沼地を渡っていると、ザリガニがあらゆる方向に走り去って行きました。水の中で泳いでいると、ザリガニの群れが体やひげに群がっているのを感じました。体長1インチから3インチ、そして最大で6インチの大きな赤いwhisky-suckers(訳注:不明)まで、あらゆるサイズのザリガニがいました。カワウソ達はお腹がはち切れるまでザリガニを食べました。それでもザリガニたちは彼らの周りに群がり、何百匹も岸に這い出てきました。オッティガとビューティーはこれまでに多くの素晴らしいザリガニの生息地を見てきましたが、このスニードクリークに隣接する川底で見つけたほど多くのザリガニを見たのは初めてでした。
カワウソは食べれる限り食べた後、曲がりくねったスニード・クリークに沿って東へ進みました。夕暮れ時、彼らは川の分岐点に来て、右の分岐点を1マイル以上進んだ後、丘を越える古いカワウソ道にたどり着きました。高速道路を横切り、木々の尾根に沿って、窪地に下り、そして別の小さな小川に入り、ついにオッタークリークに出ました。ここでは、イラクサ、ブタクサ、セイタカアワダチソウなど、たくさんの茂み(cover)がありました。オッタークリークの反対側は牧草地ですが、隠れる場所が沢山ある静かな人里離れた地域でした。
オッティガは、岸辺の大きなニレの木の下に古いウッドチャック(訳注:北米産のマーモット)の巣穴を見つけました。そこが家族が眠る居心地の良い場所になりました。次の日は彼等はほとんど寝て、夕方に起きて冷たく暗い水の中を泳ぎ、ザリガニを狩りました。岸辺や川底にはザリガニが沢山いましたが、同じようにザリガニを食べるカミツキガメもいました。カメは頭だけを出して海岸沿いの泥の中に埋もれていました。彼らはザリガニやミノーが手の届く所まで泳いで来るまで静かに横になって待ち、それから飛び出して角質のクチバシで獲物を捕まえます。
子たちはすぐに大きなカミツキガメを避けることを学びました。なぜなら、彼らは気性が悪く、どちらかと言えばカワウソの足に噛み付きたがるからです。子供達は、たとえ姿が見えなくても、カメが隠れている場所の匂いを嗅ぐことができることに気づき、しっかりと距離を取りました。時々、ビューティはただの楽しみのために泥の下を掘り、カメを仰向けにひっくり返しました。彼らはこのからかいが気に入らず、蛇のような頭でビューティを攻撃しました。しかし、彼女はいつも彼らの怒りに満ちた突撃を避けました。
ある正午、子供達は目を覚ますと、母親を誘って土手を越え、牧草地に入り、小川から少し離れたところにある池に連れて行かせました。彼らは夏の終わりの日差しの中でしばらくここで魚を捕り、その後、傾斜したトウモロコシ畑の麓にある別の池への小道を辿りました。この池にはザリガニやオタマジャクシがたくさんいて、子供達は水しぶきを上げ、キーキー鳴きながら狩りをしました。
カワウソ達がザリガニを追いかけると、ザリガニは草の上に這い出ました。そしてすぐに、カワウソが追い出したザリガニやカエルを狙って、二羽の大きな白い鳥がやってきました。この白い鳥は白鷺でした。ウィスコンシン州のその地域では、この鳥は珍しいものでしたが、このつがいは近くを飛んでいて、子供達の鳴き声に引き寄せられました。子供達は足が長く、くちばしの長い鳥を少しも怖がりませんでした。旅の間に、彼らは大きなアオサギが水の中で静かに立ち、魚やザリガニを槍のような嘴で突こうと待っているのをよく見かけました。そして彼らは、これらの白鷺もアオサギと同じように友好的であると確信していました。
白鷺は池に着地し、必死になって泳いで逃げているザリガニやカエル達に襲いかかり始めました。カエルが地面に飛び出すと白鷺も追いかけ、カワウソと白鷺は一緒に彼等の夕食を追いかけました。もしカエルがカワウソの子の素早い攻撃から逃れたとしても、すぐに白鷺の槍のような嘴に捕らえられてしまいました。
ビューティとその子供達はとても楽しく過ごしていたので、日中であること、そして注意が必要な時間であることを忘れていました。彼らが互いに声を掛け合っていると、牧草地の上の畑で耕していた農夫が騒ぎを聞きつけて調べに来ました。彼は馬を柵に縛り付け、静かに池に向かって進みました。丘のふもとに来たとき、彼は立ち止まり、カワウソや白鷺が作る美しい光景を見て喜びました。
農夫がそこにいたのはほんの一瞬でしたが、ビューティが農夫の姿を目にしました。彼女は警告を鳴らして、白鷺が大きな白い翼を広げて飛び去ると、彼女は牧草地を横切り、小川の護岸に向かって走りました。子供達はすぐに後を追いましたが、すでに農夫は彼らの逃げ場を遮断しようと走っていました。子供達は、彼が自分たちの行く手に突然迫ってくるのを発見したとき、混乱と恐怖でうずくまりました。恐怖で麻痺し、死んだように横たわり、微かな身震いだけがまだ生きていることを示していました。農夫は彼らの隣にひざまずいて、好奇心旺盛に、しかし優しく一頭一頭を扱いました。
ビューティは、子供達が自分を追っていないことに気づいたとき、土地の小さな小高い丘の頂上まで旋回し、心配そうな囀り声を上げました。農夫が子供達を仰向けにひっくり返しているのを見た時、彼女は取り乱して彼に向かって走り出しました。しかし彼はなだめるような声で彼女にこう言いました。
「あなたの子供達を傷つけたりはしませんよ、お嬢さん。食事するのは夜にしたほうが安全ですが、昼も夜も私を怖がらないで下さい、私はあなたの友達ですから」
すぐに農夫は立ち上がり、トウモロコシ畑に向かってゆっくりと歩き始め、ビューティが子供達に駆け寄って心配そうに小川に連れ戻すのを見守っていました。
この新たな事件はビューティーにとってあんまりでした。そして彼女はオッタークリークにこれ以上滞在するのが怖くなりました。そこにはたくさんの食べ物と隠れ場所があり、快適で静かな場所でしたが。オッティガはこの事件について聞いて、先に進まなければならないことに同意しました。午後遅くに短い昼寝をした後、彼らはウィスコンシン川に戻る道を引き返し始めました。彼らは多くの近道をたどり、朝までに小川の河口の少し上にある藪とブドウの蔓で覆われた小さな島に到着しました。彼らはここで、イバラの茂みの中で丸まり、一日中青空の下で寝ました。彼らの新たな旅のきっかけとなった不安はすでに忘れられていました。そして彼らの心は陽気で、新しい旅行、そして新しく見つけるであろう迂回路のことを考えて心が弾んでいました。




