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あるカワウソの物語  作者: Nihon_Kawauso
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スリークの物語

第19章 スリークの物語


カワウソ達が新しい帰還者で目を覚ました時、太陽はまだ西の空に昇って2時間ほど経っていました。ここに住んでいる家族の父親であるスリークが探検旅行から戻って来たのでした。家のすぐ近くに見知らぬ家族の匂いがしたので、彼は驚きの声を上げました。ビューティの子供達は彼を見て怖がりましたが、彼は優しく笑い、表情豊かな優しい目で彼らを観察しました。このカワウソはオッティガとほぼ同じ大きさの美しいカワウソでしたが、水から上がったとき、子供達は彼の四肢が3本しかないことに気づきました。彼の左前足は完全に失われていました。


オッティガが主人である彼に挨拶するために泳いで来ると、スリークはまるで障害がないかのように優雅に確実に走ったり泳いだりして彼に会いに行きました。彼とオッティガはすぐに友達になり、長い夜を一緒に狩りをしたり泳いだりして過ごしました。


スリークは生まれてからずっとウィスコンシン川で暮らしており、ここから50マイルも離れていない所で罠にかかり片側の前足を失いました。当時彼は1歳で、両親や姉妹とともにウィスコンシン州の海岸沿いに住んでいました。その冬、罠はいたるところにあったようで、ある夜、彼が岸辺に上陸しようとしていた時、左前足が大きな二重バネの罠に引っかかってしまいました。それは水辺の木にワイヤーでつながれており、スリークはもがき、ひどい痛みから逃れようと川に飛び込みました。川の大部分は氷で覆われていましたが、その頃は春の小川が川に流れ込み、暖かい水がカエル、冬眠中のザリガニ、コイやサッカーの群れを引き寄せていました。そこはカワウソにとって理想的な冬の餌場であり、罠猟師たちはそれを知っていたに違いありません。


スリークは、ワイヤーの罠が許す限り、岸辺を上り下りしました。彼の母親は彼のところに来ようとしましたが、彼女は岸のさらに下流に仕掛けられた罠に捕まってしまいました。彼女が水に飛び込んだ時、足の罠が沈んだ木の根に引っかかり、彼女は溺死しました。スリークは助けを求め、疲れ果てるまでもがきました。彼は日が暮れるまで休んだりもがいたりを交互に繰り返したが、もはや続けることができず、身を丸めて体を温めました。


罠漁師が溺れた可哀想な母親を水から引き上げに来た時、彼は目を覚ましました。罠猟師が彼を殺すための棍棒を持って岸に沿って近づいて来た時、スリークは限りない恐怖に襲われ、その恐怖から生まれた力で川に飛び込みました。彼は締め付けられている前足にひどい痛みを感じましたが、その後自由に泳ぐことが出来ました。木に結びつけていた罠を固定していたワイヤーが切れ、スリークは重い罠に前足を挟まれたまま泳いで逃げました。


彼は水中に潜り続け、空気を求めて浮上しなければならない時だけ氷の端近くに浮上しました。さらに川を下り、彼はなんとか氷の上に上がりましたが、罠猟師は岸に沿って追いかけてきて、棍棒を持って再び近づいてきました。スリークは再び水に飛び込み、氷の下を下流に向かって苦しみながら泳ぎ、川のずっと下流の対岸にある古いビーバーのトンネルにたどり着きました。彼の毛皮は水浸しになり、水から這い上がった時には完全に疲れ果てていました。凶悪な罠が彼の前足の膝関節から上を捉えたままで、彼の前足は腫れ上がり、耐え難い痛みでズキズキと脈打っていました。


スリークは巣穴に這い込み、砂の上で体を弱く擦り、可能な限り体を乾かしました。擦っている最中に、罠の鎖が折れた根に絡みつき、彼の力があまりにも弱っていたので、それを緩めることさえ出来ませんでした。木の根に囚われの状態になり、彼を待っているのはゆっくりした餓死でした。しかし彼の体調はあまりに悪すぎ、気にすることさえ出来ませんでした。彼はまどろみながら、断続的な痛みを伴う眠りに落ち、時折目が覚めては鎖を弱々しく引っ張りました。


この時点でスリークの前足は腫れ上がり、肉が罠の轍の顎を覆っていました。彼は痛みに泣き叫び、赤ん坊のように泣きましたが、助けは来ませんでした。彼の体は燃えるような熱で焼けつき、食べ物も水もありませんでした。しかし、小さな氷の棚が洞窟の中に伸びていて、彼はそれをなめて乾いた喉を和らげました。罠があまりにも激しく食い込んだので、彼の前足の骨は体の近くで粉々に砕かれていました。そして2日目には折れた骨が肉と毛皮を突き抜けました。


幸いなことに、スリークは罠に捉えられる前に沢山の食べ物を食べていました。彼は太って健康な若いカワウソでした。そして今、彼の体は彼が蓄えていた余分な脂肪を引き出し、かすかな命の火花を保っていました。四日目、彼は弱々しい努力を繰り返し、鎖を繋いでいた根を断ち切ることに成功しました。そして巣穴の中を自由に動き回れるようになりました。彼は力なくビーバーのトンネルの奥まで這い、そこで冬眠中のザリガニとカエルを数匹見つけました。彼はそれらを貪るように食べましたが、空腹感は満たされず、それは今や罠に捉えられた前足の痛みよりも大きくなものでした。


乏しい食事をした後、スリークは放心状態で熱に浮かされた眠りに落ちました。彼は3日間ぐっすり眠りましたが、体調が悪すぎて何が起来ているのか分かりませんでした。壊疽が彼の腫れた肩の周りに発生しており、罠の轍の顎が血液循環をすべて遮断していました。皮も肉もビーバーのトンネルの暖かい空気の中で腐っていました。彼の体は日に日にやつれていき、発熱と空腹によって蓄えてきた体力は着実に奪われていきました。


10日目、スリークが目覚めたとき、気分は少し良くなっていました。熱がようやく下がったようでした。彼は大変な努力をして、水を飲むために這いずって行きました。しかし、彼が丁度水辺に到達したとき、裏切り者の罠が再び2本の根に引っかかり、彼をしっかりと捕らえてしまいました。やっと希望を取り戻しつつあった所に降りかかったこの新たな災害にスリークは半狂乱になり、弱った体に残っていた力を振り絞ってこの恐ろしい罠を引っ張りました。突然、奇妙な引き裂くような音がしました。そして彼は自由でした。根からだけでなく、罠からも自由でした。彼の哀れなメチャメチャになった前足はとうとう引き抜かれてしまい、体の近くにぶら下がった皮膚片だけが残っていました。


不思議なことにスリークは痛みをほとんど感じませんでしたが、最初はほとんど飛び跳ねることが出来ませんでした。彼は罠の重さにすっかり慣れてしまっていたので、罠なしではバランスをとることが出来ませんでした。しかし、巣穴の入り口まで足を引きずって歩き、水の中に転がり込むと、今までとほとんど同じように泳げることに気づきました。彼はこれまで、前足を体の近くに折りたたんで、後ろ足と体の動きで水中を進んでいました。前足を1本失っても、水中ではそれほど大きな支障はありませんでした。


スリークは最後に残った力を振り絞って岸に沿ってゆっくりと泳ぎました。極度に空腹であり、安全な休息場所を切望していました。川を少し下ると、湾につながる浅い湧き水のある沼地に来ました。澄んだ水の砂底に沿って滑り込むと、数匹のマスクラットの巣穴が岸に入っているのを見つけました。そのうちの1つからガサガサという音と水しぶきの音が聞こえたので、何が音を立てているのか確認するために力なく跳ね上がりました。水は空気を求めて水中から浮上してくる魚で沸き立っていました。ブルヘッド(訳注:頭の大きな魚の総称)、コイ、そしてクイルバック(訳注:米国産のサッカー科の淡水魚)などの魚の大群でした。スリークはほとんど努力することなく、食べられるだけの獲物を捕まえることができ、数日ぶりにお腹一杯食べました。


それ以上食べれなくなるまで食べると、彼はマスクラットの巣の一つに潜り込みました。そこでも彼は食べきれないほどの食べ物を見つけました - 何百匹ものカエルとザリガニがそこで冬を過ごしていました。スリークは完全に良くなるまでそこに留まることにしました。彼は前足が治るまで何もせずに食べては休みました。2週間も経たないうちに彼の傷は完全に治り、足と体がつながっていた部分の毛皮に傷跡だけが残っていました。


スリークは二度と家族に会うことはありませんでした。彼が元気で強くなり、3本足で生きる方法を学んだとき、彼はいつも父親と姉妹を探しながら、何マイルも川を上り下りしました。しかし、彼らも罠に捕まって逃げ遅れたに違いありませんでした。オッティガと同じように、彼も配偶者を、そして家族を得る幸せを見つけるまで、孤独な2年間を過ごしました。


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