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あるカワウソの物語  作者: Nihon_Kawauso
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脱出

第17章 脱出


オッティガが古びたカワウソ道に沿って罠猟師の小屋に近づいた夜、かすかな夏の風が川を渡り、木々の間をかき混ぜていました。彼にブラックホークの匂いをもたらしたのはこの風でした。そして希望と期待で興奮し、感覚を研ぎ澄ましていると、悲しく悲しげな鳴き声が何度も繰り返されるのが聞こえました。オッティガは、はやる思いで、その声が聞こえてくると思われるフェンスに向かって忍び寄りました。風はもう渦を巻いており、ミンクの匂いしか感じられませんでした。それから、カワウソの微かな匂いが再び彼に感じられ、オッティガは静かに尋ねるように囀り音を上げました。一瞬すべてが静まり返りましたが、突然、高い板の柵のすぐ後ろで、楽しそうな囀り声とチャックル音が起こりました。オッティガはついにそれがブラックホークであると確信しました。


ブラックホークは、父親がこんなに近くにいることが信じられませんでした。彼は喜びのあまり、何度も呼びかけ、父親に来てくれるように懇願しました。オッティガはフェンスに沿って走って慎重に探し、すぐにその下を這うことができる穴を見つけました。あっという間に彼はブラックホークの檻の横に来ていました。2頭は喜びのチャックル音を上げ、ワイヤー越しに鼻をこすり合わせながら前後に走り回りました。ブラックホークは嬉しさのあまり、両足を空中に上げて仰向けに転がりました。オッティガはすぐにブラックホークを外に出そうとし始めました。最初、彼は前足で金網を引っ掻いたり、引き裂いたりしていましたが、それでも効果がないとわかると、金網を歯に挟んで引っ張りました。金網はブラックホークを保持するのに十分な強度がありましたが、オッティガの強力な顎には抵抗できませんでした。すぐにオッティガはブラックホークが通り抜けるのに十分な大きさの穴を金網に開けました。


この時には、罠猟師の犬が騒ぎを聞きつけて吠え始めていました。罠猟師は、犬が月かミンクに向かって吠えているのだと思いました。そしてベッドに寝返りを打って、眠そうな声で「シェップ、静かにしろ!」と叫びました。シェップは吠えるのを止めました。犬は、なぜ御主人様がこれらの奇妙な野生動物を家に持ち帰り、生かし続けているのか理解出来ませんでした。しかし、ミンクに近づいたり、ミンクに吠えたりすることは禁じられていたので、庭に滑り込んだばかりのこの大きなカワウソに吠えてはいけないのは間違いありませんでした。マルセルがブラックホークの声と混ざり合った見知らぬカワウソの声を聞いたとして、何が起きているのか考えたかどうかは誰にも分かりません。もし考えたとしても、彼女は静かに横たわって誰にも注意せず、カワウソの赤ちゃんをそのまま自由にさせたでしょう。


オッティガとブラックホークはフェンスの下の穴をすり抜けて逃走しました。オッティガは森の中を先導し、尾根を越えて池まで道を戻りました。池ではビューティと3頭の子供達がおやつを食べに時間をとっていました。ビューティは池に着く前にブラックホークの匂いを嗅ぎつけました。彼女は狂ったように喜び、走って彼らに会いに行きました。そしてまるでその子が本物であることが信じられないかのように、戻ってきた我が子に鼻をすり寄せてキスをしました。


ブラックホークは母親に再会できて嬉しそうにチャックル音を上げました。そしてしばらくはただ抱っこされて赤ん坊のように甘えました。ビューティは心配そうに彼を調べましたが、彼は他の子供達とほぼ同じように太っていて健康そうに見えました。

彼の折れた歯と変形した足先だけが、彼の悲しい冒険を思い出させました。他の子供達は、喜びと大興奮で彼を出迎え、彼の全身の匂いを熱心に嗅ぎました。彼の毛皮についた沢山の奇妙な匂いは彼らを夢中にさせ、混乱させましたが、彼らは彼がまだ彼らが知っているのと同じ遊び好きな兄弟であると分かりました。


オッティガも楽しい鼻を擦り付け合いながらのおしゃべりに加わりましたが、早く出発したがっていました。彼は、田園地帯のこの地域から出来るだけ遠くに行くべきであることを知っていました。なぜなら、罠猟師は間違いなく、ブラックホークを再び見つけようとして、川や近くの池や湖を捜索するでしょうから。家族の興奮が落ち着くと、オッティガは、罠猟師の小屋の周りを大きく迂回して大きな沼地に家族を導き、それから古いカワウソ道を伝い、川に戻りました。


その夜、彼らは順調に旅をしましたが、ブラックホークの足はまだ痛んでいたため、いつもより遅いペースでした。泳ぐときは気になりませんでしたが、陸に上がると痛みを感じました。それにもかかわらず、朝までに彼らはわな猟師の小屋から5マイル以上離れており、捜索されても安全であることはほぼ確実でした。夜明けに、彼らは夕食のためにビューティが捕まえた大きなカワカマスを食べ、それから野生のクランベリー湿原にある古いビーバー小屋で丸まって眠りました。


高さ20フィートの家は、罠猟師によって上部が切り開かれていましたが、古いビーバーの巣の上には、中に眠るための十分なスペースがありました。ブラックホークはビューティの首に頭を乗せて嬉しそうに丸まり、一方オッティガは近くのクランベリーの茂みの下の苔の上に簡素な巣を作り、危険が迫った場合に家族に警告できるようにいつものように野宿しました。


暖かい7月の夕方早く、オッティガは起きてザリガニを捕まえ始めました。ここには、長さ約1インチの小さなものともっと大きなものが沢山ありました。ビューティと子供達が目を覚ますと、彼らも餌探しに加わりました。カワウソ達がばちゃばちゃ歩き回ったので、ザリガニは草が生い茂った土手の下に逃げ込みました。そのため、カワウソ達は冷たい緑色の水に潜り、ザリガニが自分たちの髭に触るのを感じるまで草の根の下に頭を突っ込んで探りました。それから彼らはただ口を開けてザリガニを掬い取りました。カタツムリ、水棲昆虫(water bug)、そして泥なども飲み込んでしまいましたが、泥は少しも気にしませんでした。カワウソは粗質食料(Roughage、訳注:栄養価は低いが、腸の蠕動を促進する繊維質の多い食物)が好きなので、それはすべてカワウソの胃に合う食べ物でした。


お腹いっぱい食べた後、子供達は遊び始めました。彼らはブラックホークが再び彼らのもとに戻ってきたことを喜び、彼は新たに自由を取り戻したことに大はしゃぎでした。彼はずっと囲いに入れられていて、砂や木の葉で体を擦ることが出来なかったので、彼の毛皮は荒れ、乾燥し、脆い状態になっていました。彼は数分ごとに転がったり、体を擦ったりしました。しかしすぐに、毛の根元にある油腺が再び活発になり、彼の二重層の毛皮は、本来あるべき滑らかで防水性のあるものになりました。


ビューティとオッティガはどちらも、事故が多発しそうなこの地域から大切な我が子を連れ去りたいという衝動に未だに取り憑かれていました。その結果、彼らは一か所に一晩以上滞在することはほとんどありませんでした。安全の必要性だけでなく、祖先の呼びかけも彼らに旅を促しました。開けた湖と速い流れへの誘惑は抗いがたいもので、子供達もすでに同じ放浪癖を感じていました。カワウソの心の奥底には気ままな放浪への強い欲求がありました。そして、たとえある池に食べ物が豊富にあったとしても、彼らの放浪者としての魂は彼らを次の湖、より遠くの川、遠くの未知の海へと駆り立てました。

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