迫り来る危険
第13章 迫り来る危険
オッティガとその家族にとって、幸せな日が続きました。子供達がスライディングに飽きたときは、流木の山で遊ぶことができ、いつも新しい場所、新しい隠れ場所を見つけることが出来ました。彼らは疲れ果てると、丸まって短い昼寝をしました。それから彼らはザリガニの昼食を食べるか、又は、オッティガかビューティーが食生活に変化をつけるため、大きなサッカーを捕まえてきます。暖かい夕方、たくさんのトビケラが繭から孵化しました。そして、これらが飛び回ると、子供達は岸辺や水の上で彼らを追いかけ、そのギクシャクした飛び方に魅了されました。時々、彼らは実際にそれを捕まえて、とてもおいしそうに食べました。
この遊びにより、オライタは危うく自由を奪われそうになりました。ある暖かい霧の夕方、カワウソたちは一列になって蛇のように急流まで泳いでいましたが、時折隊列を破り、溢れるほどいたミノー(minnow、訳注:コイ科の小魚)を捕まえました。彼らが川の曲がり角を曲がったとき、オライタは沖合の渦の中を漂うきれいな色の蛾を見つけました。彼女は非常に巧妙に水面下に潜り、蛾を怖がらせて飛び出させないように、ほとんど動かずに流れに乗って細心の注意を払いながら蛾に向かって泳ぎました。彼女は距離を正しく測り、突然飛び上がって蛾をつかみました。
しかし、この蛾は、彼女が食べた他の蛾のようには行動しませんでした。それは彼女の口をひどく刺しました。彼女はそれを吐き出そうとしたが、その蛾は出ていきませんでした。オライタは助けを求めて叫び、ビューティとオッティガが彼女を助けに駆けつけました。オッティガですらこれまで一度も漁師の毛針(fisherman's fly)に遭遇したことがなかったため、オライタが毛針に引っ掛かったことに誰も気づかませんでした。オライタは猛烈に泳ぎ、逃げようと戦ったが、強く引っ張れば引っ張るほど、引っ掛かった口の部分が痛くなりました。オッティガとビューティは彼女の周りを必死に泳ぎましたが、漁師の釣り糸が徐々に彼女を岸に近づけていきました。
一方、漁師は岸に立ち、珍しい獲物を獲ったので楽しんでいました。オッティガは、そこにいる男が、娘が味わっている苦痛の原因であることに気づくと、すぐに、男の足元の水の中で立ち上がり、鼻を鳴らして怒りの叫び声を上げました。これに漁師は驚いて、一瞬水面から後ずさりして、リールから糸が外れてしまいました。自由に動けると感じたオライタは、自分についてこいと哀れな声で叫んでいるビューティに向かって泳ぎ始めました。しかしほぼ同時に漁師は再び糸を巻き始め、オライタは容赦なく岸の方へ引き戻されました。
ビューティは不安で荒れ狂っていましたが、どうやって助けていいかわからず、苦しみ、もがきながら引き離されていく子供を見つめていました。彼女は何が起こっているのか理解できませんでしたが、本能が命じるまま、オライタを歯と前足で掴み、川に引き戻そうとしました。幸いなことに、ビューティが釣り糸にさらに重みを加えたおかげで、オライタの口からフックが外れるのに十分な力がかかり、突然オライタはフリーになりました。母と子は潜って姿を消し、すぐに家族全員が巣穴に無事に戻りました。かわいそうなオライタは口から血を流し、数日間痛みを感じましたが、彼女は若くて健康だったので、すぐにつらい経験から立ち直りました。
そのような事件があってから後は、夕方、カワウソ達は完全に暗くなってから急流のふもとにあるザリガニの生息地まで泳ぎました。漁師たちが毎日川岸に来るようになったので、彼等は日中の外出をますます避けるようになりました。夕方であっても、急流のふもとでは2、3人の釣り人がマスを釣っていることがよくありました。オッティガとビューティは悲しみと不安を感じながら自分たちの領土への侵入を見つめていました。そして、家族をこの素晴らしい遊び場から移さなければならないと悟り、彼らの心を痛めました。
ビューティは特にそこを去るのが嫌でした。島の家のように素敵な場所を他に見つけるのは難しいと知っていたからです。流木の山と滑り台、豊富なザリガニの生息地、広々としたマスクラットの巣穴はすべて彼女の家族にとって理想的でした。しかし、家族全員の安全が危険にさらされており、彼女は移動しなければならないというオッティガの意見に同意しました。その日、子供達が眠っている間に、オッティガは新しい家を探すために川を泳いで下りました。
もしオッティガが数日前に家探しの旅に出ていたら、家族はその後の悲しい出来事を免れたかもしれません。すでに多くの漁師がカワウソが川で泳いで遊んでいるのを目撃していました。そして、その光景を楽しみ、森の生き物たちに危害を加えないことを願う漁師もいたが、魚がうまく捕れなかったときにカワウソのせいにする漁師もいました。
人々は長年、カワウソは主に魚を食べて生きており、人間の漁師のスポーツを台無しにしていると信じていました。州の漁業狩猟局(fish and game departments)が毎年数百万匹の子マスや狩猟魚の稚魚を放流しているにもかかわらず、湖や小川の魚がどんどん減っているように見えるのは事実です。そして、カワウソは時々釣り川で見られたので(一人か二人の年老いた木こりは、魚をくわえたカワウソを実際に見たかもしれない)誰もがカワウソが国の魚を食い荒らしているという結論に飛びつきました。
カワウソを注意深く観察して研究したり、カワウソの食性を観察して水路沿いでの生活パターンを理解しようという人は誰もいませんでした。もし知っていれば、カワウソの餌の90パーセントがザリガニであることがわかったでしょう。ザリガニは、小川や池に生息し、何百万匹も繁殖して増える、ロブスターのような狡猾な生き物です。そして、木こりや漁師がもっと近くで観察していたら、カワウソが食べるのはこれらのずる賢い年老いたザリガニと、放流された稚魚をガツガツ食べる水蛇、であることがわかったでしょう。
漁師たちは常にザリガニはバスやマスの餌だと考えていました。魚が成長したときも同様です。しかし、ザリガニを食べる立派な大物魚1匹につき、ザリガニが幼少期に殺してしまう何千匹もの稚魚が存在します。心配している漁師たちは、カワウソが時折食べるサッカーやカワカマスを見逃すことはありません。しかし、近年は少なくなったとはいえ、カワウソの姿が見えたため、漁師たちは魚がいないのはカワウソのせいだと非難しました。彼らは、岸辺や海岸の隠れた隙間に群がっているザリガニに対しては決して疑いませんでした。
この誤った信念と、可能な限りすべての魚を自分のものにしたいという彼らの欲望により、漁師たちはウィスコンシン州魚類狩猟局を説得し、オティガとその家族が島で暮らしていたラングレード郡でカワウソの解禁シーズンを宣言するよう説得しました。カワウソは捕食者であり、一年中いつでも罠や銃などの手段でカワウソを殺してもよいとの判決が下されました。
通常、貧しい森林地帯の毛皮を持った動物が罠に注意しなければならない日は、年間のうちわずか30日から60日だけです。しかし、ここラングラード郡では、通常の罠猟シーズンから何ヶ月も過ぎた7月初旬、何も知らないカワウソに罠を仕掛けることが合法になっていました。年老いた父親と1歳の子供、授乳中の母親とその無力な赤ん坊ーー森の古い迷信のせいで、それら全員が合法的に殺害されることが許可されていました。




