表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるカワウソの物語  作者: Nihon_Kawauso
12/27

水泳のレッスン

第10章 水泳のレッスン


猟犬との戦いの後、ビューティが巣を離れた時はオッティガが巣のそばに留まりました。ビューティが赤ちゃんを守るために巣に戻るまで、彼は餌を食べに行くことはありませんでしたが、彼女と一緒に小川で一緒に泳いだり魚を獲ったりするのは大きな誘惑でした。それでもオティガは満足していました。ビューティが、彼に家族の近くに居ることを許可してくれたことを喜んでいました。そして、子供たちが巣を離れて父親のことを知る日が来るのを待ち望んでいました。ビューティとオッティガは時折猟犬との戦いを思い出し、心配そうに静かな冷たい空気の匂いを嗅ぎ、猟犬が戻ってこないことを確かめました。しかし、彼らは恐れる必要はありませんでした。その犬は二度と森のその箇所に戻って来ず、カワウソの足跡の匂いがするたびに反対側の道に逃げました。


日が長くなり、4月中旬には春の鳥が木々に鳴き始めました。子供達の目は完全に開き、丸太の家を探索して楽しい時間を過ごしていました。丸太の根の一部は中空で、いくつかの中空の枝が幹から伸びていました。これらは元気な子供達にとって素晴らしい隠れ家となり、古い丸太が足元で震えるまで走ったり追いかけたりしました。根の近くの丸太の一端は、子供達のトイレとして使われ、必要に応じてそこに走り、巣と遊び場を清潔で整頓された状態に保ちました。


子供達の歯はすぐに現れ始めました。口の奥に針のような大臼歯が上に2つ、下に2つ、口の前の牙の間のに鋭い切歯がありました。彼らが生後8週間になると、ビューティはカエルやザリガニを彼等に齧らせるために持ってきました。彼らは乳の食事にこれらを加えるのが好きで、殻や骨を砕くのは彼等の顎にとって良い運動になりました。


ある晩、ブラックホークは、ビューティが食事に出かけたとき、彼女に続いて丸太から追い出しました。彼らの家の入り口は岩の上にあり、ブラックホークは這ったり転がったりして簡単に降りれることがわかりました。無事に下に降りると彼は周りを見回しました。彼は、すべてがいかに大きくて奇妙に見えるかを見て驚きました。雪はほとんど溶けており、地面の見知らぬ岩とそびえ立つ松の木が彼を怖がらせました。彼は恐怖でさえずり声を上げ、母親を呼びました。


耳をつんざくような鳴き声を聞いたビューティは、同じく調べに来ていたオッティガを追い越して走って戻ってきました。ビューティはブラックホークの首のたるんだ皮膚をつかみ、ずっとチャックル音を上げたり叱ったりしながら、彼を丸太の中に入れました。彼女はカワウソ語で、彼女が巣に戻るまでは丸太から出ないように子供達に警告しました。フクロウやタカが急降下してきて彼等を攫っていく恐れがあったからでした。


子供達は皆、ブラックホークが見た驚異を見たくてたまりませんでした。4月の終わり、晴れて暖かくなり、吹き溜まりが積もった小さな山を除いてすべての雪がなくなったとき、ビューティは子供達に外に出るように呼びかけました。ネセダは最初は怖がっているように見えましたが、少しなだめた後、他の子たちと一緒に転がり出ました。最初、彼らの目には太陽の光がまぶしく、足元の松葉で覆われた岩場が奇妙に感じられました。しかしすぐに慣れ、背の高い松やほっそりした白樺の間で興奮し、夢中になっって戯れました。彼等にとっては全く新しい世界なので、子供たちは喜んで走り回り、すべての岩や茂みを探索し、お互いの影を追いかけました。トマは松ぼっくりを見つけてくるくると転がしました。真っ直ぐ行かせようと試みましたが、どれだけ慎重に前足で押しても円を描くように転がってしまいました。彼が成獣になった時でも依然として理解不能でした。


それから毎日、彼らは外に出て丸太の周りではしゃぎ回り、多くの松の切り株の間や、木の根の下の穴や洞窟でかくれんぼをしました。時々、オッティガは彼らに加わり、彼が父親になった4頭の小さな子供達を、愛と誇りに満ちて見守っていました。子供達はすぐに彼を知り、母親と同じように彼を愛するようになり、彼が遊びに参加すると興奮して熱狂しました。ビューティは彼らの上の丸太の上に横たわり、警戒を怠りませんでした。何か怪しいものが現れたら、彼女は鼻を鳴らして警報を鳴らし、その鳴き声で子供達は避難所を求めて丸太の中に逃げ込みました。


ある日、オライタは母親の警告に従う必要はないと考えました。ビューティは初めて自分の子に腹を立てました。彼女は娘に駆け寄り、罰として娘を掴んで揺さぶりました。驚いて落ち着いたオライタは、急いで丸太の中に駆け込み、その後に囀り音を上げてまだ怒りながっている母親が続きました。ビューティーは、子供達の命そのものが、注意を怠らず、あらゆる警告に従順であるかどうかにかかっていることを知っており、この教訓を明確に叩き込みました。オライタは母親に従わないことは二度とありませんでした。


美しい春の日々が続きました。夕方には沼地でカエル(spring peeper、訳註:米国東部とカナダ産の茶色い小型のカエルで、春先に湿地で甲高い声で鳴く)が鳴き、毎日太陽が松葉を暖かく照らしました。オッティガとビューティは、みんなが一緒にいられる新しい家を見つける時が来たと感じました。オッティガは、丸太から約1マイル離れた所に、沼地の中にあって、そばを小川が流れている素敵な池を見つけました。池の近くには大きな岩があり、その下には大きなウッドチャック(訳註:北米産のマーモット)の巣穴がありました。オッティガは、これが家族にとって素晴らしい新しい家になると判断し、ビューティはがれきを片付け、危険が近づいたときに子供達が隠れるための巣を作りました。


彼らが引っ越した日、子供達は水泳の最初のレッスンを受けました。オッティガとビューティは彼等を導いて、森の中を通り小川までやってきました。水は岩や小石の上を穏やかに流れ、太陽の光を浴びて輝いていました。ブラックホークとオライタは何も考えずに飛び込みましたが、その途端びっくりました。彼らは、陸上のように水の上を歩くことが出来ないことに気づきました。彼等の頭は水の中に沈み、彼等は水飛沫を上げながら、もがき、喘ぎました。ブラックホークはなんとか一人で岸に戻ロイましたが、ビューティはオライタの助けを求める鳴き声を聞き、泳ぎはじめました。ビューティーは彼女を岸に向けて鼻で押しやり、励ましのチャックル音を上げながら、オライタの小さな頭を水面上に保ちました。トマとネセダは、水から充分離れたところにいて、大きな不安を抱いて一部始終を見ていました。


4頭の子供達が全員岸に揃うと、ブラックホークとオライタはずぶ濡れでぐしょぐしょになり、まだ鼻から水をくしゃみをしていましたが、ビューティは池のほとりで食べ物を探し始めました。彼女は池の端に沿って水中を泳ぎ、水没した木の根や土手の小さな隙間を、彼女の硬くて敏感な髭で探りました。もしそこにザリガニやカエルが隠れていたら、大抵の場合いるのですが、彼女はそれが見えなくても感じることが出来、それらを口でパクッと捕まえました。彼女の髭は、どれだけ長く水中にいたとしても、柔らかくなったり、誤った情報を与えたりすることはなかったので、決して彼女を失望させませんでした。


その間、子供達は岸を行ったり来たりして、楽しく遊んでいましたが、水の中で泳ぐ、という厄介ごとに挑戦する気はさらさらありませんでした。しかし、彼等はお腹を空かせていました。そしてビューティはカエルやザリガニを見つけると、「ウンハ!ウンハ!」という叫び声を上げました。それは「子供達ここに来なさい、食べ物があるわよ!」を意味する呼び声でした。子供達は彼女が獲物を捕らえた岸辺まで一目散にやって来ました。そのうちの一頭が獲物を取ろうとして体を伸ばすと、ビューティは獲物を放しました。カエルやザリガニは飛び跳ねたり這い去ったりし始め、しばしば再び池に飛び込みました。お腹を空かせた子供は、それを捕まえるために水の中に誘い込まれます。オッティガは水の近くに待機していて、ザリガニがあまりに遠くに行くと飛び掛かって子供達の所に戻しました。


このようにして、ビューティーとオッティガは徐々にブラックホークとオライタを水中に誘い込んでいきました。そして子供達は水かきのある幅広の足を掻くことで浮いていることが出来るとわかると、有頂天になって水しぶきを上げました。しかし、ネセダとトマはまだ臆病で、オライタとブラックホークがザリガニをむさぼり食っているのを羨ましそうに見ていましたが、泳いで追いかけようとはしませんでした。ビューティは何度も誘いましたが、彼等は岸辺で尻込みし、悲しげに囀り声を上げていました。


ついにオッティガが泳ぎだしました。彼はネセダのうなじをつかむと、チャックル音を上げて勇気づけながら、彼をそっと水中に引き込みました。最初ネセダは泣いてもがきましたが、水が冷たくて柔らかいことを感じ、父親が彼を支えているのを知ったとき、これはとても楽しいと思いました。彼は恐れることをやめました。そしてオッティガが彼を水につけ始めた時、ネセダはその度に息を止め、それを楽しい遊びだと思いました。彼はリラックスして、足と尻尾で水しぶきを上げ始めました。いつの間にかオッティガは彼を離し、彼は一人で泳いでいました。オッティガは少し泳いで離れ、ネセダに来るように呼びかけました。ネセダは、水掻きで水を掻くコツを習得すると、すごい勢いで漕ぎ始めました。オッティガは、ネセダのそばで泳ぎながら、誇らしげに彼を鼻でつつきました。ネセダは今までに泳ぎを覚えたカワウソの中で最も幸せなカワウソでした。


誇りと興奮に満ちたネセダは、まだ岸辺で寂しげに立っているトマの所まで泳ぎました。彼はうれしそうにチャックル音を上げ、水に入るように促しました。しかし、トマは挑発には乗りませんでした。彼はひどく取り残されていると感じながら、海岸に沿って行ったり来たりしました。ついにビューティは、オッティガがネセダにやったように、トマの首をつかみ、トマは哀れな囀り声を上げながら水の中に運ばれました。ビューティは静かなカワウソ語で彼をなだめ安心させました。そしてすぐに、流れる水の心地よさに彼は恐れを忘れました。


やがて、トマは他の子供達と水しぶきを上げ、4頭の子はすべて最初の水泳のレッスンをマスターしました。彼らがオッティガやビューティーのように熟練した泳ぎ手になるには、何ヶ月もかかるでしょう。しかし、彼らは小川に沿ってのんびりと旅をし、マスクラットの巣穴にある新しい家にたどり着くことが出来ました。


マスクラットの巣穴に落ち着くと、彼等はより多くの時間を水中で過ごすようになりました。毎日、彼らは前庭の池で水しぶきを上げたり、戯れたりしました。彼らの泳ぐための筋肉は、水に飛び込んだり、転がったり、互いにレスリングしたり、水生昆虫を追いかけたりするにつれて、より強くなりました。しかし、彼等は、オッティガと一緒に泳いでいるときが一番幸せでした。彼らは彼の下に潜り、背中を這い、鼻をかみ、彼を水の中に沈めようとしました。オッティガは溺れているふりをして、水中に沈むたびに大きな泡の筋を立てました。それから跳躍して、彼は水から飛び出し、子供達の周りをすごい勢いで回りました。もちろん、彼らはついていくことができませんでしたが、彼がそばに近づくと、彼を捕まえようとしました。突然、オッティガは水の下に静かに姿を消しました。子供達は彼を探しに探し回り、やっと土手の下で見つけた時、彼は子供達が自分を探しているなど毛頭も頭になく、魚を探したり獲ったりしていました。


しばらく泳いだ後、家族全員が土手に上がり、葉や苔で体を乾かしました。時には岩棚の下の砂の中を転がることもありました。乾いた砂でこすることで毛皮が滑らかになり、油腺が刺激されて、毛皮が水を弾くのを助けました。しかし、ほとんどの場合、彼らが転がり回るのはそれが楽しいからでした。なぜなら、長時間泳いだ後それをすると、とても気持ちが良かったからです。


ある棚の下には、前年の秋に風が吹き寄せて出来た、枯葉の大きな堆積物がありました。ブラックホークは枯葉を掘り、のぞき、そしてネセダに低い声で誘いました。ネセダが彼に向かって突進すると、彼は飛び出し、葉を四方八方に散らし、そこを離れました。しかし、滑りやすい枯葉の中を進むのは大変でした。なぜなら、彼等が激しく走るほど、大きな枯葉の塊の中に深く沈み込み、時には完全に見えなくなることもありました。


この遊びに飽きた子供達は、森の床を走り、木の周りに大きな円を描きました。彼らはかわしたり、ひねったり、突進したり、向きを変えたりし、1頭が捕まると、全員が太くのたくる山に積み重なり、嬉しさのあまり、掴んだり、鳴き声を上げたりしました。ビューティとオッティガは時々この遊びに参加しましたが、子供達よりずっと前に飽きてしまいました。それから彼らは近くに横たわり、子供た達が遊んでいるのを愛情を込めて見守っていました。子供達は頻繁に、母親と父親が横になって日光浴をしている場所に駆け寄りました。彼等は両親の上を飛び越えて、跳ねガエルの遊びをしたり、彼等のそばに寄り添ったりしまし子供達は、楽しそうなチャッター音を上げながら、両親を押し返しました。彼らは、激しい運動で疲れて眠ってしまうまで、暖かい太陽の下で遊んでいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ