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第四章 王弟殿下の来訪 ②王子様

ようやく再会です。

 甘い香りと共に馬車から降り立った王弟殿下ことサージェスト公爵は、まさに王子様だった。


 いやまあ、本当に王子様なんだけども……。


 何あのキラッキラした生き物!

 カッコイイなんて軽々しい言葉じゃ足りないわ。

 なんていうか、神々しいって言うか、簡単に触れちゃいけないって言うか……尊い?

 そう、まさにそれよ! 尊い! そんな感じ!


 前回王宮で偶然遭遇した時とは違い、本気で着飾った王子様の破壊力は予想を上回るものだった。

 ホールに彼が近づくにつれ、どんどん甘い香りが濃くなっていく。


 私はあの人の番いなのか……。


 気づけば、ぼーっとサージェスト様を見つめてしまっていて、そこで不意に彼と目が合った。


「……っ!」


 その途端、彼にウィンクをされて、驚きのあまり思わず顔をプイッと背けてしまう。


 え!? 何なに!? 何なの、あのアレ!! なんか光線飛んできた!?


 心臓の鼓動が急に速くなって、ドキドキとうるさい。

 心なしか顔もほてっている。


 マズいわ……。

 アイドルにハマる人の気持ちがわかってしまったかもしれない。


 じゃなくて! ヤバイ……目が合って、ウィンクされて顔背けちゃった……!

 絶対気を悪くしたよね。どうしよう……。


 不安に思って、もう一度サージェスト様の方をこっそり垣間見ようと背けた顔を戻したら、なぜか目の前にその人が居た。


「へ?」


 一瞬何かわからず、間抜けな声が出てしまう。

 目の前にはキラッキラの王子様がニコニコと私に向かって微笑んでいる。


「ええ!?」


 そして、私はすぐに悲鳴にも似た声を上げて口をぱくぱくさせながら、後ずさった。

 サージェスト様は私の声と反応にオロオロしつつも、必死に取り繕おうと身を屈めて私の表情を覗き込む。


「すまない。本当に申し訳ない。驚かすつもりなんてなかったんだ……だが、その、目が合ったらたまらなくなってしまって……我慢できなくて、思わずそばまで来てしまった」


 ワンコが耳をぺしょんとさせたような、しょんぼりとした表情で我慢できなかったとか言われても……。

 キラキラした生き物が目の前に来ただけでいっぱいいっぱいな私には、至近距離でお顔を直視しているだけでもう限界よー!


「あ……あの……」


 必死に挨拶しようとするけれど、言葉にならなくて、先が続かない。

 けれど、サージェスト様はそんな私の様子を愛しそうに見つめると、そっと私の手を取った。


「私の愛しい人。再び会えるのを本当に心待ちにしていた」


 そう言うと、片膝をついて、取っていた手に触れるだけのキスを落とす。

 見つめる視線の熱量に、それでなくてもほてっていた頬がさらに熱を持つのがわかった。


「あ、あの、私も……お会いできるのを楽しみにしておりました……」


 勇気を振り絞ってなんとか言葉を発した時だった。


「はい! 殿下もキリアも、一旦そこまで!」


 カイン兄様の声が響く。


 そして、私の体はキース兄様に後ろから抱き込まれ、サージェスト様から引き剥がされる。

 同じようにサージェスト様もお父様が前に立ちはだかり、私から引き剥がされていた。


「とにかく屋敷に入りましょう。殿下も、少し落ち着きましょう、ね」


 そう言いながら父様は、使用人たちを連れて、笑顔でサージェスト様をグイグイ屋敷内へと促す。

 サージェスト様も引き剥がされた瞬間は驚いた顔をされていたけれど、笑顔で父様に連れられて行った。

 私もそれについて行こうとするけれど……キース兄様が離してくれない。


 カイン兄様も私の手を自分の手で挟んで、何やらふきふき……

 あ! サージェスト様にキスされたところを拭っているのね!

 それはちょっとさすがに不敬では……。


「カイン兄様……それはさすがにダメですって」

「だって、キリアの可愛い手に悪い虫が付いたんだぞ! 拭いただけではまだ足りない。ここはいっそ魔法で──」

「気持ちはわかるがそれはやめておけ」


 私の後ろから低い声でストップがかかった。

 さすがにキース兄様には良識があるらしい。


「何で止めるんだよ!」

「はあ……お前、後ろの母上が見えないのか?」


 大きなため息をつきながらそう言われて視線を後ろに向けると、そこには先ほどと同じ扇子をググッと力いっぱい握りしめて、引き攣った顔で微笑む母様の姿があった。


「げっ!」

「『げっ!』じゃありません! まったくお父様といい、あなたたちといい、なんと失礼な! 殿下がお優しい方で本当に良かったわ……」


 最初は怒鳴っていた母様だけれど、徐々に怒りがおさまって来たのか、ため息をつきながら私の方へと近づき、キース兄様に私を放すよう促すと、私の手を取り、とても優しく包み込むような笑顔で微笑んだ。


「どんな方かと少し心配したけれど、とてもお優しそうな方ね。あなたのことをとても大切に思ってくださっているみたいで、良かったわ。ただ、とても急なことで、あなたも戸惑っていると思うの。だから、その気持ちもきちんとお伝えしなくてはダメよ。不安は抱えたままにしないこと。お母様との約束よ」


「……はい」

「では、私たちも屋敷に入りましょうか」


 私の手を引き、屋敷へと向かう母様はとっても楽しそうだ。

 実際にお会いしたサージェスト様のあまりのキラキラ具合と行動に戸惑い、自分がかなり不安になっていたことに気づかされる。

 でも、兄様たちや母様のおかげで少し落ち着きを取り戻せた気がする。

 案外兄様たちを見ていると、一旦冷静になれるのかもしれない。


 よし! ちゃんと話をしよう!


 そんな私たちの後をトボトボと重たい空気で付いてくる二人はずっとため息混じりに私の名を呟いていた。


「はあ〜キリアがあ……キリア……」


 うん、前言撤回。

 さすがにちょっと鬱陶しいかもしれないわ……。

 この後、この二人は大人しくしていてくれるのかなあ?

 

 特にカイン兄様……ちょっと本気で不安になって来た……。


 そんな不安を背負いつつ、父様たちのあとを追うように、四人で屋敷に入っていった。

お読みいただきありがとうございます。


なんとか再会できました!

最初はこんなに犬っぽくなる予定はなかったのですが、我慢ができなかったらしく、気づけば目の前に。笑

いよいよ次から公爵家との交渉が始まります!

次回もお楽しみいただけますと幸いです。

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