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第七章 番いの絆 ③進軍(グウェン視点)

◆グウェン視点◆


 ジェイシスやアーヴァイン公親子に囲まれ、私は絶対解呪の魔法を発動させ、キリアとの番いの契約をすべて解除して、少しホッとした気持ちでいた。


 これで、彼女が王都を出ても契約による命の危険はない。

 誘拐犯たちが何の目的でキリアを攫ったのか、それ次第で命の危険と隣り合わせな状態が続くものの、攫ったのは獣人の末裔であるラナリスの関係者。

 ラナリスが正妃の座に就くために仕組んだとすると、キリアの命が危ないが、それならばわざわざフィルニアまで攫う必要がない。


 とすると……


「キリアを攫った理由は、いったいなんだ?」


 解呪をそばで見守っていたジェイシスとアーヴァイン公、それにキースが各々に反応する。


「元々フィルニアは魔法をあまり継承していない国で、魔力を持つ者自体がかなり少ない国で……」


 あまり興味はないと言わんばかりのジェイシスに、アーヴァイン公が助け舟を出す。


「魔法も関係するのだと思いますが、これまでは争いにならないよう、揉め事を起こさないよう、静かに、半ば鎖国に近いような状態で、我が国とも国交がほとんどない国なのです。ですから、ほとんど情報がありません」

「あの、情報は少ないのですが……先日の仮誓約後のお披露目会に、どこから聞きつけたのか、フィルニアの高官が来ていたのです。まあ、一応近隣国なので、招待状を送りはしていましたが、まさか本当に来るとは思わず……」

「なるほど。それで、ラナリスが来たわけか……」


 とはいえ、お披露目会に来ていたからと言って、なぜ攫ったのかがわからない。


「地下牢のラナリスを取り調べよう」

「承知しました」


 礼を取ると、すぐにジェイシスは呪文を唱え、地下牢への魔法陣を作り始める。


「それでは、その間に、騎士団の準備を進めておきます。取り調べを終え次第、二手に分かれて進軍されますよね?」


 キースは私の思考を先回りする形で進軍の準備をしてくれるらしい。

 キリアを救う隊とフィルニアへ進軍する隊、この二手に分かれる必要があるだろう。


「ああ、それで頼む」

「では、私も進軍の準備を……」


 キースと共に騎士団へ向かおうとしたアーヴァイン公だったが、部屋を出ようとした矢先に、兄上の侍従に掴まり、そのまま執務室へと引きずられていった。


「いやだ~~! 私は今度こそ、キリアを助けに前線に行くのだ~~~~!」


 廊下から大声で叫ぶアーヴァイン公の声が響き渡り、キースが大きなため息をつく。


「……うるさくて申し訳ありません」

「まあ、仕方ない」

「ありがとうございます。それでは、後ほど」


 そう言うと、キースは急ぎ部屋をあとにした。

 すると、そのタイミングでジェイシスが私を呼んだ。


「殿下、準備が整いました」


 振り向くとそこには、魔法陣の上に魔法で作られた大きな扉がそびえたっていた。


「……では、行こうか」


 扉をくぐり、地下牢へと向かう。

 それも魔獣たちがいる特別区域。

 獣人で、しかも、現状私の魔力を保持している状態のラナリスは、そんじゃそこらの魔獣よりも厄介な存在だ。

 とりあえず念のため、自身とジェイシスにシールドを張り、彼女の牢へと急ぐ。

 魔力封印をほどこしてあるが、私の魔力を保持していれば、解ける可能性もある。

 注意していかねば……。


 牢に着くと、目覚めていた彼女は怯え切った様子で私を見た。


「わ、わたくしに、な、なんのようですの!?」


 怯えながらも強気な姿勢に、少し苛立ち、ジェイシスに申し訳ないと思いつつも、獣人の魔力で威圧する。


「キリアを攫った理由を答えろ……先に言っておくがお前に拒否権などない。回答次第では、精神魔法を行使する」

「せ、精神魔法……わたくしに精神魔法はたぶん利きませんわよ」

「……それは、獣人の私の魔法でもか?」


 指先に金色の魔力を貯め呪文を唱え、ラナリスの足下に魔法陣を展開する。

 金色に少しずつ輝き始める魔法陣を見たラナリスは、大慌てで口を開いた。


「わ、わかりましたわよ! 話せばよろしいのでしょ!! 獣人の子どもを産ませるためですわ! 獣人の番いであれば、獣人の子どもを産むことができますでしょ」

「獣人の子どもを産ませるためだと!? ふざけるな!」


 あまりの発言に、怒りで身体が震える。

 フィルニアの奴らは私の大事な番いに、キリアに何をしようというのか。

 私の怒鳴り声に怯えながらも、ラナリスは話を続けた。


「今のカザリアードには、純粋な獣人の末裔はもうわたくしと弟しかおりませんの。でも、わたくしも弟も魔力をほとんど持っていなくて……今のわたくしの魔力も弟の魔力を無理矢理吸収したもので、自分の魔力ではありませんわ。……カザリアードでは、より強い獣人を作るために、長年様々な実験が繰り返され、多くの獣人がその犠牲に……。殿下にお教えした抑制香や発情香は、その過程で見つかったものですわ。これまでずっとそのような方法で、獣人の末裔は力を存続させてきましたけれど、それももう限界……ですから、獣人の魔力に抵抗のない、本物の獣人の番いを誘拐し、少しでも力の強い獣人の子どもを産ませようとしているのです」


 結局すべてを話し切ったラナリスは、先ほどまで怯えていたはずなのに、なぜかすっきりした表情になっていた。


「それは……カザリアード公爵の、領主の意思か? それともフィルニア国王の意思か?」

「……詳しくはわかりませんが、今回の作戦は国王からの提案だったと聞いています」

「そうか……」


 ラナリスの話にさらなる怒りがこみあげてくる。

 どうやらフィルニアは滅ぼすに値する国らしい……。

 途端に隣のジェイシスがとても面倒そうな表情になる。


「ジェイシス、兄上のところに向かうぞ」


 そうして、私は兄上から許可を取り、フィルニアの王都に向かうことになった。

 本当はキリアを助けに一目散に向かいたい。

 けれど、彼女を怒らせたばかりな上に、契約解除まで彼女の同意なく行ってしまった負い目がある。


 ――合わせる顔などあるはずもない……。


 とにかく、獣人がいる限り、普通の人間は太刀打ちできないかもしれない。まずは、二隊ともカザリアードに向かい、私がキリアの救出のための道を拓く。

 そして、その後の救出はキースに任せ、私は王都制圧に向かおう。

 きっとキリアにとっても、それが良いに違いない。

 

 私は彼女に会わないほうが良いのだ……今は。



 


「準備は整ったか」


 大体の概要をキースが説明し、それぞれの隊が出発の指示を待つ。

 王宮の正門前に整列した騎士団の塊が三つ……?

 近衛騎士団とアーヴァイン公爵家の騎士団、そして、なぜか宮廷魔導士の一団がそこにいた。


「ちょっと待て、またお前たちも来るのか?」


 先ほど面倒そうな顔をしていたはずのジェイシスにそう言うと、彼は頭を掻きながらこれまた面倒そうに口を開いた。


「それなんですが……こいつらキリア嬢のためなら、とまた集結しちゃいまして……」


 すると、ジェイシスの後ろに控えたローブ姿の十人ほどが照れたように笑う。

 まあ、国を落とすにはちょうどいい面子ではあるが……。

 我が国の宮廷魔導士は、獣人ではなく普通の人間相手であれば、三人いれば国を亡ぼせると言われている。

 それをまとめているジェイシスはさらにすごいということなのだが……正直、ジェイシスが本気で戦っているところを見たことがない。

 いつも、戦いになったとしても部下たちに手柄を譲るからだ。

 まあ、今回に関しては、宮廷魔導士の出る幕など無いと思うが……。


 ――なんせ、私の番いに手を出したのだから、その報いを受けてもらわねばならない。


「今回は出番があるか、わからないぞ。だが、人数は多いほうが助かる」

「では、私たちは殿下と共にフィルニア王都へ参ります!」


 そうして、近衛騎士団と宮廷魔導士は私と共に、アーヴァイン公爵家の騎士団はキースと共に行動することとなった。

 




 フィルニアのカザリアードに到着すると、真っ先に気持ちの悪い魔力を感じた。


「なんだこの気持ち悪さは……」

「我々は気持ち悪さよりも、獣人特有の魔力圧を感じます。やはりここは獣人の巣窟なのですね……」


 ジェイシスが領主の城のようなものを眺めながら、珍しく真剣な面持ちで言う。


「なるほど。お前たちにはそう感じるのか。これは純粋な獣人の魔力ではない。何か他の魔力を無理矢理混ぜたような……気持ちの悪い魔力だ」

「混ざりもの……というと、やはりあの女が言っていた、実験の産物ということでしょうか……」

「だろうな。とにかく今は急ごう。キリアが危ない!」


 それから領主の城で領主を締め上げた後、キースと合流して、三人で城の付近を飛行していた時だった。

 急に城の離れの辺りから、急激に惹きつけられる感覚がしたかと思うと、キリアの声が脳裏に響いた。


『…………グウェン様、助けて……』


 その弱々しい叫びに、胸の奥が一気に熱くなる。

 そして、次の瞬間、魔力が一気に吸い上げられる感覚がしたかと思うと、城の離れの奥から閃光が走り、そこから一気に金色の魔力が広がった。


「これは……」


 その離れからは次々に男たちが逃げ出すが、金色の魔力にあてられたのか、離れから少し出たところで力尽きて倒れていく。


「この魔力は……キリアのものでしょうか?」

「ああ、そうだ。キリアはこの奥にいる。キース、キリアを頼んだ」

「わかりました」

「そうだ。これをキリアに渡してくれ」

「このペンダントは……」

「何かあれば、私の元に飛んでくるよう伝えてくれ」

「はい。必ずお伝えします」

「頼んだ」


 キースにペンダントを渡し、キリアの魔力の安定したのを見届けてから、私はジェイシスたちを連れて王都へ向かった。

 途中、ジェイシスが先ほどの私の変化に気づいていたらしく、何が起きたのかと説明を求めてきた。


「――ということは、殿下の魔力がキリア嬢の体を通して発現したということですか?」

「ああ、たぶんそうだ。少し前にやった、魔力を送った時の感覚と同じだった」

「なるほど……きっとあれがきっかけでお二人の魔力炉が繋がったままになってしまっているのかもしれませんねぇ……」

 

 とても興味深そうにそう言うと、ジェイシスはぶつぶつ言いながら考え込んでしまった。

 考え込んだ状態でも、平気で飛行魔法を使える辺りがやはり筆頭宮廷魔導士なのだと思わされた。



 王都では、私の顔を知らなかったフィルニア国王がふんぞり返って出迎えてくれて、あわや戦争勃発一歩手前の状態になった。

 もちろん、怒り狂っていた私は魔力を全開放。

 フィルニアには宮廷魔導士が一人しかいないらしく、その一人が必死に対抗するも、我が国の宮廷魔導士が十人もいれば敵うはずもなく、国王を背にあっさり降伏してしまった。


 それから国王は、獣人国から逃れた平民を大昔の国王がかくまい、最初は人間のほうが弱く、使いに困ったこと、生活の基盤を与える代わりに兵力として働かせていたこと、そして、数代前の国王の代から、魔力が薄れていく獣人に危機感を覚え、実験を繰り返していたことなど、洗いざらい話した。


 さらに今回、私が先祖返りで番いを得たことを知り、獣人の番いは人間であっても獣人の魔力に染まる魂を持ち、肉体的にも耐えることができるという文献を思い出し、キリアの誘拐を計画したとも供述した。

 その場で自らの手で処刑してしまいたい衝動に駆られる私をジェイシスが必死に止め、魔導士たちがテキパキと罪人たちを縛り上げていく。

 私はジェイシスに半ば抱きしめられるような状態で、その様子を見守っていた。



 それから数日後、フィルニアがルナリアの属国になる最低限の手続きを終え、私とジェイシスはなんとかルナリアへと帰還したのだった。


お読みいただきありがとうございます。

キリアが攫われた裏のグウェン視点でした。

そして、キリアの魔力暴走の謎がこれで全部明かされる感じになりました。

キリアはこれを全く知らないという状態なのですが、きっといずれどこかで教わるはずです。

そして、次はついに第二部最終話になります。

最終話なので、いちゃいちゃさせる感じになっています。

第二部は頭と最後にいちゃいちゃする感じになってしまいました。

できるだけ甘い最終回にできればと思っております。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


そして、いつもリアクションやブックマークありがとうございます!

大変励みになっております。

最終話までどうぞよろしくお願いいたします!



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