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第七章 番いの絆 ②魂の番い

 王都に戻り、道中何事もなくアーヴァイン公爵邸に到着した。


「キリア~~~~~~~!!」


 馬車を降りて、キース兄様にエスコートされながら玄関に向かうと、泣き叫ぶ声と共に父様が飛んできた。


「キリア、無事か!? どこも怪我などしていないか?」

「と、父様……大丈夫です。どこも怪我などしておりません」


 キース兄様もそうだったけれど、もう小さくないというのに、いきなり抱きかかえられ、あちこち見回して、チェックされる。

 そして、どこにも怪我がないとわかると、父様は大きく息を吐いた。

 それからキース兄様に目配せをして何かを伺い、兄様が首を横に振ると、ほっとした表情になった。


「無事で何よりだ。また攫われたと聞いたときは、生きた心地がしなかった。成長してより魅力的になってしまったからな。狙う者も多いだろう。今後も気を付けなくてはな」

「はい。それよりも父様……」

「ん?」

「ただいま戻りました」

「ああ、そうだな。おかえり、キリア。キースもご苦労だったな」

「いえ。妹を護るのは兄の役目ですから」

「そうだな」


 玄関先でほのぼのとそんな会話をしていると、とても厳しい視線を感じた。

 玄関ホールのほうを見ると、母様が氷の微笑みを浮かべている。


「リ、リゼベル……」

「ち、父上、ひとまず、家に入りましょう。諸々の話はそれからです」

「そ、そうだな」


 氷の微笑みにビビりまくっている状態の兄様と父様は、私を抱えたまま屋敷に入った。


 

 屋敷に入ると、玄関ホールで母様とマーヤをはじめ、使用人たちが勢ぞろいしていた。

 どうたら私を出迎えるために、わざわざ集まってくれたらしい。

 母様は、父様に私を下ろさせると、両手を広げて出迎えてくれた。


「キリア、おかえりなさい」

「ただいま戻りました、母様……」


 言いながら、母様の胸に飛び込んだ。

 あったかくて柔らかい母様の腕の中。

 抱きしめられた途端、安心したからか、急に涙が流れだす。


「無事で、本当に良かった……」


 無言で泣き続ける私をぎゅっと強く抱きしめる母様の腕の力が少し強くなる。

 母様の優しい声に、攫われ、どうなるかわからない不安と戦い続けた時間を思いだし、涙が次から次に溢れてくる。


「怖かったでしょう。もう大丈夫よ」


 頭を撫でながらそう言う母様の後ろで、兄様と父様が微笑ましそうに、羨ましそうに私たちをずっと見ていた。

 涙がおさまったところで、母様は体を引き離して、まじまじと私の全身を見る。


「ふふ。話に聞いていた通り、大きくなったわね。驚いたわ」


 その言葉に、大きくなってから母様に会うのは初めてだと気づいた。


「元々とっても可愛かったけれど、大きくなって綺麗になったわね。ただ、成長過程を見られなかったのが残念だわ……」


 言いながら、本当に残念そうに頬に手を当て、ため息をつく。


「母様……」

「あなたの成長に合わせてドレスを選ぶのを楽しみにしていましたのに……! まあ、仕方ないわね。次の成人の舞踏会のドレスはお母様が吟味いたしますわよ!」


 意気込んで楽しそうに笑う母様に、思わず父様もキース兄様も一緒になって笑い出す。

 すると、そんな良い雰囲気の中で、父様が喜び勇んだ様子で手を叩きながら口を開いた。


「番いの契約も解除されたことだし、これで成人の舞踏会も、我が家から参加して、屋敷でもお祝いができるな~! それに、番いでなくなったのであれば、婚約もなくなるだろう。そしたら、キリアは我が家にずっといればいい。なあ、キース!」

「ええ、父上! キリアのことは私がずっと面倒みますから大丈夫です!」


 大喜びする父様とキース兄様の前で私はいったいどんな顔をしていたのだろう。

 私の様子を見た母様が父様とキース兄様を物凄く冷ややかな笑顔で睨みつける。

 その視線に慌てて私を見た二人は急に黙り込んでしまった。

 そして、キース兄様は申し訳ない表情からなんとも言えない表情になった後、私の側まで来ると、少し屈んで私の顔を覗き込んだ。


「キリア……すまない。悲しませるつもりはなかったんだ。まさかお前がそんなに殿下を想っていたとは……本当にすまない」

「べ、別にそんな想っていたとかじゃありませんわ。あ、謝っていただかなくても大丈夫です。それにもう終わってしまったことですし、グウェンさ、いえ、王弟殿下がお決めになったことですもの……」


 もう番いの契約が破棄されたのであれば、グウェン様と呼んではいけないかもしれないと、慌てて訂正するも、自分で言いながら、現実を突きつけられる。

 そのせいで、さっき泣き止んだばかりだというのに、大粒の涙が無意識にポロポロと零れ落ちた。


「キリア。殿下が番い契約を解除したのは……」

「いいのです! 大丈夫ですから。ごめんなさい。私やっぱり疲れているみたいなので、もう部屋で休みますわ!」


 キース兄様の言葉を遮り、その勢いのまま、私は泣きながら部屋へと移動した。


 ――番い契約の解除の話など、もう聞きたくない!



 半ば逃げるように部屋に移動すると、先に準備していたのか、マーヤが待っていた。

 マーヤは、泣いている理由も聞かずに、いつも通り優しい笑顔で私の涙を拭い、着替えを手伝ってくれた。

 それからマーヤはお茶を淹れると「いつでもお呼びくださいませ」と言って下がっていった。


 久方ぶりの我が家の自室。

 王宮でも自室という名の離宮を与えられてはいたけれど、やっぱり我が家の自室が一番落ち着く。

 ソファにゆったり座ってお茶を飲んだ途端、体の力が抜ける。

 あの仮契約の儀式の日からまだ十日ほどしか経っていないというのに、あまりにも色んなことがありすぎて、頭の整理が追いつかない。

 仮誓約の弊害に、発情期、さらにはフィルニアへの誘拐……。

 けれど、そんな十日ほどの間に、気づいたらグウェン様への気持ちに変化が生まれていて……自覚してしまった。


 まあ、もうそれも、遅いのだけど……。


「もうすべて終わってしまったのよね……」


 口に出して、さらに落ち込む。

 とはいえ、ずっと気になっていたことが一つだけあった。

 番い契約をしない場合、グウェン様の寿命はどうなるのかということ。

 確か、番いがいなければ二十代で早世してしまうと書物にも書かれていたし、グウェン様本人もジェイシス様も言っていた。


 ――番いがいても契約しない場合はどうなるの……?


 前例がないとは言っていたけれど、普通は番いがいて契約しないなんてことはあり得ないとも言っていたし、きっと番いがいない扱いになってしまうんじゃないかしら。

 そんな契約を自ら破棄されたということは――死んでも良いから、私とは契約を継続していたくなかったということではないのか。

 自分で勝手に考えて導き出したにもかかわらず、その答えに心が押しつぶされそうになる。


「でも、そのおかげで私は助かったわけだけど……」


 考えれば考えるほど、気持ちが滅入ってしまい、胸が締め付けられるように痛む。

 カップを手に取り、お茶をもう一口飲んで心を落ち着けようとするものの、どうしても落ち着くことができない。

 ああしていればよかった、こうしていればよかったと、そんなことばかりが頭を過ってしまう。

 やるせない思いに駆られて、キース兄様に渡された転移のペンダントを手にとる。じっと眺めながら、私は思わずグウェン様の位置を探知し始めてしまった――。

 

 番い契約を解除したのだから、きっとはっきりは探知できないはず……。


 そう思いながら、意識を集中してグウェン様の魔力を探る。

 すると、フィルニア国の王都、それも王宮内に彼の魔力を見つけた。

 それも、番い契約を結んでいた頃と変わらず、はっきりと探知することができた。


「え? これってどういうこと? もしかして契約はなくても、魂の番いだから……?」


 そういえば、私の魔力はすでにグウェン様に染められていて、番い仕様になっているし、この体の急な成長だってグウェン様の魔力によるもの。

 それに、私が最初に攫われた時、グウェン様が私の中の魔力をたどって探されたと聞いた。

 もしかしたら、番いの契約や魔力の変化でグウェン様と同じような状態に変化していてもおかしくないのかもしれない。


 ということは……


「会おうと思えば、いつでも会えるのね……。迷惑がられてしまうかもしれないけれど、お礼だけでも言いに行きたい」


 ――今はまだフィルニアにいるみたいだから、帰って来たら、その時は……!


 そう決意した途端、なんだか少し心が軽くなった気がして、泣き疲れていたのかそのまま糸が切れたように眠ってしまった。


お読みいただきありがとうございます。

無事にルナリアのアーヴァイン公爵邸に戻ったキリアですが、キースの言葉も遮って、いまだに誤解が解けないまま……。

元々芯はしっかりしている子で、由良の魂になってからはさらにしっかりした感じになっています。

残りあと2話。次はグウェン様視点を挟んでからの最終話の予定です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


そして、いつもリアクションやブックマークありがとうございます。

大変励みになっております。

最後までお付き合いいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

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