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第七章 番いの絆 ①キリアの魔力(グウェン視点)

◆グウェン視点◆


 私はキリアが執務室から去った後、ただ茫然とキリアの最後の言葉を反芻していた。


 ――グウェン様なんて大っ嫌い!!


 大声でそう叫ぶキリアの声と泣き顔が忘れられない。

 

 そんな状態の私にラナリスは執拗に絡みつき、正直、肝心のキリアを悲しませてまで何をやっているのかと、苛立ちを覚えた。


 彼女を悲しませるつもりなど、あんな顔をさせるつもりなどなかったのに。

 キリアから『大嫌い』と言われたのが効いているのだろうか。

 彼女のことを考えても、なぜか魔力が増えることもなく、発情の感覚もない。


 ――これはいったいどういうことだ?


 不思議に思いながらも、快適になった体でただただ無心で執務に打ち込んでいた。




 しばらくした頃、慌てた様子のジェイシスが執務室に駆け込んできた。


「殿下! キリア嬢が、キリア嬢が攫われました!!」

「なんだと!? いったい何があった!?」


 必死の形相で捲し立てるジェイシス。

 驚きながら私が状況を問うと、それに答えるより先に、ジェイシスがラナリスを睨みつけた。


「殿下! その女から離れてください! キリア嬢を攫ったのは、その女の仲間です!!」

「は!? どういうことだ!?」


 ジェイシスの言葉に、キリアが去った後もずっと私の腕に擦り寄っていたラナリスは、それまで以上に強く私の腕を掴む。

 振り払おうと腕に力を込め体をズラしても、一向に離そうとしない。

 その行動に、キリアの誘拐に加担しているという確信を持った私は、全力でラナリスを振り払った。


「痛っ!」


 苦痛に顔を歪ませ、こちらを睨みつけるラナリス。


「キリアは今どこにいる! 攫った目的は何だ!」


 怒りに任せてラナリスを怒鳴りつけた。

 けれどラナリスは、怖がるどころか、私をあざ笑うように余裕の表情で微笑んでいる。

 少し好戦的にも見えるラナリスのその表情に、ジェイシスが捕縛魔法を唱える。

 すると、魔法陣が目の前に展開された瞬間、ラナリスは魔力を展開し、魔法陣を包み込む。

 包み込まれた魔法陣は金色の魔力を纏った後、砕ける音を立て、キラキラと散っていった。


「わたくしに普通の魔法など効くわけがありませんわ。獣人ですもの。弟にもそうやってしてやられたのかしら?」


 不適な笑みを浮かべながら、ジェイシスを小馬鹿にするように告げる。


「……くっ。この女といい、こいつの弟といい、獣人の魔力ってやつは……。あれ? そういえば、弟の魔力は金じゃなかったな……」


 悔しそうにしながら呟くジェイシスの言葉に、引っ掛かりを覚える。

 ラナリスが放った魔力は、ラナリスの魔力ではなく、私が流した私の魔力だ。

 そもそもジェイシスが敵うわけがない。

 ということは、私が対抗するとしても、通常の魔力では敵わない可能性がある。

 だが、彼女の器的にそんなに多くの魔力を抱えていられない。

 すべて吐き出させてしまえば、普通の人間より少し強い程度の魔力だろう。

 もしくは、私が魔力濃度を上げれば良い。

 とにかく今はこいつを捕縛して、洗いざらい白状してもらわねば。


「やはりお前は私を騙していたというわけか。発情期を抑える方法も、どこまで信用できるものかわからない。訊かねばならないことがたくさんありそうだな」


 言いながら、怒りが込み上げてくる。

 その怒りを原動力に、手のひらに魔力を集め、高濃度に練っていく。

 すると、割とすぐに濃い黄金色の球体が出来上がった。


「さあ、洗いざらいすべて話してもらおうか」


 球体を手に、ラナリスに詰め寄る。

 するとラナリスは、目を見開いたと思ったら、急に動かなくなってしまった。

 どうやら失神してしまったようだ。

(のちにジェイシス曰く、この世のものとは思えないような、禍々しい表情になっていたらしい)


「おい! 失神してしまったら何も聞き出せないじゃないか!」

「殿下、ひとまず捕縛を……それと、できれば魔力封印を」

「わかった」


 高濃度の魔力を使って、失神したラナリスに捕縛魔法と封印魔法をかける。

 今度は彼女の力では解くことはできないだろう。


「急ぎキリアを魔力探知で探ろう。今のキリアは仮誓約の弊害で、私と一定距離以上離れてしまうと死んでしまう!」


 ――あんな言葉を吐かれたばかりだから、できれば使いたくなかったが……事は一刻を争う。


 嫌いな私がキリアの場所を特定することなど、彼女にとっては気持ち悪いかもしれない。

 しつこい男だと思われて、さらに嫌われてしまうかもしれない。

 そう思うと、胸が締め付けられて仕方ない。

 だが、これしか手がない。


 キリアを助けるためだとわかってはいるものの……彼女にどう思われるかと考えると、不安に駆られてどうにかなってしまいそうだ。


 それにしても、キリアが去った後から、発情状態がおさまっている気がするのは気のせいだろうか。

 発情がおさまっているからか魔力の暴走も静まっている。


 ――これはいったいどういうことだ?


 気にはなるが、今はキリアの居場所を突き止めることが先決だ。


「ジェイシス。この女を魔獣用の地下牢へ連れて行け。それと、近衛兵とキースへ連絡を。急いでくれ!」

「承知しました」


 私の意図を理解した様子で、ジェイシスは頷くと部屋を出ていった。


 あの女はフィルニア国の公爵令嬢だ。

 下手をすれば国家間の戦争になってしまうかもしれない。

 だが、先に手を出したのはあちらだ。

 きっちり片は付けさせてもらう。


「さて、キリアは今どこにいるのか……」


 心を研ぎ澄ませて、キリアの魔力を探る。

 距離の問題もあったのかもしれない。

 前回探った時よりも、すぐに彼女の魔力を感知することができたが、彼女の魔力が微弱なものになっていることが少し気になった。


「なぜまた枯渇ギリギリになっているんだ……」


 これでは自力で脱出することなど不可能だろう。

 前回の枯渇と違い、今回の枯渇は獣人の魔力。

 体への負担もかなり大きい可能性が高い。


 キリアの魔力はまだ王都の中をゆっくりと動いている。

 速度的に何かに乗っているようだ。


「これは……馬車か? だが、普通の馬車にしては速度が遅いような……」


 方角的には、やはりフィルニアの方向か……?

 だが、まだどこへ行くかは定かではない。


 それに、気がかりなことがもう一つある。

 キリアの魔力のそばに、妙に強い魔力を感じる。

 それもどこか禍々しいような、何人もの魔力を凝縮したような、気持ちの悪いもの。


「こんな魔力は見たことがないな……それも人間の魔力ではない。魔物か?」


 キリアのそばにこんな危険な存在がいる上に、今のキリアは魔力枯渇状態。

 迂闊に手を出せば、キリアが人質に取られてしまう。

 頭を抱えて悩んでいるところに、ジェイシスがキースとアーヴァイン公を連れて戻ってきた。


「殿下、アーヴァイン公とキース殿をお連れしました」

「殿下、どうかされましたか?」


 キースとアーヴァイン公はなぜ呼ばれたのかと、不思議そうにこちらを見る。

 ところが現状を説明した途端、キースとアーヴァイン公は同時に声を上げた。


「「殿下、今すぐに番い契約の解除を!」」


 わかってはいた。わかってはいたが……。

 こうも開口一番言われてしまうと、なんとも腹立たしいものがある。


 私の能力を使えば、もちろん可能だけれど……契約を結ぶまでにあれだけ苦労をしたというのに。

 それを、半ば喧嘩状態で別れてしまった今やらねばならないということに、大きな抵抗があった。

 本当は解きたくない。

 解きたくはないが……キリアの命には変えられない。


「わかった。だが、今キリアがなぜか魔力枯渇状態に陥っているようなんだ。まずはそれをなんとかしなければ……そばに怪しい魔力を感じるのだ。ジェイシス、何か良い手はないか?」

「ん〜〜でしたら、殿下の魔力を送られてはどうでしょう?」


 ジェイシスの提案に、本人以外の全員が首を傾げる。

 魔力を他人に送るなど聞いたことがない。


「どういうことだ?」

「まあ、とにかく今は時間がありませんから、すぐにやってしまいましょう。アーヴァイン公爵邸でアウトなのであれば、いくら遅い馬車でも、すぐです!」

「あ、ああ」


 よくわからないまま、ジェイシスから獣人の本を手渡される。

 そこには獣人の番いが魔力を渡すための方法が描かれていた。


「この方法で魔力を送ることができるようです」

「なるほど。やってみよう」


 そうして、本に書かれている通りに、魔力をコントロールしてキリアの魔力炉に送るイメージを思い浮かべる。

 すると、私の体が金色に光り出し、体を巡った後、私の腹辺りにホワイトホールのようなものが現れた。

 そして、そのホワイトホールに向かって、金色の魔力がどんどん吸い込まれていく。

 最初はその光景に驚き、恐る恐るほんの少し。

 だんだん量を増やして、キリアの全身に魔力が巡るように……と意識していたものの、魔力暴走を起こしていた影響か、思った以上にどんどん魔力が流れてしまう。

 ジェイシスが慌ててストップをかける。


「殿下! そこまでです! 魔力に蓋をするイメージを!」


 その言葉に、急ぎ魔力を止める。

 止めた途端、体の光も腹のホワイトホールも消えていった。


「……これでキリアの魔力枯渇は大丈夫なのですか?」


 この光景に驚いたキースが心配そうに問いかけた。


「ああ。問題ないだろう」

「で、では、番い契約の解除を!」


 前のめりにそう言うアーヴァイン公は、どこか嬉しそうで、なんとも腹立たしい。


 ――だが、仕方ないのだろうな……。


「わかった。すぐに取り掛かろう」


 嫌々ながらも自身の中の魔法契約を探り始める。


 王弟である私には、様々な契約魔法がかけられている。

 その中から、最重要な番いの契約を探す。

 正直、仮誓約を結んだ、最後の契約魔法のみを解除すれば良いのかもしれない。

 けれど、一度弊害が出てしまったからには、どの契約が影響しているのかわからないため、他の契約を残してもしものことがあったら、取り返しがつかない……。

 番い契約にまつわるものをすべて解除してしまうことが一番だろう。


 契約を一度解除したら、果たしてキリアは再び私と番いになってくれるのだろうか。

 最後に『大嫌い』と言われてしまったのだから、きっとそれは難しいだろう。

 だからこれは、もう仕方がないことなのだと、契約だけで縛ってしまっても、意味がないのだと、自身に言い聞かせた。


 そうして私は、絶対解呪の魔法を発動させた。


 キリアとの別れを決意してーー。



お読みいただき、ありがとうございます。

キリアの魔力が実はグウェンとリンクしていました。

そして、番い契約解除の真実も明かされ……。

キリアを守るために仕方なしの解除でした。

次は、公爵邸に戻るキリアのお話です。

なるべくこのGWの間に終わらせたいと思っております。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


そして、いつもリアクションやブックマークありがとうございます!

大変励みになっております。

最後までお付き合いいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします!

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