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第四章 王弟殿下の来訪 ①来訪準備

 本を片手に思わず叫んだ夜から三日が経った。


 あっという間過ぎて、結局王弟殿下に何を聞くべきなのか、頭の中がまとまらないまま今日の日を迎えてしまった。

 何よりも番いの契約のことで頭がいっぱい過ぎて、もうどうしたら良いのかわからない。

 

 あれからあの獣人の本を隅々まで読んだけれど、番いが現れて、その相手と契約しない獣人がどうなるかについては、どこにも書かれていなかった。

 きっと現れた番いと契約しないという選択肢が、そもそも彼らの概念にはないのかもしれない。

 あの本を読むに、それだけ獣人にとって番いというものは、絶対的な、何にも変え難い、自身の命よりも大切な存在なのだ。


 とはいえ、私はまだ十四歳。未成年なのだ。

 血の契約なんて、早すぎる!

 それに……接吻なんて……いくら相手がイケメンでも無理よ、無理!!

 

 ああもう、どうしたら良いの〜〜〜!


「はあ……このまま領地に戻って引きこもっていられないかしら……」


 起き抜けの私の第一声に、侍女のマーヤが心配そうにベッドを覗き込んできた。


「お嬢様? 大丈夫でございますか?」

「ありがとう。問題ないわ。少し現実逃避したいだけよ……」

「お嬢様……」


「今日、ついにいらしてしまうのね」

「はい。サージェスト公爵様は午後にお見えになるとのことですので、それまでにお支度をお願いいたします。奥様がそれはそれは、朝から気合いを入れていらっしゃいましたので、お覚悟くださいませ」


 え? 何その話……より一層逃げたくなってきたわ。

 顔を引き攣らせた私の目の前にスッと目覚めの紅茶を運ぶと、マーヤは満面の笑みを向けた。


「逃げるのは無しでございますよ。お嬢様」

「……ええ」


 なんか今日のマーヤは妙に強い……。


 そこから本当に午後のギリギリまで、色んなところを磨き尽くされた。

 その上で、この日のために急遽仕立てられたのだという、フワッフワのピンクのワンピース(もうほぼドレス)を着せられ、装飾品は元々あまり好まないので、最低限のブローチと顔をはっきり見せるためにと、サイドの髪をピンクのリボンで編み込まれ、顔にもほんのりお化粧を施される。

 まさにどこかの国のお姫様のような、お人形のような状態に仕上がった。

 鏡に映る自分の姿に思わず見惚れてしまうほどだ。


 可愛い……こんな人形あったら欲しい!


 自分自身だということが信じられず、頬をつねろうとして、マーヤに手で止められる。


「お嬢様。あまり触ってはいけませんよ。せっかくのお化粧が崩れてしまいます。お美しいのが台無しになってしまうじゃないですか」

「あ、いえ……ちょっと信じられなくて……」

「? お化粧されるのは初めてではないですよね? お嬢様は元々お肌も綺麗ですし、そんなにお変わりないと思いますが……?」


 私の言葉にマーヤは不思議そうに答えた。

 どうやら化粧で変わった自分に対して信じられないと言ったように思われたらしい。


 まあ、十四歳だもんね。

 普通なら初めての化粧でもおかしくはないし。


「あとはこちらの髪飾りを着けたら完成です」


 そう言って、お気に入りの花柄の飾りをリボンの隙間に入れてくれた。


「ありがとう、マーヤ」

「ああ〜やっぱりお嬢様は、本当にお綺麗で、お可愛らしいですね」

「ふふ」


 鏡越しに笑い合っていたら、部屋のドアからノックの音が響き、母様が入ってきた。


「準備は整ったかしら?」

「はい。母様」


 私の姿を見た母様はとても満足げな表情だ。

 何気に母様自身もかなり豪華に着飾っている。


 もはやあれは完全に夜会用のドレスなのではないだろうか……。

 公爵夫人ともなると、下手な格好で王弟殿下を迎えるわけにもいかないのかな。


「そろそろお越しになるわ。あなたもホールにいらっしゃい。お出迎えしなくちゃね」


 ちゃめっ気たっぷりにそういうと私の手を引いて部屋を出る。

 こうして、私と母様は玄関ホールへと移動した。


 玄関ホールに到着すると、広いホールの端に置かれたソファに誰も座ることなく、父様と兄様たち三人がウロウロと、本当にウロウロと歩き回っていた。

 正直、大変鬱陶しい。

 その上、三人とも表情はとても暗く、何やらブツブツとうわ言のようなものを言っている。

 そして、時々発狂したように、叫んだり、泣き出したかと思うと、一瞬それがピタッと止んで、再びまたブツブツうわ言のようなものを言って歩き回るのである。

 なんかとってももう怖い。

 きっと精神状態が不安定極まりないのだろう。


 というか、当事者である私よりもおかしい状態になってるってどういうことなのよ。

 泣いたり叫んだりしたいのは私よ〜〜〜!

 まあでも、父様たちを見ていると不思議と冷静さを保てるっていうか、自分の状況を客観視できるっていうか、ああはなりたくないっていうか……。

 とにかく、サージェスト公爵様が来る前に三人をなんとかしなくちゃ!


「父様たち、少し落ち着いてくださいませ」

「キリア……」


 あ、この人たち私が玄関ホールに来たことさえ気づいてなかったのね。


「ここに居ては危ない! 早く奥へ! 奥に隠れているんだ!」


 カイン兄様がそう言いながら私を抱き上げようと近づいて来た時だった。


 私と一緒に来てソファに座っていた母様が、持っていた扇子を一度パァン! と勢いよく叩いた。

 その音を聞いた全員が振り返り、母様の形相に息を呑んだ。


 ああ……笑顔の圧がとっても強い……。


「あなたたちは大人しく待つこともできないのですか? それに相手は王弟殿下。何をしようとしているのです? 自分の立場を弁えなさい! そして、あなた! 公爵としてもっと威厳を持ってください。じゃないとしめしがつきません! キリアはどの道近いうちに婚約者を探さねばと話していましたでしょう? これは願ってもない縁談なのです! それを娘恋しさに破談になんてしたら……わかっておりますわね?」


「……はい」


 母様が強い……強すぎる。


 こうして、母様によってへし折られた父様たちはそれから大人しくなり、五人でゆっくり馬車が到着するのを待った。



 ──そして数分後。ついに、王弟殿下こと、サージェスト公爵が到着した。


お読みいただきありがとうございます。


アーヴァイン公爵家はかなりの嬶天下です。笑

書いているうちにどんどん母様が強くなってしまいました。

来訪の章は母様大活躍なので、お楽しみいただけると幸いです。


そして、王弟殿下登場……引っ張ってしまってすみません。

次、ようやく再会です。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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