第五章 すれ違う番い ②似た魔力
ここ数日、注目度ランキングで上位に入っていて、少しざわざわしております。
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――怖い! 怖い! 怖い!! いつものグウェン様と全然違ってた。アレが獣人の発情なの!? 相手なんてできるわけないじゃない!
少し考えるだけでさっきの恐怖が蘇って足がすくみそうになる。
走りながらもまだ手が震えている。
「帰れって、言われた通りになっちゃった……」
涙を拭いながら勢いのまま神殿を出て、国王様が出した扉の前に辿り着くと、そこにはやっぱりとでも言うように、呆れ顔をしたジェイシス様が居た。
「……ジェイシス、様? あの、国王様は……」
「陛下は執務に戻られた。で、代わりに俺がここに呼ばれたわけだが……はぁ〜」
聞こえるほどの大きなため息を吐くと、ジェイシス様は私の頭にポンと手を置く。
「え!? あの、何を……」
身構えていると、ジェイシス様は手に力を込めて、ぶっきらぼうに私の頭をぐいぐいと撫でるような仕草をした。
「……まあ、お前にはまだ早かったな。無茶をさせてすまない」
しばらくぐいぐい撫で続けた後、今度は優しくポンポンと頭を叩く。
その優しさが、恐怖に支配され強張っていた私の心を溶かしてしまう。
気づけば私はそのまま泣き崩れ、ジェイシス様に子供をあやすように抱きかかえられていた。
「皮が大人になっても、やっぱり中身は子供だな」
「……うるさいですっ…」
その後、泣き疲れた私はそのままジェイシス様に運ばれて、離宮に戻ってきたらしい。
気づくとそこは離宮のベッドの上だった。
傍らには、心配そうに私を見つめるマーヤと、壁にもたれながら腕を組み、こちらを見つめるジェイシス様の姿があった。
一体どれくらい眠っていたのか、すっかり日も暮れて、窓からは夕陽が差し込んでいた。
「お嬢様!」
「マーヤ、心配をかけてごめんなさい」
「いいえ。何か温かいものをお持ちしますね」
マーヤが部屋を出ていくと、代わりにジェイシス様がベッドのそばに歩み寄ってきた。
「気分はどうだ?」
「おかげさまでだいぶスッキリしましたわ」
「それは良かった」
言いながら、また私の頭をワシワシと撫でる。
「もう! だから、もう子供じゃありませんって!」
必死に抵抗すると、急にジェイシス様の動きが止まり、笑っていた表情に影がさす。
「……まあ、何があったかは大体想像がつく。獣人の発情期……それも、あの歳で初めての発情期だ。自我を保ってなど居られなくなるはずだからな。そこへキリア嬢をやったと聞いて、驚いて行ってみれば……怖かったな」
再びがしがし頭を撫でられて、今度はされるがままになりながら、じわりと涙が溢れてくる。
「……むちゃくちゃ怖かった。獲物を狙うみたいな目で見られて、身体が急に熱くなって……私、気づいたら神殿を飛び出してたの」
「まあ、獣人っていうくらいだからな。本質は獣だ。それと、君の話から察するに、殿下の発情にあてられて、このままだと君も発情期に入りそうだが、大丈夫か?」
「え、ちょ、ちょっと待って! 私は普通の人間よ? なのに、なぜ発情期に入るの!?」
「獣人の番いで、しかも既に君の魔力炉は獣人の魔力に染まっているんだぞ? 変身できないだけで、もはや君の分類は獣人だ」
特に深く考えることもなく、さも当然のように言い返されてしまい、言葉が出てこない。
私のそんな様子に、ジェイシス様はさらに呆れたようになる。
「まあ、なんにせよ、これで魔力暴走を止めるのは難しいと思っていたんだが……」
「……ん? どういうこと? なぜ過去形なの? グウェン様に何かあったの!?」
なぜか先を話すのを躊躇うジェイシス様に勢いのまま詰め寄ると、言葉を選ぶように話し始めた。
「……どうやら先ほど神殿から出てこられたらしい。俺が感知するに、魔力は正常値に戻られている。それに……」
「え!? どういうこと!?」
ジェイシス様の言葉を遮り、慌ててグウェン様の魔力を探る。
地下の神殿内ならいざ知らず、なぜ同じ王宮にいるのに気配を感じなかったのだろう。
ざわつく心を鎮めながら、ゆっくり探ると王宮の執務室の辺りに彼の魔力を感じた。
先日から変わったハッキリとした感覚で、彼の存在を感知することができたことに、少しホッとする。
けれど、それと同時に、そのすぐそばにグウェン様には劣るものの、それに似た獣人の魔力を感じる。
――え? 一体どういうこと!? これは誰? まさかラナリス嬢!? でも、今朝感じた彼女の魔力はもっと微弱だったはず。それに、なぜグウェン様と似た波動をしているの!?
固まったまま動かない私に、ジェイシス様が何かを察したのか、大きめのため息の後、先ほどの話の続きを話し始めた。
「まあちょっと聞け。君をこの離宮に連れてきて、しばらく経った頃、神殿から殿下が出て来たんだが、その殿下のそばに別の獣人の魔力を感じてな。あれは今朝来たとかいう例の獣人か? だが、今朝はこれほど強い魔力を感じなかったんだよな〜。他にも獣人が来ているのか? それとも力を隠していたのか……何か知らないか? まあとにかく理由はよくわからんが、殿下の魔力暴走の危機は去ったようだ」
何か知らないかと言われても、私自身が一番それを知りたい。
でも、魔力暴走の危機が去ったということは――。
グウェン様の魔力暴走を、そして、彼の発情期を、あの人が止めたということになる。
私が神殿から出た後、グウェン様とラナリス嬢の間に何かがあったのだ。
発情期を止めることができるような、何かが……。
そう考えると、酷く胸の辺りがチクチクと痛み始める。
認めたくはないけれど、そういうことなのだろう。
逃げてしまった私には、グウェン様に何かを言う資格などない。
心の中の葛藤を抑えて、ジェイシス様に彼女のことを話さなければならない。
気持ちを切り替えて、私が今わかっている事実を伝えなければ。
「……それはたぶん……今朝来た獣人の末裔、ラナリス嬢だと思います。私が感知するに、彼女の魔力はグウェン様の魔力に似通っています」
「そ、それは……」
「……きっとグウェン様の魔力に染められたんでしょう」
言い切りながら、私は一体どんな表情をしていたのか。
ジェイシス様が心配そうに、こちらを見ていた。
お読みいただきありがとうございます。
またまた不穏な感じで申し訳ありません。
ジェイシスの頭ポンポンが書きたくて……いつもいいところを持っていく男です。笑
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
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