表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/79

第五章 すれ違う番い ②似た魔力

ここ数日、注目度ランキングで上位に入っていて、少しざわざわしております。

たくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます!

そんな中、更新が不定期で申し訳ありません。

どうぞよろしくお願いいたします。

 ――怖い! 怖い! 怖い!! いつものグウェン様と全然違ってた。アレが獣人の発情なの!? 相手なんてできるわけないじゃない!


 少し考えるだけでさっきの恐怖が蘇って足がすくみそうになる。

 走りながらもまだ手が震えている。


「帰れって、言われた通りになっちゃった……」


 涙を拭いながら勢いのまま神殿を出て、国王様が出した扉の前に辿り着くと、そこにはやっぱりとでも言うように、呆れ顔をしたジェイシス様が居た。


「……ジェイシス、様? あの、国王様は……」

「陛下は執務に戻られた。で、代わりに俺がここに呼ばれたわけだが……はぁ〜」


 聞こえるほどの大きなため息を吐くと、ジェイシス様は私の頭にポンと手を置く。


「え!? あの、何を……」


 身構えていると、ジェイシス様は手に力を込めて、ぶっきらぼうに私の頭をぐいぐいと撫でるような仕草をした。


「……まあ、お前にはまだ早かったな。無茶をさせてすまない」


 しばらくぐいぐい撫で続けた後、今度は優しくポンポンと頭を叩く。

 その優しさが、恐怖に支配され強張っていた私の心を溶かしてしまう。


 気づけば私はそのまま泣き崩れ、ジェイシス様に子供をあやすように抱きかかえられていた。


「皮が大人になっても、やっぱり中身は子供だな」

「……うるさいですっ…」





 その後、泣き疲れた私はそのままジェイシス様に運ばれて、離宮に戻ってきたらしい。

 気づくとそこは離宮のベッドの上だった。

 傍らには、心配そうに私を見つめるマーヤと、壁にもたれながら腕を組み、こちらを見つめるジェイシス様の姿があった。

 一体どれくらい眠っていたのか、すっかり日も暮れて、窓からは夕陽が差し込んでいた。


「お嬢様!」

「マーヤ、心配をかけてごめんなさい」

「いいえ。何か温かいものをお持ちしますね」


 マーヤが部屋を出ていくと、代わりにジェイシス様がベッドのそばに歩み寄ってきた。


「気分はどうだ?」

「おかげさまでだいぶスッキリしましたわ」

「それは良かった」


 言いながら、また私の頭をワシワシと撫でる。


「もう! だから、もう子供じゃありませんって!」


 必死に抵抗すると、急にジェイシス様の動きが止まり、笑っていた表情に影がさす。


「……まあ、何があったかは大体想像がつく。獣人の発情期……それも、あの歳で初めての発情期だ。自我を保ってなど居られなくなるはずだからな。そこへキリア嬢をやったと聞いて、驚いて行ってみれば……怖かったな」


 再びがしがし頭を撫でられて、今度はされるがままになりながら、じわりと涙が溢れてくる。


「……むちゃくちゃ怖かった。獲物を狙うみたいな目で見られて、身体が急に熱くなって……私、気づいたら神殿を飛び出してたの」

「まあ、獣人っていうくらいだからな。本質は獣だ。それと、君の話から察するに、殿下の発情にあてられて、このままだと君も発情期に入りそうだが、大丈夫か?」

「え、ちょ、ちょっと待って! 私は普通の人間よ? なのに、なぜ発情期に入るの!?」

「獣人の番いで、しかも既に君の魔力炉は獣人の魔力に染まっているんだぞ? 変身できないだけで、もはや君の分類は獣人だ」


 特に深く考えることもなく、さも当然のように言い返されてしまい、言葉が出てこない。

 私のそんな様子に、ジェイシス様はさらに呆れたようになる。


「まあ、なんにせよ、これで魔力暴走を止めるのは難しいと思っていたんだが……」

「……ん? どういうこと? なぜ過去形なの? グウェン様に何かあったの!?」


 なぜか先を話すのを躊躇うジェイシス様に勢いのまま詰め寄ると、言葉を選ぶように話し始めた。


「……どうやら先ほど神殿から出てこられたらしい。俺が感知するに、魔力は正常値に戻られている。それに……」

「え!? どういうこと!?」


 ジェイシス様の言葉を遮り、慌ててグウェン様の魔力を探る。


 地下の神殿内ならいざ知らず、なぜ同じ王宮にいるのに気配を感じなかったのだろう。

 ざわつく心を鎮めながら、ゆっくり探ると王宮の執務室の辺りに彼の魔力を感じた。

 先日から変わったハッキリとした感覚で、彼の存在を感知することができたことに、少しホッとする。

 けれど、それと同時に、そのすぐそばにグウェン様には劣るものの、それに似た獣人の魔力を感じる。


 ――え? 一体どういうこと!? これは誰? まさかラナリス嬢!? でも、今朝感じた彼女の魔力はもっと微弱だったはず。それに、なぜグウェン様と似た波動をしているの!?


 固まったまま動かない私に、ジェイシス様が何かを察したのか、大きめのため息の後、先ほどの話の続きを話し始めた。


「まあちょっと聞け。君をこの離宮に連れてきて、しばらく経った頃、神殿から殿下が出て来たんだが、その殿下のそばに別の獣人の魔力を感じてな。あれは今朝来たとかいう例の獣人か? だが、今朝はこれほど強い魔力を感じなかったんだよな〜。他にも獣人が来ているのか? それとも力を隠していたのか……何か知らないか? まあとにかく理由はよくわからんが、殿下の魔力暴走の危機は去ったようだ」


 何か知らないかと言われても、私自身が一番それを知りたい。

 でも、魔力暴走の危機が去ったということは――。

 グウェン様の魔力暴走を、そして、彼の発情期を、あの人が止めたということになる。

 私が神殿から出た後、グウェン様とラナリス嬢の間に何かがあったのだ。

 発情期を止めることができるような、何かが……。


 そう考えると、酷く胸の辺りがチクチクと痛み始める。

 認めたくはないけれど、そういうことなのだろう。


 逃げてしまった私には、グウェン様に何かを言う資格などない。

 心の中の葛藤を抑えて、ジェイシス様に彼女のことを話さなければならない。

 気持ちを切り替えて、私が今わかっている事実を伝えなければ。


「……それはたぶん……今朝来た獣人の末裔、ラナリス嬢だと思います。私が感知するに、彼女の魔力はグウェン様の魔力に似通っています」

「そ、それは……」

「……きっとグウェン様の魔力に染められたんでしょう」


 言い切りながら、私は一体どんな表情をしていたのか。

 ジェイシス様が心配そうに、こちらを見ていた。


お読みいただきありがとうございます。

またまた不穏な感じで申し訳ありません。

ジェイシスの頭ポンポンが書きたくて……いつもいいところを持っていく男です。笑

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆の評価、いいね、ありがとうございます。

いつも大変励みになっております。

不定期更新が続いていて大変申し訳ありません。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ