第五章 すれ違う番い ①獣人国の神殿
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扉を開けると、目の前には真っ白な神殿がそびえたっていた。
「これが獣人国の神殿だ」
国王様の言葉に、思わず神殿を見上げる。
神殿の周りにはキラキラと金色の霧のようなものが立ち込め、妙な威圧感を感じる。
その圧に、思わず息を飲む。
「この金色のキラキラは……」
「獣人の魔力ですわね」
私と同じく神殿を見上げながら、ラナリス嬢が口を開いた。
その言葉に改めて金色の霧とそれに守られている神殿を見つめる。
「とてつもない魔力を感じます……これが王族が守ってきた神殿なのですね」
「そうだ。この神殿は、我が先祖がノイザリア王家から託されたものだ。周りは強力な獣人の魔力で覆われていて、獣人以外は入ることが叶わぬ。だが、グウェンの番いであり、獣人の魔力に染まったキリア嬢であれば、入れるはずだ。そちらのラナリス嬢も獣人の魔力持ちなのであれば、問題ないだろう」
国王様は一通り説明を終えると、意味深に私に向かって微笑みかけた。
きっと、離宮で話していたように、発情期を止めてこいということなのだろう。
――発情期を止めてこいと言うなら、なんでラナリス嬢も一緒に連れてきたの!? 私がまだ子供だから、保険ってことなのかしら?
胸にモヤモヤとした思いを抱えながら、国王様の笑みに頷く。
国王様は神殿の入り口へ向かうよう視線で促し、獣人の魔力のせいで神殿にそれ以上は近づけないのか、その場で私たちを見送った。
それから私とラナリス嬢は、獣人の魔力が漂う階段を上り、大きな扉の前に到着した。
「この扉の向こうにグウェン様がいらっしゃるのですわね……!」
ラナリス嬢は嬉しそうに扉を見上げるものの、扉にある封印の陣から漂う強大な魔力に怯んでいるのか、なかなか扉に触れようとしない。
けれど、確かに強い魔力を感じはするものの、なぜか慣れ親しんだ温かい魔力に感じられた私は、迷わずその封印の陣に手を伸ばした。
すると、手のひらから、よく知っている魔力が体に流れ込む。
――え? これは……グウェン様の魔力??
そう思った次の瞬間、封印の陣全体が一瞬パッと光ったかと思うとスッと消え、それと同時に、扉自体も消えてしまった。
「扉が……消えた?」
「ちょ、ちょっと、キリア様、今一体何をなさったのです!?」
封印の陣の魔力に怯えて、ただ私を見守っていただけのラナリス嬢が扉が消えた途端、急に元気になる。
「ただ、触れただけです。特に何もしてませんわ」
「本当かしら? まあでも、これで神殿に入れますわ」
そう言って、彼女は先に中に入ろうと歩き出す。
慌てて私もそのあとを追って中に入った。
神殿に一歩足を踏み入れると、咽せ返るような甘い香りが押し寄せてきた。
慣れたはずの甘い香りに、なぜか段々身体が火照ってくる。
その上、グウェン様の気配をはっきりと感じた途端、急に鼓動が速くなり、思わず胸に手を当てる。
――え!? 一体なんなの!? あまりの香りにあてられた??
もう一方の手で顔を扇ぎつつ、グウェン様の気配のするほうを見ると、そこには祭壇のようなものがあり、禍々しいほど強大な魔力を放つ大きな球体が置かれていた。
そして、その球体の傍らに、祈るように跪いてるグウェン様の姿が見えた。
「グウェン様!」
思わず声をかけると、俯いていたグウェン様の顔が上がる。
ゆっくりと私のほうへ振り返り、信じられないものを見るかのように、目を見開いた。
その瞬間、さらに甘い香りが強くなる。
「……キリア? キリアが、なぜここに……」
苦しいのか、胸を押さえながら弱々しくそう告げるグウェン様。
顔を見た途端、私の鼓動がより一層速くなる。
「あの、国王様に言われて、参りました。私が、グウェン様の発情期をなんとかすると……その、お約束したのです……」
「兄上が……?」
胸が苦しくなり、言葉に詰まりながら話す私に対し、グウェン様は困惑の表情で一言そう告げると、再び俯いてしまう。
呼吸が乱れていて、辛そうなグウェン様。
――早く私がなんとかしなくては!
「あの、グウェンさ」
「帰ってくれ!」
私の言葉を遮るグウェン様の声が響く。
「え?」
「帰れと、言っている……」
「え? あの、グウェン様?」
「今、ここに、……君に、いられると、困る。だから、早く……帰ってくれ!」
苦しそうに息をしながらも、声を荒らげるグウェン様。
そんなグウェン様の周りには、彼から溢れ出した魔力が湯気のようにじわじわと広がっている。
そして、その濃度はどんどん上がり続けているように見えた。
――いけない! 魔力暴走が始まってしまうわ!
「グウェン様、このままでは魔力暴走が始まってしまいます! だから、私と――」
言いながら、私はグウェン様の元へ駆け寄り、彼の手を取った。
すると、その瞬間――
「……ぐっ、……帰れっ!」
苦しそうにそう叫びながら再び顔を上げたグウェン様が私の手を叩き落とした。
あまりの衝撃に呆然と立ち尽くしていると、叩いたままの手を見つめ、息を荒くしながら、ふと顔を上げたグウェン様と目が合う。
その視線に、恐怖で身体が凍る。
それは、これまで彼から向けられていた愛しい番いに向けられるものではなく、獲物を見つけ狙いを定めた獣のような、荒々しいものだった。
何かが身体中を駆け巡り、鼓動がどんどん速くなる。
初めて目の当たりにした獣人の発情期。
気づくと私は恐怖のあまり、泣きながら駆け出していた。
お読みいただきありがとうございます。
不穏なところで終わっていてすみません。
ついにキリアにも発情期の兆しが……。
そして、ラナリス置き去りなので、果たしてどうなるのか。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
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