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第四章 発情期 ①キリアの変化

 暖かい朝日と、マーヤの悲壮な呼び掛けで目が覚めた。


「キリアお嬢様、朝でございま……お嬢様!? 一体どうなさったのです!?」


「ん……んもう……朝から騒がしいわね。一体どうしたの?」


 眠気まなこで私が答えると、なぜかマーヤはアワアワと身体を震わせている。


「そ、そのお身体はどうなさったのですか?」

「お身体……? そういえば、夢の中でもずっと身体のあちこちが痛かったのよね。なぜかしら……」


 言いながら、ふと自身の身体を見下ろし、見覚えのない膨らみに目を見開く。


「え? ええ!? ど、どういうこと!?」


 前世でもお世辞にも豊満とは言えなかった胸に、一定以上の膨らみがある。

 それに手足はもちろん、元々長かった髪もさらに長くなっている。


「マーヤ、鏡!」


 ――一体どうなってるの??


 頬に両手をあてながら、自身の身体を見渡す。

 着ていたネグリジェも、今にもはちきれんばかりといった状態だ。


「どうしてこんなことに……」


 しばらくして、マーヤが息を切らしながら戻ってきた。

 てっきり手鏡を持ってくると思っていたのに、マーサは大きな姿見を重たそうに抱えている。


「……お嬢様、姿見で、ございます……!」

「ありがとう、マーヤ! 大変だったでしょう。少し休んでちょうだい」

「ありがとう……ござい、ます……」


 マーヤを隣の控室へ下がらせ、姿見と向き合う。


「ええ!? ……これが、わたし……?」


 そこには、サイズの合わなくなったネグリジェを着た、美女が立っていた。


「いやいやいやいや、いくらなんでも急成長し過ぎでしょ!」


 思わず自らにツッコミを入れてしまう。


「それにしても……差し詰め、フランス人形が着せ替え人形かフィギュアになった感じかしら? 一体なぜこんなことに……」


 考え込んでいると、扉の向こうから騒がしい声が聞こえ、離宮の入口付近にはっきりとグウェン様の気配を感じる。


「……もしかして、私の変化に気付いたとか? でも、この姿で出るわけにはいかないし……まずは何か着るものが欲しいわね」


 応急処置的にベッドからシーツを引っ張り出して、身体に巻きつけ、様子を伺っていると、マーサが扉越しに声をかけてきた。


「あの、お嬢様。今少し開けてもよろしいですか?」

「マーヤだけなら構わないけれど……。それより今すぐに着る物が欲しいわ。ひとまずマーヤのお仕着せの予備を貸してもらえるかしら?」

「そうでしたね! 申し訳ありません! すぐにお持ちいたします!」


 そうして、マーヤは隣の控室からお仕着せを持ってきた。




「あの、お嬢様、苦しくはありませんか……?」


 マーヤは自身のお仕着せを着た私に、申し訳なさそうに告げつつ、胸元を見る。


「やはり別の服を、探して……」

「構わないわ。グウェン様をあまりお待たせしてはいけないもの」

「そ、そうですね……」

「グウェン様は応接室かしら?」

「……はい」


 納得がいかない表情のマーヤが渋々といった様子で扉を開け、応接室へと向かった。


 グウェン様はソファにも座らず、扉の前で待ち構えていたようで、ノックをするとすぐに自ら扉を開いた。


「……キリア!?」


 私の姿を見た瞬間、声を上げ、その場で固まってしまった。


「……あ、あの……グウェン様?」


 声をかけても、固まったまま動かない。

 グウェン様の手を取り名前を呼ぶと、ようやくハッとした様子で動き出した。


「!? キリア……そ、その姿、それにその衣装……」


 そう告げながらゆっくり視線を反らすと、頬を染め、顔を手で覆う。


「……グウェン様?」


 ――いつものグウェン様なら、迷わず一目散に私を抱きしめて来ると思ったのに……。


 今までにないグウェン様の反応に思わず私まで戸惑ってしまう。


「……いや、その……一体、どういう状況なんだ……?」


 一生懸命取り繕いながら問いかけるグウェン様に違和感を覚えつつも、朝からのことを説明する。


「朝起きたら、こんな姿になっていて……着る物がなかったので、とりあえずマーヤのお仕着せを借りたのです」

「……マーヤ、なんていい仕事を……」

「え……? グウェン様??」

「あー! いや、すまない! 今のは忘れてくれ。それにしても、なぜこんな急成長を……まあ、本来君の歳を考えるとそのくらいが普通なのか……とはいえ、さすがに急すぎる。もしかしたら番いの契約が影響しているのかもしれないな。すぐにジェイシスを呼ぼう」

「契約の影響……なるほど、そうですわね」


「……と、その前に……衣装をなんとかしないとな。急ぎ、ドレスを手配しよう。それまでは離宮にこもっていてほしい」

「え? ……なぜですか? 別に今のままでも……」


 ――ジェイシス様なら、私の前世のこともご存じだし、そんなに気にする方でもないとおもうのだけど………。


「……いやその……今のキリアはこれまで以上に魅力的過ぎていけない。しかも、そんな衣装を着ている君を他の奴に晒すなんて、私が耐えられない!」


 そう言いながら、逸らしていた視線をしっかり合わせて、愛しそうに私を見るグウェン様に、思わず頬が熱くなる。


「……グ、グウェン様」

「それに……その姿をアーヴァイン公たちに見られでもしたら、何を言われるか……」

「……な、なるほど。わかりましたわ」


 ――確かにあの三人なら、メイド服をグウェン様があえて着せたとか言い出しかねない。


「では、少しだけ待っていてくれ」


 そう言うと少し名残惜しそうに、グウェン様は離宮から出ていった。



 ――あのグウェン様の様子……。いくらなんでもメイド服を着たのは間違えだったわね。マーヤに普通の私服を借りれば良かった……。まあ、今更言っても遅いけど。


「それにしても、番いの契約の影響かもしれないって言ってたわよね……?」


 グウェン様を見送り、再び部屋に戻って姿見の前に立ち、さきほど言われた言葉を思い返す。


「仮契約の影響だけじゃなく、番いの契約自体の影響もあるなんて……それもまた私だけ……」


 少し不貞腐れた気持ちになりながら、鏡の中の自分を見つめる。


「まあでも、これだけ美人になれるなら、ね。身長も伸びたし、これならグウェン様とダンスを踊っても身長差で困ることはなさそうだし、何よりようやく大人っぽいドレスも着られる!うん! 前向きに考えよう!」


 実際、お披露目会でグウェン様とダンスを披露する予定だったけれど、身長差が大きく断念した経緯がある。

 これで彼と並んでも、子供と大人というふうに思われることもなくなる。

 そう思うと、どこかホッとする部分もあった。




 それからしばらくして、一体どこから調達してきたのか、たくさんのドレスを抱えて、グウェン様は戻ってきた。


「その……グウェン様、こんなにたくさん、一体どちらで……?」


 受け取ったドレスはどれも新品のようで、中には宝石をあしらった豪奢なものもある。


「まあ、なんだ……その……色々と君のために準備をしていたものだから……少し調整してもらったが、問題ないと思う……」

「調整……?」


 ごにょごにょと何やら気になることを小声で言っているが、調整とは一体……。

 もしかして、グウェン様は、私が成長することを見越して、ドレスを準備していたとでもいうのだろうか。


「あ、いや、その……とりあえず、この中で気に入ったものに着替えてくれ。外にジェイシスを待たせてある」

「え!? では、急ぎ部屋で着替えてまいります! マーヤ、その間にジェイシス様をお通しして!」

「かしこまりました」

「キリアがどのドレスを選ぶのか、楽しみだな」


 グウェン様はそう言って、私室に戻る私を嬉しそうに見送った。

お読みいただきありがとうございます。

ようやく答え合わせという感じで、キリアの身体が成長しました。

もはや章タイトルが種明かしな感じになってしまっていますが、

次はグウェンに変化が起きていきます。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆の評価、いいね、ありがとうございます。

いつも大変励みになっております。

不定期更新が続いていて申し訳ありません。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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