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第三章 離宮暮らし ③準備?

 離宮で暮らすことが決まり、なぜかすぐに国王様からの許可もおりてしまい、その日のうちに離宮で暮らしを始めることになった。

 私の荷物は父様が既に手配してくれたとのことだ。


 にもかかわらず、なぜかグウェン様の部屋から移動すると、離宮には私用としか思えないサイズの可愛く豪奢な調度品が並んでいた。


「え……? どういうこと? さっき決まったばかりですよね?」


 思わずエスコートしているグウェン様に問いかけると、なぜか視線を逸らされる。


 ――これは、絶対事情を知っているわね。


「グウェン様? 一体どういうことですか?」


 グウェン様にやんわりと笑顔で詰め寄る。

 するとなぜか若干嬉しそうに頬を染めながら、ごにょごにょと小声で事情を話し出した。


「……それは、その……キリアが、いつ嫁いできても、良いように、と、だな……兄上が……」

「え!? 国王陛下が!?」

「ああ……なんでも、私がキリアを見つけたその日から準備を始めていたらしい」

「……!?」


 なんて行動の速さ! さすが弟を溺愛している国王陛下。


「結婚式の日にサージェスト公爵邸に送る予定で王宮内に保管していたものを、今回離宮に運ばせたとのことだ……」

「は、はあ……」


「気に入らなかっただろうか? もし、嫌なら、正式に結婚するまでに新しいものを作らせるから、遠慮なく言ってくれ!」

「い、いえ、そんなことはありません! とても気に入りましたわ。良いお品ばかりですし、使い勝手も良さそうで……。ええ、本当に使い勝手が良さそう……」


 申し訳なさそうに私の様子を伺うグウェン様に答えながら、後方を振り返ると、一緒に付いてきた父様がなぜか余裕の笑みを浮かべている。

 どうやら国王様と父様はグルのようだ。


 なぜなら……調度品の大半が、我が家で長年愛用しているものと酷似している。


 嫁がせたくないと言いながら、いざとなったら最高級品を贈りたいと考えた結果なのだろう。


 ――国王陛下にどれだけお金を使わせてしまったのかと思ったけど、この笑みは父様が大半出していそうね……。母様は知っているのかしら?


 私室に入ってさらに驚いた。

 アーヴァイン公爵邸の私の部屋と少し間取りが異なるだけで、そこにはほぼ同じ空間が広がっていたのだ。

 色んな意味を込めて父様を睨むと、悪戯が成功した子供のように、したり顔で笑っている。


「驚いただろう? キリアが喜ぶだろうと思って、屋敷の調度品と同じにしたんだ。これなら環境の変化もあまり感じないから寂しくないだろう?」


 どうやら父様は父様で、少し早く家を出る娘を案じてくれていたらしい。

 そんなふうに言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。


「もうっ……ズルイですわ。でも……ありがとうございます、父様」


「……うゔ。やっぱり嫁にやりたくない〜〜〜」

「ああもう、お前、今さら泣くなよ。な、ほら、毎日会いにくるんだろ?」

「……ぐすっ。来るに決まってる……」


 私の言葉に泣き出してしまった父様を、その後ろに控えていたジェイシス様が面倒臭そうに宥めている。

 せっかく少しウルッと来ていたのに、台無しだ。


 それよりも……やっぱり毎日来るつもりらしい。

 何気にアーヴァイン邸で暮らしていた頃でも、毎日顔を合わせることなんてなかったと記憶している。

 キース兄様も毎日来ると言っていたし、騒がしい毎日になりそうだ。



 それから、いつまで経っても帰りたがらない父様を、ジェイシス様と秘書官たちがズルズルと引きずっていった。

 さらにそのすぐ後には、同じようにジェラルド様に引きずられながら、執務室へ戻るグウェン様を見送った。


 一人離宮に残された私は、やっと静かになった部屋で、マーヤが淹れてくれたお茶を飲みながら一息つく。


「やっとゆっくりできたわ……! こんな日が毎日続いたら、身体が持たない……」


 項垂れる私に、マーヤの同情的な視線が注がれる。

 窓の外を見ると、もうすっかり日が暮れていて、燃えるように木々が紅く照らされていた。


 朝からの怒涛の展開に、まるでもう数日経ったかのように感じてしまう。

 実際は半日足らずの出来事だったのだが、ここに来てようやく今日起きたことを振り返ってみる。


「仮誓約の弊害、ね……」


 あの苦しさを思い出し、思わず身体がブルッと震え出す。


「お嬢様!?」


 心配したマーヤが駆け寄り、背中を優しく撫でてくれる。


「あんな苦しい思いをするのは二度とごめんだわ……」


 この離宮で生活する限り、グウェン様のそばで生活する限り、きっと大丈夫なのだと信じたい。


 震える私にマーヤが温かいお茶を淹れ直してくれたところで、扉をノックする音が響いた。

 返事をすると、そこには国王陛下の侍従の姿があった。


「国王陛下より、本日の晩餐にいらっしゃるように、とのことです」


 ――ええ!? 予想はしてたけど、早過ぎじゃない!?


「は、はい。『承知いたしました』とお伝えください」


 心の叫びを必死に押し殺しながら返事をすると、侍従は一礼をして去っていった。

 本音を言うと、今日はもう疲れ切っているから、そっとしておいてほしかった。

 でも、父様が噛んでいるとはいえ、これだけのものを用意してもらって、断ることなんてできない。


「替えのドレスもないのに……」

「ドレスならございますよ」


 大きくため息をつきながら、そう呟くと、微笑みながらマーヤが嬉しそうに答えた。


「屋敷から持って来たの? えらく早いわね」

「いえ、王弟殿下からの贈り物が、クローゼットに大量にございます」


「……え?」


 予想はしていたけれど、さすが兄弟、仕事が速い。

 いや、この場合は、我が家に贈っていた物以外にも用意していた可能性が高そうだ……。



 晩餐は国王陛下と王妃様、そしてグウェン様と四人で王宮の広々としたダイニングでとった。

 けれど正直、何を食べたのか、全く覚えていない。

 公爵令嬢として、ひと通りのマナーは学んできたし、グウェン様との話が決まってからも母様に言われておさらいをしてきた。

 だから、マナーに不安もなかったし、緊張もしなかったものの、国王様と王妃様の怒涛の質問攻めに、食事どころではなかったのだ。


 馴れ初めから始まり、それに嬉々として答えるグウェン様。

 嬉しそうに私の顔を見て、「まさに運命的な出会いだったのです……!」と、とびきり甘い表情で言い出し、それからキラッキラの笑みを惜しみなく振り撒きながら、私への惜しみない賛辞が始まった。


 あまりのイケメンオーラと甘過ぎる言葉の数々に、あっという間に私の頭はキャパオーバ―となり、気づけば目の前にはニヨニヨと緩み切った生暖かい表情で見守る国王夫妻の笑顔があった。


 ただ、デザートが美味しかったという記憶だけが残っている。



 その後、離宮までエスコートするグウェン様は、いつも以上に上機嫌で……。

 廊下を私の歩調に合わせてくれながら、ゆっくりと二人で歩く。


「キリア、先ほどは私ばかり話してしまってすまない。君とこうして食事ができるなんて夢のようで、年甲斐もなくはしゃいでしまった」


 蕩けるような笑みを浮かべて、そう告げるグウェン様は、本当に楽しそうだ。


「その上、こうして就寝前の時間まで君と過ごせるなんて……本当に夢のようで……」


 少し切なさをはらんだ表情で、月明かりに照らされながら、どこか遠くを見つめるグウェン様。

 その姿はおとぎ話に出てくる王子様のようで……まあ、本当に王子様なのだけれど。


 番いを求め続け、早逝すると言われて過ごした日々を思い出しているのだろうか。

 そんな彼の横顔を見ていると胸が締め付けられ、思わず止まって、エスコートされている腕をくいっと引き寄せる。


「グウェン様、夢じゃありませんよ」

「キリア……そうだな。夢のキリアにはこうして触れられないしな」


 そう言って、私の手をゆっくりと持ち上げ、そっと口付ける。


「っ!?」


 驚いて見上げると、私の手に触れながら、柔らかく微笑むグウェン様と目が合う。

 その表情があまりに綺麗で優しくて、さらに愛しくて堪らないと言わんばかりの視線に、なんだか火照ってしまう。


 ――な、何これ、胸の辺りがギュッてなる……。


 そしてそのまま、スルリと手のひらを重ねたかと思うと指を絡ませてきて、気づけば恋人繋ぎができあがっていた。


「うん。やっぱりこの方が良いな」


 頬を赤らめたままあわあわと戸惑う私に、グウェン様が満足そうに微笑む。


 ――その笑顔は反則よ〜〜!


 笑顔もだけれど、いつも以上に漂うむせ返るような甘い香りに、のぼせたような感覚に襲われる。


「どうした、キリア? 疲れてしまったか? 今日は大変な一日だったし、まあ当然か……今夜はゆっくり休むといい。ほら、離宮に着いたぞ」


 王宮から離宮へと続く渡り廊下の前で、立ち止まると、グウェン様はなぜか離宮を見渡してから、握っていた手を解く。


「え?」


 解かれたことに驚いていると、グウェン様から魔力が溢れ出し、金色の光を帯び始める。

 そして、その金の光が少しずつ離宮を包み込んでいった。


「グウェン様、これは一体……?」

「結界だ」

「……結界? でも確か、父様が帰り際に二重結界を張っていたような……」


「確かにアーヴァイン公の結界も強固ではあるが、やはり不安だからな。私の魔力で張った結界なら、そんじょそこらの者、いや、人間には破ることができない。これで安心だ」


 グウェン様の魔力で張った結界のおかげで、離宮がほのかに金色に輝いていて、暗闇の中で浮き立っている。

 なんとも幻想的な風景なのだけれど……。


 ――つまりはこの離宮、三重結界!? もしかして、王宮よりも厳重なのでは!?


 私を見ながら満足そうに笑うグウェン様の隣で、離宮をただ茫然と見上げていた。




 その夜、私は不思議な夢を見た。

 真っ白な明るい空間に立っていて、誰かに呼ばれているのにその姿が見えなくて、ずっとその誰かを探す夢。


 なぜかその間中、身体のあちこちが痛くて堪らなかった……。

お読みいただきありがとうございます。

お待たせしてしまい、申し訳ありません。

ようやく離宮生活がスタートしました。

めちゃめちゃ振りで終わっておりますが……お待たせいたしました。

ようやく第一部のご感想でいただいていたことが起きます。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや⭐︎の評価、いいね、ありがとうございます。

いつも大変励みになっております。

不定期更新が続いていて申し訳ありません。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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