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第三章 筆頭宮廷魔導士 ③王弟からの手紙


 王宮から帰宅した私たちを待っていたのは、私宛に届いた王家の刻印が施された一通の手紙だった。

 屋敷に着いてすぐ家令から私に渡されたその手紙を父様が横から奪い取り、送り主を見て愕然としたかと思うと、母様に満面の笑みを向けられ、嫌そうに私に手紙を返す。


 一旦リビングに落ち着き、王家からの手紙だと全員が息を呑む中開封すると、中には便箋が一枚。


 そこには王弟殿下こと、サージェスト公爵の直筆で『三日後、改めてキリア・アーヴァイン嬢に会いに伺う』とだけしたためられていた。

 全員が大きく息を吐いて一斉に脱力したのは言うまでもない。


 王家の刻印の封蝋がついていたため、最初は国王からの呼び出しではないかと疑ったのに、この脱力感たるや……。

 なぜわざわざ王家の刻印入りで送って来たのか。


 とりあえず、早急に王命で婚約を結ばされるということは免れたらしい。

 まあ、まだこの後に来るかもしれないけど……。


 事情を知らない母様は、手紙を見て、満面の笑みで父様に詰め寄る。

 そのおかげで、私が魔塔で何を聞いたのかについては、母様も交えて夕食後に話すことになったのだけれど……

 ジェイシス様の言っていた通り、魂の入れ替わりについては話そうと思っても言葉にできなかった。


 あの時のジェイシス様同様、話そうとすると制約魔術に引っかかるようで、言葉にならない。

 さらにそれでも無理に喋ろうとすると、息が詰まって苦しくなってしまう。


 私のその様子を見て、最初は「ジェス殺す……」と不穏な呟きをしていた父様だったけれど、そこに関してはきちんと彼は無罪である旨を主張して、多分信じて貰えたはずだ。多分……。


 番いに関しては、父様が話さずにいようと思っていたことまで全部話されてしまったようで、「やはりジェス殺す……」と再び不穏な呟きを繰り返していたけれど、あの時父様が何を聞いたのかが気になって仕方なくて、私は思わず聞いてしまった。


「父様は一体ジェイシス様から何を聞いてあのように崩れ落ちておられたのです?」

「あ……それはだな……」

「あら、あなた。そこまで動揺されるようなお話をお聞きになったの?」


 あ、そうだった……!

 崩れ落ちた話は母様には内緒だったんだ!

 すっかり忘れてた。


「い、いや、何……そ、そんな気にするような話じゃ……」


 父様狼狽えてるなあ……。


「そうなのですか?」


 内容をよく知らない兄様たちも、思わず聞き返す。


「ああ。……王弟殿下と……その、番いの……ぃ」

「あなた。はっきり仰ってくださいませ」


 笑顔の母様の圧が怖い……。


「だから、王弟殿下と番いの契約を結ぶことだ……!」


 父様が勢いよく放った言葉に、全員が一瞬言葉を失った。

 兄様たちは二人揃って「ああ〜〜〜〜」と叫びながら空を仰いで涙を流している。

 そんな兄様たちを尻目に母様は「あら、では準備で忙しくなりますね」となぜかとても楽しそうだ。

 当事者である私はというと……まあ、予想はしていたので、特に大きな衝撃はなかった。


 とはいえ、番いの契約と私の魔力の回復の関係について、ジェイシス様からも詳しくは聞けていなかったので、その辺の話を聞こうと思ったのだけれど、父様はじめ、兄様たちまでもがお葬式のような悲壮感たっぷりの状況だったため、詳しく聞くことは断念した。


 きっと王弟殿下に聞けば詳しく教えてくれるはず。

 それにきっと当事者である彼なら、私の事情も話せるに違いない。

 三日後に訪ねてくると言うのであれば、そこで聞けばいっか。


 結局そのあとは、王弟殿下もとい、サージェスト様が三日後に来るという話が中心となり、母様が私の当日の衣装やお茶会の準備をウキウキし始め、それを辛そうに眺める父様と兄様たちの姿が印象的だった。


 いくら我が家が公爵家で、相手も公爵家と言っても、相手はまだ王位継承権を持つ王弟殿下。

 その上、国王陛下と大変仲が良いとか。

 もうこれは……拒否なんて絶対できないよね。

 というか、訪ねて来るという時点で王命なのでは? と思ってしまっても不思議はない。

 「来てほしくないのに、迎えなくてはいけない……」と父様は頭を抱えていた。

 

 そんな中、カイン兄様は「病み上がりなのだから、領地に静養に今すぐ行かないか?」などと言い出し、キース兄様が「さすがにそれは王家に失礼すぎる」と宥めていたけれど……

 カイン兄様の目が少しヤバそうだったのが気がかりだ。


 三日後、どんなことになってしまうのか……怖い予感しかしない。



 ◇ ◇ ◇



 食後の話し合いを終え、私はなんとか自室のベッドに滑り込んだ。

 今日一日だけで色んなことがありすぎて、頭の中がすでにキャパオーバー気味だ。


「一旦頭の中を整理しよう! じゃないと、三日後までに聞きたいことがまとまりそうにないわ」


 ベッドから這い出て、ジェイシス様から貰った本を机に置くと、紙と筆ペンを取り出した。

 一度書き出してみようと思ったのだ。


 けれど、入れ替わりの転生について書こうとしたが、何かが邪魔をして紙に書くことができない。


「制約魔術ってここまで有効なの!? なかなかやるわね……頭の中で考えるしかないってことか」


 仕方なく、再びベッドに寝転がり、天蓋の天井を見上げながら、ボソボソと今日のジェイシズ様との会話を振り返る。


「……私は元々こっちの魂で、突然変異の獣人である王弟の番いだった。だけど、二十五年前にどっかの誰かの思惑で、異世界の魂と入れ替えられた。で、私も入れ替わったこちらの魂も、それぞれに肉体を得て、生活していた。ところがまた何者かによって、こちらの世界に無理矢理呼び戻された、と。そのせいで魔力が枯渇して、今の私は魔力無し状態……か」


 このどっかの誰かって一体誰なのか……。

 多分ジェイシス様が話そうとして、話せなかった部分がまさにここなのだ。

 私に生まれて欲しくなかったってことは、王弟殿下の敵ってことよね。

 彼と話すことで、この部分の謎が溶けたりしないだろうか? 


「そういえば……獣人の本の中に、番いの契約について載ってないかな?」


 ふと思いたち、机から本を取り、パラパラとめくって見る。

 すると、最初の方のページにその記載はあった。


「あ! これだ! 『番いの契約』について。…………って、ええ!?」


 ざっと目を通して、思わず声を上げてしまった。


 そこには、【番いの契約とは、血の契約と誓いの儀式のことを指し、血による魔術契約と番いの絆を示す誓い(接吻)を捧げるものである】と書かれていた。


 

 兄様たちが叫んだ理由がわかったよね……いやむしろ、私が全力で叫びたい。


お読みいただきありがとうございます。


次の章でようやくサージェスト公爵と再会です。

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