第三章 離宮暮らし ①父様たちの到着
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グウェン様のおかげでようやく身体の不調が落ち着き、支えられた状態のまま部屋をぐるりと見回す。
そこは今まで入ったことのない広い部屋。
青や黒を基調にシンプルに整えられたその部屋は不思議ととても落ち着く空間だ。
そして、私が居る場所は、その部屋の一際大きなベッドの上だった。
――も、もしかして、ここはグウェン様のお部屋!? それも寝室のベッドの上!?
きっと落ち着いて対処するために、慌てて自室に連れてきてくださったのだろう。
仕方ない状況だったにしても、冷静になってしまうと、急にドキドキと心拍数が上がる。
その鼓動は、私を抱きかかえているグウェン様にもしっかり伝わっていたようで……
「キリア? どうした!? 急に脈が速くなっているが、大丈夫か? まだどこかつらかったりするのか!?」
心配そうに私の顔を覗き込むグウェン様。
「い、いえ、だ、大丈夫です」
慌ててそう返すものの、覗き込むグウェン様の顔がどんどん近づいてくるものだから、より一層鼓動が速くなってしまう。
「キリア!? 無理をしてはいけない。ジェイシス、どうしたら……」
「殿下が離れればすぐ治りますよ。いくら番いの緊急時だからと言っても、未成年を寝室のベッドで抱きかかえるなど、本来あってはならない状況ですからね」
「あ……」
指摘されてようやく気づいたのか、グウェン様が少しだけ私から距離を取る。
けれど、抱きかかえている手は放さない。
ジェイシス様はそんなグウェン様を見て、大きくため息を吐いた。
「こんな状況、もしサイに見られでもしたら……」
父様に見られたら……なんて、想像するのも恐ろしい。
だけど、こういう時ってなぜか間が悪いもので……。
ドンドンドンドン!
突然部屋にけたたましいノック音が響き渡った。
そして、父様の私を呼ぶ声が聞こえてくる。
「キリア!! キリア!! ここにいるのかい! キリア!!!」
「……やはり来たか」
ジェイシス様が面倒そうにそう言うのと同時に、扉が勢いよく開かれ、私の名前を叫ぶ父様と兄様たちが部屋になだれ込んで来た。
そして、私たちの状況を見た途端、三人は開口したまま固まってしまった。
――ああ、やっぱり……。
思わず両手で顔を覆う私とジェイシス様。
けれど、グウェン様はまったくどこ吹く風といった様子で、私を抱きかかえたまま、父様たちに笑顔を向けている。
「……で、殿下……これは一体どういうことですか?」
ようやく動けるようになった父様が、目を瞬かせながら、信じられないものを見るようにグウェン様に尋ねる。
「キリアが非常に危ない状態だったので、応急処置を施したところだ。詳しくはジェイシスに聞いてくれ」
「キリアが危ない状態だったのはわかっております。私は、なぜこのような場所で、そのような状態になっているのかを伺いたいのですが……?」
平然と答えるグウェン様に笑顔で詰め寄る父様が怖い。
「ま、まあ、サイ。今の状態は確かによろしくないが、キリア嬢が危なかったのは事実だ。それに、俺もずっと一緒だったんだ……だからな、落ち着け」
必死に父様を宥めようとするジェイシス様。
最初は、なぜ殿下の味方をするのかと言わんばかりに睨みつけていたが、ジェイシス様の言葉に徐々に落ち着きを取り戻していく。
「そ、そうだな。私としたことが……ジェスがずっと居たなら、大丈夫だな」
父様の言葉に私とジェイシス様が胸を撫で下ろそうとした矢先、今度は兄様たちが吠え出した。
「父上! 何を絆されてるんですか! つまりジェイシス殿は、殿下がキリアをこの部屋に連れ込むのを容認したのですよ!? 全く信用ならないではありませんか!」
「そうだよ! ただ見守ってただけじゃないか!」
さすが兄様たち、なかなか鋭いところを突いてくる。
けれど、ジェイシス様はしっかり止めるところは止めていたし、そのおかげで私は助かったわけで……。
「……兄様たち、ジェイシス様は有能ですよ。ちゃんとグウェン様を止めてくださいましたもの」
「キリア!!」
私が口を開いた途端、三人が一斉にこちらを見て声を上げ、近づいてくる。
その声と動きに驚いて、思わずグウェン様の腕を掴んでしまう。
すると、なぜかグウェン様は嬉しそうに抱き寄せようとしたのだけれど、父様たちの動きが早かった。
「キリア! 無事だったんだね! 本当に良かった……! ですが、殿下! まだ結婚前の娘をこのような場所に連れ込むなど、言語道断です!」
父様がそう言うと同時に、カイン兄様が私をグウェン様から引き剥がそうと腕を伸ばす。
グウェン様は、嫌そうな顔をしつつもすんなり私を引き渡した。
その意外な行動に、私とカイン兄様は思わず目を見開く。
すると、グウェン様は「無理矢理引っ張られたら、キリアが痛いだろう?」と困ったような表情を私に向けた。
どうやらさっきまで私の苦しむ様子をずっと見ていたのが応えたようだ。
なんだかトラウマを植え付けてしまったみたいで、申し訳ない。
そんなことを思っていると、私を抱き上げたカイン兄様が唖然とした表情になっていた。
「殿下がそんなことを言うなんて……キリア、一体何があったんだ?」
――あれ? そういえば、今朝の騒動の時も、屋敷に戻った時も、カイン兄様はいなかった気が……。
「カイン兄様は何もご存知ないのですか……?」
「ん? ああ。俺はさっきまで夜勤で騎士団に詰めていたんだが、兄上にキリアのピンチだと言われて連れて来られたんだ」
「……ということは、私が屋敷で倒れたことも――」
「何!? キリア、倒れたのか!?」
言葉を遮られ、急にすごい勢いで顔を近づけられて、抱き上げられた状態のまま思わずたじろぐ。
「は、はい……」
「もう大丈夫なのか!?」
「さきほどようやく動けるようになったところで……」
「安静にしてなきゃダメじゃないか! そんな状態で何でこんなところに居るんだ!」
言いながら、抱き上げているカイン兄様の腕に力が入り、ぎゅっと強く抱きしめられる。
「きっとこれまでの心労が祟ったんだろう。なのに、またこんなところに。だからあの時俺と一緒に逃げようと言ったんだ……もういっそ、番い契約なんて放置して、キリアは俺と……」
私の頭を撫でながら、耳元でぶつぶつと不穏なことを言い始めたので、慌てて事情を説明する。
「あ、あのね、兄様、違うんです! 倒れたんですけど、普通の魔法ではどうしようもなくてジェイシス様に渡されていた転移魔道具でグウェン様の元に転移して助けていただいたのです!」
早口でまくしたてたせいなのか、カイン兄様が理解できていないだけなのか、兄様はポカンとしたまま首を傾げる。
「……殿下に助けていただいた?」
「はい。私はグウェン様の魔法のおかげで助かったんです」
私の言葉にカイン兄様は一瞬目を見開いて、不思議そうにキース兄様を見た。
「……兄上、それは本当なのか?」
「……ああ、そうだ」
キース兄様はなぜかとても悔しそうに頷く。
「私やキースの魔法ではどうすることもできなかったが……今のキリアの様子を見るに、どうやら殿下が救ってくださったようだな」
不本意そうにそう告げながら、父様は私の頭を優しく撫でた。
見上げるとホッとしたような、とても嬉しそうな表情の父様と目が合う。
――もの凄く心配させてしまったんだなあ……。
「……さて、クレイヴン筆頭宮廷魔導士殿。事情をご説明いただけますかな?」
父様の見たこともない恐ろしい笑顔に、ジェイシス様は引き攣りながら微笑み返していた。
お読みいただきありがとうございます。
寝室のベッドの上で抱きしめられている状況に、保護者乱入。
父様たちが怒らないはずもなく……次もお説教は続きます。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
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