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第二章 仮誓約の弊害 ②再覚醒の能力(グウェン視点)

本業が忙しく、思った以上に更新が空いてしまって申し訳ありません。

キリアが帰った後、同時間軸のグウェン視点になります。

◆グウェン視点◆


 キリアを乗せた馬車が、王宮からどんどん離れていく。


 つい今朝までこの手の中に彼女の温もりを抱えていたのに、またしてもあっという間に取り上げられてしまった。

 彼女が成人するまでのあと数ヶ月の辛抱とはいえ、別離の切なさはやるせないものがある。


 もうほとんど見えなくなってしまった馬車の方角をずっと見続けていると、側近のジェラルドが無遠慮に私を小突いた。


「さあ、殿下! 早く執務室へ戻りましょう。儀式とお披露目のせいで仕事が山積みなんですから!」


 ジェラルドを一瞥して、大きくため息を吐く。


 仕事を終えれば、キリアに会いに行けるのだろうか。

 それともまた以前のように公爵家の面々が立ちはだかってくるのだろうか。

 せっかく仮誓約をして、お披露目までしたというのに、状況が全く変わっていないというのはどういうことなのか。


 そんな不満が顔に出ていたのか、ジェラルドとは反対側で見送っていたジェイシスが私に憐れむような視線を向ける。


「殿下……申し訳ありません。もうあのバカはどうしようもないかと。ただ、邸で奥方にしこたま怒られてくると思うんで、そうしたら事態は少しは変わると思いますよ」


 あのバカことアーヴァイン公爵に辛辣な言葉を向けつつも、ジェイシスはどこか面白そうにそう告げた。


「……そうなることを切に願う」


 確かにアーヴァイン公の妻リザベルは強い。

 それはもう、色んな意味で。

 私も公爵邸に通い何度もその相手をしたが、正直何を考えているのか全く読めない。


 だが、アーヴァイン公は彼女に惚れ抜いているらしく、本当に頭が上がらないようだった。


 やはり彼女に期待するしかないだろう。


「……ところで、アレは渡してくれたか?」

「ええ。渡しておきましたよ。何かあれば、即殿下の元へ転移するとおっしゃってました」

「そうか……」


 転移の魔法陣が組み込まれたペンダント。


 本来であれば、私に直接転移する魔法陣を組み込んで渡したかったのだが、「殿下の位置が常にわかるのはマズい」と止められてしまったのだ。


 けれど、そんな小細工などしなくても、キリアは私へ転移するための道具と認識してくれたようだ。


 さすが私の番い……!


 それに今朝気づいたことだが、どうやらキリアは私の気配が読めるようになったようだ。

 特に本人からそう報告された訳ではなかったが、感覚と現実を比較するためにチラチラとこちらを伺っている姿がなんとも愛らしくて、思わずその様子を眺めてしまったくらいだ。


 あんな愛らしい姿、他の者が見て惚れてしまったらと思うと……。


 いけないとはわかりつつも、時より彼女を閉じ込めてしまいたくなる衝動に駆られる。

 そんな私の葛藤に気づいてか、妙に呆れた表情をしながらジェイシスがこちらを見ている。


「何だ? 何か言いたいことがありそうだな」

「いえ、殿下も表情が豊かになられたなあ〜と思いまして。少し感慨深くなっておりました」

「っぐ! そんなことには気づかなくてもいい!」


 嬉しそうにニヤニヤと若干からかいを含んだジェイシスの声に少し腹が立つ。


 だがまあ、昔から私を知るジェイシスにとっては、そう思っても仕方がないのだろう。


「あ、そうでした。ちょうど先ほどキリア嬢にも話したんですが、昨夜の魔力波動について、殿下にも詳しくお伺いしたいのですが……」


 と、切り出したところで、ここが王宮の玄関口であることを思い出したジェイシスは、そこで言葉を区切ると、私の執務室で仕事をしながらで構わないので話を聞きたいと乞うてきた。


 そうして、私とジェイシス、それにジェラルドは、そのまま連れ立って執務室へと移動することになった。





 執務室に入ると、予想通りの書類の束、いやこれはもはや塔とでも言うべきか、それがいくつも形成されている状態になっていた。


 けれど、一昨日からの書類の増え方がおかしい。


 昨日の儀式と披露宴のためにと、一昨日ジェラルドとともに必死に書類の山を片付けたのだ。

 一日やそこらでこんなに急増されてはたまったものではない。


 これは、明らかに『私の仕事ではないもの』が混ざっている。


 ジェラルドが書類の塔を一つ一つ見聞していくのを待つ間、私は執務室の中央のソファーに座り、ジェイシスに向かいの席を勧めると、彼は話の続きを話し始めた。


「では、早速ですが、先ほどの話の続きを……」

「魔力波動、と言っていたか?」


「はい、魔力波動です。昨夜、キリア嬢とバルコニーに出られた後……まあ、何があったか深く追求はしませんが、何かしらの行動によって、殿下の魔力が大きく変動して、王宮一体に光の波動のようなものが走りました。覚えていらっしゃいますか?」


「ああ。あの覚醒のことだな」


 ジェイシスの言葉に、昨夜のことを思い出し、ポンと手を打つ。


「キリア嬢も同じようなことをおっしゃってましたが、殿下の中では正式な覚醒だと思われたとか……」


「そうだ。私は最初の覚醒時、キリアの額に接吻をして魔力を流し込んだだけだからな。やはり額では効果が薄いのではないかとずっと考えていたのだ」


 私の言葉にジェイシスは「確かに普通はそう考えますよね〜」と言いながら考え込んでいる。


 私としては、正直、覚醒云々については、特に気にしていないし、なんならその後キリアが倒れてしまっているので、覚醒自体になんら興味はない。


 彼女を守るための力がまた増えると言うのであれば、それは喜ばしいことだが、所詮はその程度だ。

 それよりも……あの前後のキリアの様子があまりにも可愛く、今でも思い出すと頬が緩む。


 ――キスをする前の瞳を閉じて、戸惑いながらも私に身を預けてくれた時のあの高揚感! そして、唇を離してからゆっくりと開かれるあの恥じらいを含んだ瞳がなんとも色っぽくて……!


「殿下……覚醒時のキリア嬢の様子は思い出さなくて大丈夫です」

「え……?」


 どうやら、口から言葉が漏れていたらしい。

 ジェイシスは平然としているが、書類を仕分けていたはずのジェラルドが驚愕の表情でこちらを見ている。


「ゴホン! 私も自分の体の中での魔力の変動を感じたし、実際自分が光っているのも見ている。その中で、最初の覚醒からさらに何かが開かれたような、そんな感覚を覚えた」


「なるほど。だから、正式な覚醒ではないかと……」

「ああ」


「どのように能力が覚醒したか、気になりますね。新しい能力がさらに覚醒したのか、それとも元ある能力が進化をしたのか……」


 ジェイシスは言葉を止めると、一瞬挑発するかのような挑戦的な目を向けてきた。


「殿下、ちょうどいいので、今試してみませんか?」

「試す……?」


「ええ。殿下の能力は『完全解呪』。まずはそれが進化しているかどうか、試してみましょう。もし、変化がなければ、他の能力に目覚めている可能性が高いので、その場合は少し時間がかかるとは思いますが……」


「なるほど。『完全解呪』が進化か……実際、前回完全解呪の力に目覚めた際、特に意識せずコレが使えると気づいたが、今回はそういう感覚がない。もしかしたら、進化の可能性が高いのかもしれんな」


 私の言葉に、ジェイシスは確信を得たかのように、グッと手を握る。

 それから意を決した表情で、私を真っ直ぐ見据えた。


「殿下! では、早速、私で試してみてください!」


 真剣なジェイシスの表情に思わず頷き、彼の中の魔術を探る。

 けれど……


「いや、お前の制約魔術って、確かこの間全部解除したよな? 今見たら兄上と結び直した誓約魔術しか残ってないし。これ一つじゃ検証のしようがない。それに解除してしまったら、また兄上に迷惑がかかるから却下だ!」


 魔術への探究心を削がれてしまったからか、急に落ち込むジェイシス。

 そんなジェイシスと私の視線が、思わず一点に向かう。


 書類の仕分けを黙々としているジェラルドだ。


 確か彼は、侯爵家の嫡男で、国王の従弟……絶対何某かのしがらみとともに生きているはず。

 なんなら、先日ようやく結婚式の日取りも決まり、浮気防止にと、制約魔術を交わさせられたと嬉しそうに話していた。


「あ、ちょうど良さそうなのがいますね……」

「そうだな。ちょうど良いのがいたな……」


  よくわからないまま不適な笑みを浮かべる二人に詰め寄られたジェラルドは、悲鳴をあげながら取り押さえられ、二人に囲まれるようにソファーに座らされた。

 さらにご丁寧にジェイシスが魔法で拘束まで施した。


「ちょっと、俺が何をしたって言うんだよー!」


 既に従者ではなく、友の顔で抗議するジェラルド。

 けれど、私は知っていた。

 キリアに会いに早朝から離宮に忍び込んだ私の情報を、早々に兄上とアーヴァイン公に知らせたのは彼なのだ。


 ――この裏切り者め!


「思い当たる節があるんじゃないか? 特に今朝のこととかなぁ……」

「……な、何のことでしょうかね〜」


 誤魔化しているけれど、明らかに動揺して目が泳いでいる。

 そんな彼をじっと見つめて、制約魔術を探る。


「……おお。先日のジェイシスには劣るが、やっぱりさすがは侯爵家の嫡男で、私の従兄弟だな。制約魔術がいっぱいあるじゃないか!」


「あ! 殿下! お願いですから、ルミナとの制約魔術だけはーー!」


 婚約者と結んだ制約魔法。


 先日の自慢話からすると、婚約者が浮気と判断する要素をジェラルドが行った場合、この制約魔術が発動し、婚約者に即座に伝わるらしい。


 無理矢理破った場合も同様に、相手に伝わるという。


「ほう〜これか。婚約者との制約魔術だな」


「殿下! 前は選り分けに時間がかかるとおっしゃってましたが、見ただけで細かく制約魔術がわかるのですか!?」


 私の反応に、ジェイシスのテンションが一気に上がる。


「そのようだ。へえ〜面白いな。この感じだと選んで解除ができそうだな。ちょっとやってみるか!」


「え! ちょっと殿下!? ちょっ、おいグウェン! いい加減にしろっ!」


 ついには完全に友人モードで抗議をするジェラルドを尻目に、私は絶対解呪の魔法を発動させる。


 すると、ジェラルドの周りに白とピンクの小さな光が現れ、次の瞬間それらが「パンッ!」と音を立てて弾けた。

 弾けた光がさらに細かく粒子となってキラキラと降り注ぐ。


 それを見ながら、ジェラルドはソファーから崩れ落ちた。


「あああ……ルミナとの制約魔法が……これ絶対嫌われた……」


 泣きながら力無くそう呟くジェラルドに、少しやりすぎたかなと思い始めた私は、細かく散らばった粒子をじっと眺める。


 ――もしかしたら、復元もできたりしないか?


 目を瞑り、粒子を集めるイメージを描きながら、少しずつ魔力を組み上げる。

 今の魔力のまま行使してしまうと、獣人にしか扱えない制約魔術ができあがってしまう。

 ここから魔法に変換して……!


「あ……」


 ジェイシスが声を上げた。


 ゆっくり目を開くと、そこには制約魔術に使用されたであろう魔法陣が、キラキラと目の前に現れていた。


「なんとか復元できたか……?」


 私の言葉に床にうずくまっていたジェラルドが顔を上げる。


「グウェン……これは……!」

「……殿下……やりましたね! 復元成功です!」


 じっと魔法陣を何かと照らし合わせながら、ジェイシスが興奮の声を上げた。


「よし。ということは、やはりこれは能力の再覚醒なのか」

「そのようですね……」


 ジェイシスは信じられないものを見るように私を見る。

 そんな私たちの顔を交互に見ながら、ジェラルドが不安そうに尋ねる。


「で……その……制約魔術は元に戻ったのか?」

「ああ、受け取れ」


 魔法陣をジェラルドに向かって放つと、彼の体の中へスッと消えていった。


「ああ〜〜良かったー!!! これでルミナに嫌われずに済む!」


「あ〜……喜んでいるところすまんが、たぶん一度解除しているから、ルミナ嬢の元でも一度弾けていると思うぞ」


「え?」


「普通弾けた魔術が復元することはないので、婚約者殿はさぞ困惑されているでしょうね……」


「ええ!?」


 私とジェイシスがジェラルドの肩を叩きつつ告げる。

 ジェラルドの顔が再び不安そうに曇る。


「ど、どうすれば……」

「あ、殿下の能力についてはしばらく伏せておいた方が良いので、上手く説明してくださいね」


 困り果てたジェラルドに、ジェイシスが無情なひと言を告げると、部屋の中に悲痛な叫び声が響き渡った。


お読みいただきありがとうございます。

書きながらジェラルドがちょっと可哀想になってしまいました。

なので、最後はきちんと復元を。

思った以上に長くなってしまったので、グウェン視点続きます。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや⭐︎の評価、いいね、ありがとうございます!

大変励みになっております。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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