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第一章 第二覚醒 ②番いの効果?

位置移動の再調整になります。

ややこしくて申し訳ありません。


以下、そのまま移植しております。

 グウェン様の甘い誘惑に負けた私は、気がつくと彼に抱きかかえられていた。


 不思議なことに、なんとも言えない安心感と心地良さ、そして何より心の充足感がハンパない。

 以前抱きかかえられた時にはこんな感覚はなかったのに、一体どういうことなのか……。


 ――もしかして、これが仮誓約の、番いの効果なの??


 抗えない心地良さに身を任せていると、その様子に満足するかのようにグウェン様が私に向かって微笑む。


 ――ちょっと待って!? この距離のイケメンの笑顔には、まだそんなに耐性がないのよ〜〜!!


「キリアが私に身を委ねてくれている……それだけでこんなに幸せな気持ちになるのだな」


 どうやらグウェン様も同じ気持ちを味わっているらしい。

 グウェン様は番いの効果をより感じているようで、私の頬に手を当て、私を見つめながら、さらに満面の笑みを向けてくる。


「番いの契約を結ぶ前でも君に触れると幸せだったが、さらに上があるとは……! キリア、私と出会ってくれたことに感謝する」


 そう告げるグウェン様の目にはじんわりと涙が浮かんでいた。


 きっと彼は、この世界にはいないと言われ、諦めるよう言われた時から、信じたくない本能と戦い続けてきたのだろう。


 それにもし私がもう少し遅く現れていたら……彼はこんな感情を知ることもなく、その生を終えていたかもしれない。

 そのことを想像するだけで、今の私は胸が張り裂けそうに苦しくなる。


 どうやら私は、好きという感情を抱くよりも先に、必要不可欠な存在という感覚を知ってしまったみたいだ。


 一緒に居るだけで満たされてしまうこの感覚……。


 ――獣人って本当に不思議だわ……。


 私がそんなことを考えていると、外から人の声が響いてきた。

 きっと父様たちが王宮に着いて、離宮に到着してしまったのだろう。


 ――今のこの状況を見られたら、とってもマズイのでは!? ど、どうしよう……!?


 そう思った時、ふと私の視界に、先ほどからひょこひょこ動いていたグウェン様のケモ耳が目に留まる。


 ――これだわ! これを利用すればもしかしたら……!


「グウェン様! 父様たちが離宮に来たみたいです!」

「そのようだな。先ほどから声や足音が近づいている」

「ええ。なので、今すぐ狼の姿になってください!!」


「……どういうことだ?」 

「今は時間がありませんので、とにかくすぐに狼になってください!」


「?? ……よくわからんが、キリアの望みとあらば」


 不思議そうな顔をしたまま、グウェン様が光に包まれる。

 あっという間に目の前に大きな銀狼が現れた。


「これで良いのか?」

「はい! 大丈夫です! あとは私に任せてください!」


 私が胸を張ってそう言うのと、目の前の扉が勢いよく開いたのはほぼ同時だった。



「キリア!!! キリア、無事か!?」


 扉が開いた途端、声をあげる父様を先頭に、次々に室内へと人が雪崩こむ。

 そして、私と銀狼姿のグウェン様を見た瞬間、父様たちは固まった。


 ――そういえば、前に獣のお姿を見せていただいた時も二人きりだったわね。父様たちは見るのは初めてなのかしら? あれ? でも、母様は見せていただいたと言っていたような気が……。


 固まる父様の後ろには、キース兄様、それに国王陛下にジェイシス様までいらっしゃる。

 その後ろには数人の護衛騎士を連れていた。


 よくよく考えると今の私は寝起きの上、ネグリジェ姿で、本来であれば、他人には絶対に見せたくない姿だ。


 ――百歩譲って、グウェン様は番いで婚約者だからいいとして……こんな姿で陛下の前にいるなんて……。とはいえ、今はそんなことを気にしている場合じゃないわ!


 そんな私の思考とは裏腹に、完全に固まっている父様や兄様の後ろで、陛下はなぜか涙を流して喜んでいるし、一番後ろにいるジェイシス様はそんな彼らの様子を見ながら肩を震わせている。

 ジェイシス様はどうやら笑いを必死に堪えているらしい。


 ――このカオスな状況は一体何なのかしら? とにかくまずは陛下に挨拶を! それからこの固まった父様たちをなんとかしなくちゃいけないわね。


「陛下。こんな朝早くから申し訳ありません」


 私がベッドから降りて陛下に頭を下げると同じようにグウェン様も銀狼姿のままベッドから降りて、私を庇うように陛下の前に出た。


「兄上……キリアは何も悪くありません。我慢できなかった私のせいです。申し訳ありません」


 自分のしでかしたことにようやく気付いたのか、グウェン様が耳をへにょんと垂らして、陛下に頭を下げる。


「いやいや、構わないよ。グウェンの銀狼姿を見るのはいつ振りかなあ。相変わらず毛並みが綺麗だね〜! 久々に見られて嬉しいよ。それにしても大きくなったねぇ〜」


 まるで親戚のおじさんのようなことを言う陛下に、思わず笑いそうになってしまう。

 私が必死に笑いを堪えているのに、陛下の後ろではジェイシス様が肩を振るわせるのが限界だったのか、吹き出して笑い始めた。


「ふははは。陛下、それじゃあ、まるで親戚のおじさんですよ」

「そうかな? どうにもグウェン相手だと、兄というよりも親の感覚で見てしまってダメだな」


 それを聞いて、照れてアタフタするグウェン様とさらに楽しそうに笑うジェイシス様。

 四人で和やかに笑っていると、ようやく父様たちの硬直が解けたらしく、私たちのほうへと歩み寄ってきた。


「あの……父様、キース兄様、大丈夫ですか?」

「キリア! 無事か!」

「はい」


 私の質問などお構いなしに、父様が声をあげる。

 それから父様は怪訝そうな顔でグウェン様を見てから、私に優しく微笑んだ。


「よかった……。まさか、変なことなどされていないだろうな!?」

「変なこと!? そんなのあるわけありませんわ! グウェン様の毛並みを触らせていただいていたのです。相変わらずモフモフで手触りが最高なのですよ!!」


 わざとらしく誇張して伝えているものの、父様は全く疑う様子もなく、「そうかそうか〜」とホッとした表情で私の言葉を聞いている。



 ――これでなんとか乗り切れたかな……。


 そう思った時だった。


 後ろに控えていたキース兄様が父様の肩を掴み、一歩前に出ると、厳しい声をあげた。


「いくら銀狼でも、中身は殿下に変わりはないではありませんか! 独身の、ましてや成人前の娘の寝室に潜り込むなど言語道断です!」


 ――さすがキース兄様。誤魔化されてはくれないわね……。


 キース兄様のこの言葉にせっかく誤魔化せていたはずの父様の怒りが膨らんでいく。


「……確かにその通りだな。殿下……いくら番いの契約が成立したとはいえ、まだ仮です。自重していただかないと本誓約を拒否いたしますよ?」


 「拒否」という言葉に驚き、グウェン様は慌てて銀狼から人間の姿へと戻ると父様に頭を下げた。


「アーヴァイン公、申し訳ない……」


 私はというと、同じように驚き、その続きが気になって、思わず父様に質問を投げかける。


「え? 父様、拒否なんてできるの?」


 そんな話今初めて聞いた気がする。

 私の質問に、グウェン様の表情が絶望の色に染まる。


 ――別に本当にしたい訳じゃないけど、もしもの時のために、できるかどうかだけでも聞いておきたいのよね。


 父様は急に体を屈めて優しい笑顔で私を見ると、質問に答えた。


「本来は仮誓約なんて儀式自体ないんだよ。それを殿下の我儘で行ったに過ぎない。仮の誓約状態なので、本当にキリアが嫌なのであれば、本誓約の儀式をしなければいいだけさ」


 嬉しそうにそう答える父様の笑顔が怖い……。


「……父様、それ本気なのですか?」


 あまりの驚きに、父様の顔を凝視する。

 けれど、父様はというと……


「キリアを不幸にしそうだとわかったらね。当然だろう? 私が一番大事なのはキリアなのだから」


 と、とても清々しい顔でそう言い切った。

 すると、それを聞いたグウェン様は、すぐさま私を抱き上げようとする。


「あっ。グウェン様、ダメです! 今そんなことをしたら逆効果になってしまいます!」


「そうだぞ、グウェン。少し落ち着きなさい! なにもアーヴァイン公は今そうすると言っている訳ではない。キリア嬢を不幸にしそうだとわかったらと言っているだろう? むしろ、お前のその行動こそがそう判断されかねん。今すぐ降ろしなさい」


 陛下も一緒になって声をあげ、冷静な助言をしてくださる。

 グウェン様も陛下の言葉であれば、きちんと聞き入れてくれるだろう。


 私を抱えたまま悩んでいたグウェン様だったけれど、やはり陛下の言葉がきいたのか、少しして私をそっと降ろすと、父様に向き合った。


「そういうことか……。承知した。私はキリアを世界で一番幸せにすると誓おう」

「ええ。そうあることを願っていますよ。ひとまず、殿下は今朝のことを反省なさってください。キリアはこのまま我が家へ連れて帰ります」


 せっかく納得しておとなしくなったグウェン様が、父様の言葉に反応して再び吠え始めてしまう。


「何を言う! 仮であっても番いの契約を結んだのだから、キリアは我がサージェスト家へ連れ帰る。番いは共に生活するものだ」


「キリアはまだ成人前です! いくら番いであってもそれは認められません! 昨日儀式の前にもお話しさせていただいたと思うのですが……陛下」


 父様は怒りつつも、不安がる私の表情を見て、その矛先を陛下へと向けた。


 というか、そんな話になっていたなんて、全く知らなかった。

 私本人なのに……。


「ああ、そうだ。成人するまでは公爵邸で今まで通り暮らし、成人後に正式な誓約と婚姻を結んだ上でサージェスト公爵家に入る。これは決定事項だ。グウェン、お前も儀式の前に聞いていただろう?」


「……」


「さては儀式の嬉しさのあまり、ちゃんと聞いていなかったな……」


 グウェン様は図星を刺されたようで、気まずそうに顔を背ける。


「我慢しなさい。これまで通り、アーヴァイン公爵家に通えばよかろう」

「……ですが、兄上!」


「もう決まったことだ。それにそれをすることで一番可哀想なのはキリア嬢なのだぞ? 成人前にいきなり親元を離れさせるなど……お前だって、彼女を悲しませたくはないだろう?」

「……わかりました」


 渋々すぎるほどに渋々といった具合で、ようやく納得したグウェン様は、父様に私を引き渡したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

なかなか進まずな感じですみません。やっぱり父様乱入しました。

アーヴァイン公爵家に戻るキリアですが……

ここからまた大きく話が展開していきます。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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