公爵邸攻防戦⑤
お待たせしました!
番外編「公爵邸攻防戦」最終話です。
やっぱりあの人の影がチラつく感じです。
翌日、昼過ぎ。
グウェンは今日も王家の紋章の入った馬車に揺られ、アーヴァイン公爵邸へと向かう。
今日のグウェンは昨日までとは違っていた。
国王である兄にハッキリと話したことで、キリアに会いたいという思いだけでなく、アーヴァイン公爵家の人たちとこれから『家族』になることを考え、仲良くなりたいという思いも明確になっていた。
それを見た目からも表そうと、服装も式典などで王族のみが着ることを許されている、特別な正装を纏ってきた。
見る角度によって七色に輝く白の正装で、生地自体に特別な魔法が織り込まれていて、それがキラキラと七色に光る。
そして、公爵夫人をトキめかせる準備も万端だ。
昨夜、トキメキについて王妃に聞いたところ、一時間以上熱弁された上に今流行りの恋愛小説をどっさり渡され、それを持ったままジェイシスの元へ行った。
するとジェイシスは思っていた以上にリザベルの好みに詳しく、王妃に渡された恋愛小説の中から、リザベルが好みそうなものをさらに厳選し、その恋愛小説を参考に、いくつかトキメかせる手段を講じてくれた。
今日仕込んできたのは、その中でも一番高確率で刺さりそうなものだ。
「もう三日も会えていないのだ。今日会えなければ私は死んでしまう……絶対成功させてみせる!」
指を組み、思わずその場で今日の作戦の成功を祈った。
公爵邸に着くと、前回と同じように公爵夫人とキースが玄関ポーチで待ち構えていた。
馬車から特別な衣装を着たグウェンが顔を出し、降り立つ……かと思いきや、指を鳴らし、魔法でリザベルを引き寄せ、そのまま抱き上げると、キラキラと衣装を光らせ空へと舞い上がった。
一瞬のことに、啞然とした表情で固まるキース。
驚きすぎて言葉も出ないリザベルだが、目はランランと輝いている。
不思議なことに猛スピードで舞い上がっているにもかかわらず、重力を感じることもない。
ある程度まで上がったところでふわふわと浮かんだ状態になると、グウェンはリザベルの顔を覗き込み、そっと声を掛ける。
「突然申し訳ありません。キリアの母君であるあなたと、ゆっくりお話をしたかったもので……」
目の前のキラキラしたイケメンに、抱き上げられながら笑顔でそんなことを言われたリザベルは、嬉しそうにコクコクと頷くと、普段の彼女からは想像もできない、恥じらいを含んだ可愛らしい声を出した。
「わたくしも、殿下とゆっくりお話をしてみたかったところですわ……」
「キースやカインとは、剣を交えてゆっくり話しましたから、今日はあなたと二人っきりでお話しさせていただきたいです」
お姫様抱っこ状態で、キラキラのイケメンに至近距離で「二人っきりで」なんて言われてしまったリザベルは、トキメキを全身に感じて大満足したらしく、「キャー!!」と口を押さえながら小さく叫んで、少しばかりジタバタする。
事前にこうなるかもしれないことをジェイシスから聞いていたグウェンは、暴れるリザベルをしっかりと抱き止める。
そんな力強さもリザベルの心を射止めたらしい。
さらに嬉しそうにジタバタして、グウェンの笑顔が若干引き攣った。
少しして落ち着いたリザベルは「ふふふ」と嬉しそうに笑った後、「キリアは幸せ者ね」と言って、落ち着いた表情になる。
「キリアは昔から父親と兄二人に溺愛されて育ちました。だから、少し我儘なところがあるかもしれません。それに、わたくしも主人も頑固ですから……キリアもきっと頑固だと思います。もしかしたら、殿下を困らせることがあるかもしれませんわ。それでも、あの子を大切にしてくださいますか?」
真面目な表情で真っ直ぐ見つめられたグウェンは、即答する。
「はい。もちろんです。キリアのことは、自分以上に大切にすると誓います」
グウェンの真剣な表情と誓いを聞いて満足したリザベルは、再び「ふふふ」と嬉しそうに笑う。
「キリアをよろしくお願いいたします」
「はい」
やり取りを終えた途端、そんな会話をお姫様抱っこ状態の至近距離でしていることがおかしくなってしまい、思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
「ーーんか〜〜! はーはーうーえー!」
そこへ遠く下の方からキースの呼ぶ声が聞こえてきた。
すると、リザベルがグウェンに提案を持ち掛ける。
「殿下。殿下は全属性でしたわよね?」
「ああ、そうだが……」
「では、転移魔法は使えますか? このままキリアの部屋まで魔法で移動しても大丈夫ですよ。私が居る限り、公爵家の結界はすべて無効になりますから問題ありません」
リザベルの提案に、グウェンは驚きと嬉しさが入り混じる。
「使えるし、一度行った場所なら行けるには行けるが……構わないのだろうか?」
どうやらグウェンは、キリアの許可もなくいきなり彼女の部屋に現れることを躊躇っているのだろう。その理由を察したリザベルは、こともなげに告げる。
「大丈夫です。今のキリアの部屋は以前殿下が訪れた部屋とは異なりますので。ひとまず公爵邸に入りましょう」
「そうなのか。承知した」
グウェンは、少しほっとしたような、残念そうな表情をすると、リザベルを抱いたまま、再び衣装をキラキラと輝かせて魔法を使う。
あまりの光にリザベルはギュッと目を閉じた。
次の瞬間には、グウェンに抱えられたまま、公爵邸内の元キリアの部屋にいた。
お姫様抱っこからゆっくりと降ろされたリザベルは、嬉しそうに微笑むと「約束ですものね」と言って、いそいそとキリアの部屋へ案内を始める。
キラキラ光る王子様に、侍女や侍従も気づいていないはずはないけれど、リザベルの圧がそれを押し黙らせる。
キリアの部屋の扉の前に辿り着くと、リザベルはにっこり微笑んで、扉を開いた。
部屋からは驚くキリアの声と、きっと泣きながら抱きしめたのだろう、グウェンが切なそうに「キリア」と呼ぶ声が聞こえ、リザベルはそっと部屋の扉を閉じた――。
それからというもの、リザベルをトキメかせるために、あの手この手を使って公爵邸に通うようになるグウェン。
ある日は、リザベルが動物好きだと聞いたグウェンが獣化してリザベルを乗せて走り、それを見たキースやカインがなぜかリザベルにズルいと詰め寄ったり……
またある日は、キースの罠にハマり夕方になるまで玄関先でキリアのホログラムを眺めていたり。
さらには出入りの業者に化けて、厨房に入り込み、リザベルの好きなキッシュを作っていたりしたことも……。
そんな日々がグウェンと公爵家の仲を段々と近づかせていく。
それに伴って、ジェイシスから公爵家の情報がどんどん漏れてしまうのだけれど……「いずれ家族になるんだし、大丈夫だろ」となぜかジェイシスが自信満々に言うのだった。
果たして今日は一体どんな策を練って、公爵邸を訪れているのだろうか……公爵邸は今日もきっと賑やかだ。
お読みいただきありがとうございました。
ひとまず、番外編もこちらで完結です。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
そして、ブックマークや☆評価、いいねも本当にありがとうございます。
苦しい時を乗り越えられたのも応援いただいたおかげです。
またリクエストがありましたら、番外編はもちろん第二部も書ければと思っておりますが、現状はここまでとさせていただきます。
初めての長編で、ここまでいろんな話を書くことになると思っていませんでしたが、生みの苦しみは多少ありつつも、とても楽しかったです。
本当にありがとうございました!また次回作をお届けできるよう頑張ります!




