公爵邸攻防戦④(国王兄弟の場合再び)
お待たせいたしました。
番外編「公爵邸攻防戦」続きです。
やはり長くなってしまったので、分割いたします。
「はあ……今日もキリアに会えなかった……」
カインとの戦いを終え、結局キリアに会えないまま一旦王宮へと戻ったグウェンは、執務室でため息をついていた。
そこへ机に書類の束を置きながら、ジェラルドが淡々と尋ねる。
「ということは、今日は次男ですか?」
「ああ。明日はまたキースらしい。もういい加減キリアに会いたい……」
そう言いながら、机に突っ伏して項垂れるグウェン。
「そんなに毎日会わなくても良いじゃないですか。仕事もありますし、週一くらいなら公爵からも許可が下りるんじゃないですか?」
グウェンにももちろん仕事があるわけで……キリアが王宮に滞在していた頃から、グウェンはキリアと会う時間を最優先で捻出していたため、一番割を食っているのがジェラルドなのである。
そんな思いもあり、ジェラルドは若干の嫌味を込めて、グウェンに提案をした。
けれど、番いの性か、それとも単にグウェンに堪え性がないだけか、キリアに会いたい気持ちを抑えられずにいるようで……。
「毎日会えないなんて、耐えられるわけないだろう! 今でさえ、頭がおかしくなりそうだ! 正直、これ以上我慢できるか自信がない……明日は公爵邸に魔法を放ってしまうかもしれない」
そんな危ない言葉を告げるグウェンの手はわずかに震えていた。
「禁断症状で魔法放つのはさすがに……」
ジェラルドが言い切る前に、執務室の扉が開く。
「グウェン、大丈夫か?」
ノックも無しに入ってきたのは、グウェンの兄、国王陛下だった。
きっとグウェンの護衛から毎日報告を聞いているであろう国王は、心配そうにグウェンへ駆け寄った。
「兄上……! 私は……そろそろ限界です」
泣きそうな顔をしながらそう告げる弟に、兄は優しく微笑んだ。
「やはり王命を出すか? そうすれば、キリア嬢と今すぐにでも一緒に住めるぞ?」
弟を喜ばそうと、嬉しそうに提案する国王に、弟は俯いて首を横に振る。
「なぜだ? もう我慢できないのだろう? それとも魔法を使って公爵邸から攫い出すか?」
俯いたまま再び首を横に振ると、ボソッと呟く。
「……トキメキって何でしょう?」
「は?」
一瞬何を言われたのかわからず、国王はきょとんとしたまま固まった。
「公爵夫人をトキメかすことができれば、会わせてくれると言われたのです……もうそこに賭けるしか……!」
グウェンの苦しそうな声に、国王は呆れた表情になる。
「そんな真っ向から対応しなくても、王命を出すなり、魔法で攫うなりすれば良いじゃないか。しかも、今の手合わせも獣人の力は全く使っていないのだろう? 獣人の身体能力を封じているそうじゃないか」
国王の言葉に、国王だけでなく、そばで聞いていたジェラルドまでもが呆れた表情になり、二人してジト目でグウェンを見た。
グウェンは呆れられているのがわかっているのか、俯いたまま、少し拗ねたように語気を強める。
「そんなの当たり前じゃないか。キリアに卑怯者だと思われたくないし、嫌われたくない! それに……公爵家の人たちは今後『家族』になるのだから……」
国王はグウェンの言葉に思わず肩をすくめると、机で俯くグウェンの頭を優しく撫でた。
「……そうだな。家族には正々堂々と誠意をもって対応せねばな」
グウェンは顔を上げ力強く頷くと、再び先ほどの謎を国王にぶつける。
「それで兄上、トキメキって何でしょう?」
「う~ん……女心は難解だからな。王妃に相談してみようか。何か良い案が浮かぶかもしれない」
「ありがとうございます!」
段々表情が明るくなっていくグウェンに、ほっとした国王は、さらにもう一押し付け足す。
「あとは……ジェイシスに相談するのも良いかもしれないな。確か王立学校時代から知り合いなはずだ。きっと夫人の好みも知っているだろう」
「なるほど! 早速念話で聞いてみます!」
先ほどとは打って変わり、やる気に満ちた表情になったグウェンに、国王は満足そうに頷くと、王妃に念話を送る。
――明日の公爵邸訪問に間に合うように、これから準備を進めなくては……。
こうして、着々とリザベルをトキメかせるための準備が進められていった。
お読みいただきありがとうございます。
一体リザベルをどうやってトキメかせるのか…。
次でラストになります。
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