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宮廷魔導士子育て記録 ②(ジェイシス視点)

番外編ジェイシス過去話の続きです。

 元侍女を探す……と言っても、ライア妃がいた離宮は、彼女が亡くなった後すぐに閉鎖された。


 グウェン王子が使用するという話も上がったが、生まれたばかりの特殊な王子が住まうには、宮廷から離れすぎていたのだ。


 そのため閉鎖され、今は時間を止める魔法をかけ、封印状態にしてある。


 離宮で働いていた人間は、配置換えをされた者や暇を言い渡され実家に下がった者、ちょうど良いからとそのまま職を辞した者など様々だ。


 果たして、彼女に仕えていた侍女など見つかるのだろうか……。



 ひとまず、当時離宮を管理していた侍従が今は王妃宮の管理部に居ると聞き、訪ねてみることにした。


 離宮を管理していた侍従はアルダールと言って、元々はアテルナ帝国時代からライア妃に仕えていた人間だった。


「ライア様にのお側近くでお仕えしていた者は、私以外全員帝国に引き上げております。遺品なども全て帝国のご親族の元へ……」


 アルダールは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。


 そもそもライア妃の側仕えは全員帝国から連れて来た者で、亡くなったと同時に祖国へ戻っていた。


 そして、遺品の中には、陛下から贈られた宝飾品などが多かったらしく、親族たちが奪い合うように、小物に至るまで全て帝国に引き上げていったらしい。


 本来であれば、王子に受け継がれるべきものを……。

 ライア妃があそこまでして王子を守ろうとした理由が垣間見えた気がした。


「その他にライア様がご使用されていたもので、元々王国の物は全てこちらで管理しておりますが、家具や調度品ばかりで小物や衣装類は残ってません」

「そうか……」


 やっぱり無いか……。


 ある程度予想はしていたものの、結果を聞いて思わず項垂れてしまう。


 すると、何か思い当たることがあるのか、アルダールは躊躇いながらも言葉を続けた。


「ただ……もしかしたら個人的にギュリア様に渡っている物があるかもしれません。一度ギュリア様に伺ってみましょうか?」


 確かに、秘密裏に会っていたギュリア妃であれば、何か譲り受けているかもしれない。


「よろしく頼む! もしあれば魔塔に知らせてくれ」

「承知いたしました」


 そうして俺は魔塔へと戻った。



 その晩、普段は五人体制で夜泣きに対応するのだが、この一週間で疲弊し切った魔導士たちを休ませるため、俺と師匠の二人で面倒を見ることになった。


 最初は俺一人でと思ったのだが、師匠がどこからか聞きつけてきて、そんな時こそ自分の出番だと名乗り出た。

 ……まあ、まさかの進化を遂げていようとはこの時は思いもしなかったのだが……。



 一週間休んでいたおかげか、師匠の顔色は通常の状態に戻っていて、夕食を済ませてからやる気満々の表情で魔塔にやってきた。


「さて、殿下はワタシのことを覚えてくださっているだろうか?」


 親戚の爺さんみたいなことを言いながら、楽しそうにグウェン王子の部屋への転移陣に足を乗せた。


 陣を光らせ、転移する。


 光が落ち着くと、目の前にはオロオロする若手魔導士のアイラとクロード、それに銀の毛玉……もとい、仔狼がこちらに向かって魔力を放ちながら唸っていた。


「うゔぅ〜〜」

「おお、殿下! 変化(へんげ)できるようになったのですな!」


 師匠のテンションが爆上がりしている。


 変化できるということは、それだけ魔力が強くなった証だ。


「師匠! 喜んでる場合じゃないです! 結界を張るんで、下がって!」


「こんなに可愛らしいのに……そんな猛獣を扱うようにせんでも……」


「そんじょそこらの猛獣より強い猛獣ですってば……」


 ブツブツと文句を言う師匠をよそに、ひとまず殿下に向かって檻のような結界を張る。


 張った途端に唸り声から本格的な吠えモードに切り替わったようで、ミニマムなサイズには似つかわしくない鳴き声で全力で吠え出した。


 魔力が結界内でぶわりと広がる。


 すると、それまでお守りをしていた魔導士たちがオロオロと事情を話し始めた。


「つい先ほどまでは普通に人型の赤ん坊だったのですが、ミルクをあげ終わってゲップをさせようと抱き上げた途端に……」


 そう言いながら、アイラの手は震えていた。


 きっと魔力が膨らむ感覚を抱き上げる際に感じたのだろう。

 と思ったのだが……。


「急に魔力が大きくなって、気付いたら獣化していて……もふが、もふもふが……! 何ですか、あの手触り! もうめっちゃヤバいんですけど!?」


 アイラのテンションの高さに驚いていると、隣のクロードまでもが同じ感じだ。


「その上あのコロコロですよ? もう僕どうしたら良いんですか!? 見てるだけで幸せ過ぎて……」


「そっちかぁ……」


 思わず体から力が抜ける。


「怖い思いをしたんじゃないかってビビったじゃないか」


 だが少し安心するも、仔狼の可愛さに撃ち抜かれた二人の顔色は真っ青だ。

 明らかに獣人の魔力に当てられている。


 俺たちがもう少し遅ければ、危なかったかもしれない。


 どうやらあまりの可愛さに防御魔法を展開しないまま夢中になっていたようだ。


 それにしても、生まれてまだ三週間程しか経っていないはずなのに、もうもふもふな毛並みとは……獣人の成長はやはり早い。


 一方そのもふもふなグウェン王子はというと、防御魔法の檻に入れられたことを怒っているのか、ずっと俺に向かって威嚇しながら「バウバウ」と吠えている。


 ――もう少し仔狼らしく「キャンキャン」鳴くものかと思ってたよ……。


 ひとまず、二人を転移陣に送り、医務室に寄ってから帰るよう指示を出す。

 しかし、彼らは全く懲りていないようで、転移ギリギリまで殿下に向かって名残惜しそうに手を振っていた。


「それで、一体どうするつもりだ? ずっと檻に殿下を入れておくなんてのは却下だぞ」


 険しい顔つきでそう言っているが、きっと師匠はただあのもふもふに触れたいだけだろう……。


「そうですね……自分の身体に防御魔法か身体強化を施してなんとかするしかないでしょうね」


「まあそれが無難なところだな……だが、それだとワタシは数時間しか保たん……」


 やはり予想通りか。

 もふもふな殿下に触りたいだけだな、この人……。


「師匠……一体何時間抱えるつもりなんすか」


「そんなもの、抱えられる限りに決まっておる!」


 自信満々にキリッと言い放つと、早速身体強化魔法を唱え始める。


「はあ〜わかりましたよ。あんまり無理しないでくださいね」


「わかっとるよ」


 ――すでにデレデレの顔で言われても全然説得力がないんだよな……。


 そうして長い長い子守りの夜がスタートしたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

ジェイシスのあの破天荒な性格はきっと師匠譲りなんだろうなと書きながら思いました。

次は子守りにやる気満々な師匠が頑張ります。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


いつもいいねや☆評価、ご感想やメッセージなど、本当にありがとうございます!!

番外編も頑張って更新してまいります。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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