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宮廷魔導士子育て記録 ①(ジェイシス視点)

お待たせしました。

番外編、ジェイシス視点のお話です。

ライア妃が亡くなって、その後グウェンがどうなったのか……そこの部分のお話になります。

色々設定をいかそうとしたら凄く長くなってしまいまして、連載形式になります。1万字位の予定です。


 これは今から約二十五年前のお話。

 母親を亡くし、獣人の魔力を振り撒くグウェン王子と、王子をなんとか育てようと奮闘した宮廷魔導士たちの記録である――。




「師匠……この三日くらいの間にずいぶんやつれましたね」


 目の前に項垂れたように座る初老の男に思わず声を掛ける。


 元はこんなに老いていなかったのに、ここ数日の騒動で一気に老け込んでしまったようだ。

 目の下には深い隈が刻まれている。


「やっぱりいくらなんでも、魔力が半減してる状態で獣人の子どもを育てるなんて無理ですよ~!」


「ジェイシス、みなまで言うな。ワタシはライア様と約束をしたのだ。それを違えるわけにはいかぬ」


 魔塔の自室で初老の男、もとい師匠と向かい合う。


 三日前に側妃であったライア様が亡くなり、そのお子であるグウェン王子を師匠は預かった。

 頑なにグウェン王子を育てると言って聞かない師匠をどう説得したものかと頭を抱える。


 部屋の隅にはゆりかごの中でスヤスヤと気持ちよさそうに眠るグウェン王子の姿があった。


「約束はわかりますけど、さすがに師匠が育てるのは厳しいですって。すでに三日でその有様じゃないすか……」


「ワタシの命など、もうあの禁忌魔法を使った時点で朽ちたようなものだ。だから、あとはグウェン様のために使いたいのだ」


 そう言ってグウェン王子のかごへと近づき、寝顔を愛しそうに見つめる。

 まるで孫を可愛がる祖父のようだ。


 眠っている時はまだ問題ないのだが、起きてぐずると全力で魔力を放出する。

 過去の獣人に関する文献にはそれによって多くの被害が出たことが記されていた。


「とはいえ、師匠はそれで良くても、何かあって、後から大きくなられたグウェン王子がそれを知れば、きっと傷つくと思うんで……」


「うむ……それは本意では無いな……」


 いくら元筆頭宮廷魔導士とはいえ、魔力量が半減している上、禁忌魔法の呪いを受けた状態で、獣人の相手をするのはさすがに無理がある。

 それほどに獣人の魔力というものは影響が強いのだ。


 二人揃って唸りながら、良い案がないかと絞り出す。


 現状、グウェン王子の周りには俺が軽い結界を張っているが、コレを常時展開するだけでなく、食事やおしめの交換、どこでグズって大量の魔力を放つか予想がつかない。


 しかもその魔力放出状態をあやすということは、それだけの防御が必要なのだ。

 つまり、魔力量が潤沢で、魔法に長けた存在が常時付いている必要があるということ……。


 ――あれ? そんな存在うちにはいっぱいいないか?


「あ! じゃあ、いっそのこと、この魔塔で育てるというのはどうです? 一応魔塔には上級以上の魔導士しかいないんで、環境的にはこの国最高だと思うんですけど」


 師匠は思わず「その手があったか!」と手を鳴らし、その音で一瞬目覚めそうになる魔力の蠢きを感じると、咄嗟に音消しの魔導具に触れた。


 蠢き始めていた魔力がゆっくりと鎮まる。


「誰かしらが対応できる環境にしなければならないんで、ひとまずはその形でいきましょう。陛下からもすぐに許可は降りるでしょう」


「そうか。引退してはいるが、ワタシももちろん手伝うぞ」


 やる気満々な顔でこちらを見つめる師匠。


 ――いや、そもそもあんた一人でみるのが難しいからこうなってるんだろうが……。


 喉から出かかる言葉を押し込み、笑顔で言い方を変える。


「いえ、師匠にはむしろ……子守りよりも、書類仕事をお願いしたいです……」


 こうして、グウェン王子は魔塔で、宮廷魔導士たちの手によって育てられることになった。



◇◇◇



「ジェス、子守りは順調か?」


 王宮の食堂で昼食を摂っていると、後ろから突然肩を叩かれた。

 驚いた俺は、思わず咽せる。

 振り返るとそこには、昔馴染みの親友、サイラスの姿があった。


「ゴホッゴホッ。サイ。もう、お前の耳にまで、入っているのか」


 咽せながら答えると、サイはさも当然という顔をして、楽しそうに向かいの席を陣取る。

 そして、テーブルに置いたパスタに粉チーズをかけながら、淡々と答えた。


「そりゃそうさ。私は宮廷内の調整役だからね。魔塔への割り振りを見直すよう陛下からもご指示を受けている」


 そういえば、サイラスはそんな役どころだったか。


「それでどうなんだ? 殿下のお守りは?」


 サイは周りに聞こえないよう、少し前屈みに近寄って声を潜ませる。

 グウェン王子を魔塔で育てていることは、今のところ魔塔の人間を除けば、宮廷内でも上層部しか知らない。

 命を狙われたり、攫われる危険があるためだ。


 まあ、攫ったところでぐずった途端に獣人の魔力に当てられて終わりそうな気はするが……。


「殿下のお守りなあ……あ! そーいや、お前のとこのは今いくつだ?」


「ああ、うちか? 前日二歳になったばかりだ。可愛い盛りだぞ~ホログラム見るか?」


 そう言って嬉しそうに胸元からアルバムのようなものを取り出そうとする。


「ああ。ってお前、一枚じゃないのかよ。相変わらず親バカが炸裂してんな……」


 結婚してすぐに息子のキースが生まれてからというもの、こいつの親バカ振りは日に日に酷さを増していた。


 ――待てよ……これだけ親バカということは、育児もやってるんじゃ……。


「あ、なあ、サイ。お前育児もやってたりするのか?」


「もちろんだ! リザベルにばかり負担をかけては倒れてしまう。子育てに休みはないからね」


 そう自信満々に答えるサイは、実に父親らしい表情を見せる。


「殿下がどうかされたのか?」


「夜泣きが酷くてな……魔導士が必ず付いてはいるんだが、さすがに毎夜ぶっ通しで泣かれてしまうと大変でな。魔塔は時空を歪めてあるんだが、その空間に歪が出そうで、なんとかしないとマズいんだ……」


 魔塔で面倒を見ると決めてから早一週間。

 交代制でシフトを組んで見ているものの、かなりの苦戦を強いられていた。


 実際、グウェン王子の夜泣きで発せられる魔力は、上級の宮廷魔導士が三人がかりで全力で対応して、ようやく防げるほどのレベルだった。

 なので、現状毎夜五人体制を組んではいるものの、朝にはヘトヘトになり、使い物にならなくなった魔導士が部屋に転がっているのだ。


 夜泣きはするものだという認識ではいたが、まさか夜中中ぶっ通しで泣き続けるとは思ってもみなかった。


 どうやら獣人は赤子の頃から体力が桁違いらしい。


「なるほど……夜泣きか。うちのキースも凄かったが……まだ生まれて間もないのに早くないか?」


「獣人の成長は早いからなのか、既に夜泣きフル稼働だ……」


「ん~そうだなあ。キースの時は、なぜか私があやすと泣き止まないのに、リザベルがあやすとすぐに泣き止んでいたな。やっぱり母親が恋しいのかもしれないな……」


 言いながら辛そうに視線を下げる。


 赤ん坊が母親を恋しがるなんていうのは当然のことだ。

 けれど、ライア様は既に亡くなっていて、叶えてやることはできそうにない。


 どうしたものか……そう頭を悩ませていると、サイがふと思いつく。


「ライア様の匂いのついたものとかはないのか? 獣人だし、きっと匂いに敏感だろう。少しはそれで落ち着かれるんじゃないか?」


「なるほど……確かに、試してみる価値はあるな! 一度ライア様のご親族に……いや、ダメだな」


 ――グウェン王子に関することに、奴らの手を借りるのはまずい。

 何のためにライア様がそのお命を捧げたのかを考えれば、そこは避けなければならない。

 あとは……。


「じゃあ、元侍女とかに聞いてみたらどうだ?」


 サイの言葉に光明がさす。


「それだ! ひとまず、元侍女に聞いてみることにする。ありがとな。助かった」


「ああ。他にも何かあれば、いつでも頼ってくれ。リザベルにも色々聞いておくよ」


「さんきゅ。頼んだ」


 そう言って立ち上がった俺は、頼りになる友を残し、元侍女を探しに食堂を後にした。


お読みいただきありがとうございます。

グウェンの夜泣きをなんとかするために、動き出したジェイシスですが……。

続きはまた明日の夜、同じ位の時間帯に更新予定です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークやいいね、☆評価もありがとうございます。

いつも執筆の糧になっております。

番外編が生まれたのも読んでくださる皆様のおかげです。

ありがとうございます。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


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