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第九章 仮誓約②

最終話です。

よろしくお願いいたします。


 王宮の中にある大きな教会。


 まるで本当の結婚式を挙げるかのように、私たちは銀色の薄いドレスと、それに合わせた薄い銀色の正装で教会の中央に並んで立っている。


 目の前には立会人である国王陛下、その近くには父様とジェイシス様、そして、少し後ろには宮廷魔導士や宰相や重鎮たちが座っている状態だ。


「き、緊張して文字が書けない気がします……」

「大丈夫だ。私が付いている」


 小さな声で思わず呟いてしまった言葉に、グウェン様がギュッと私の手を握りながら力強く囁く。


 思わずキュンとなって、反対の手で顔を覆っていたら、その隙間から正面に居る国王陛下と目が合って、とても嬉しそうに微笑まれてしまった。


「では、殿下、こちらの書面にご記入を……」


 ジェイシス様によって目の前に置かれた巻物のような長い書類は、何重にも魔法が施されているようで、薄っすらといくつもの魔法陣が透けて見える。


 先にグウェン様が魔力を指先に集め、呪文を唱える。


「【スティロ】」


 その魔法で書類の上に文字を描いていく。

 みるみるうちに、その魔力に魔法陣が反応して紙が光を放つ。


「きれい……」


 思わず小さく漏れてしまった私の声に、グウェン様がふふっと笑う。


「続いて、アーヴァイン嬢も、こちらにご記入を……」


 いつもと呼び方が違うことに驚きつつも、ジェイシス様に「アーヴァイン嬢」なんて呼ばれるとなんだか不思議な感じがする。

 私もグウェン様と同じように指先に魔力を集めて、呪文を唱える。


「【スティロ】」


 そのまま書類に文字を描く。

 上手くいった! 練習以外で使う初めての魔法……!


 ──私魔法使えるようになったんだ!


 感慨深い思いが湧き上がってくる。

 自分が魔法を使える日が来るなんて……しかもこんな場面で。

 なんだか不思議な気持ちで胸がいっぱいになってしまう。


 私の練習の成果にほっとしたのか、心なしかジェイシス様の顔が綻んで見える。

 いつもならウィンクでも飛ばしてきそうなのに、さすがに今日のこの場面ではそれは難しいらしい。


 二人のサインが入った仮の誓約書をジェイシス様が掲げ、魔法を唱えた。


 すると、何重にも施された魔法陣が一斉に発動して、空中にたくさんの光る円を描いていく。

 綺麗というよりもとっても神秘的で、どこか幾何学的で、そしてその圧倒的な迫力に、前の世界のオーロラを見ているような感覚になった。


 みんなで魔法陣を見上げていると、ふと横から視線を感じて隣のグウェン様を見る。


 いつもの愛しそうな嬉しそうな顔ではなく、どこか安堵して、満ち足りた表情で私を見ている。

 なぜだかその表情が無性に嬉しくなってしまって、私は思わずその頬に向かって手を伸ばした。

 すると、グウェン様は一瞬驚き、私の手を取ると小さく呟く。


「こういうのを幸せというのかもしれないな……」


 私はその言葉をゆっくりと噛み締めるように頷いた。


 こうして、無事に仮の誓約は結ばれたのだった。



 ──そして、その後の披露宴は……本当にいろんな意味で大変だった。


 グウェン様やジェイシス様の予想通り、私に取り入ろうとする貴族たちがたくさん出て来てしまい、それを視線だけでやり込めてしまうグウェン様や父様がとても怖かった。


 ジェイシス様も時より会場の気温が二、三度下がってしまうような怖い台詞をボソッと笑顔で吐いていて、国王陛下や宰相を震え上がらせていた。


 けれど、目の前で巻き起こる大混乱に思わず吹き出してしまったり、気が付いたら終始笑い続けていたような気がする。


 それとは別に……グウェン様を狙っていたらしい令嬢たちがお葬式モードになっていた。

 けれど、私が番いだということで、親たちが必死に諦めさせていたのが少し胸が痛かった。


 今後何事もないと良いなあと、少しだけ心がざわついているけれど、何があってもきっとグウェン様が守ってくれるだろう。



 そんないろいろがあって、私は今、少しでも早く私を連れ帰ろうしている兄様たちから逃れようと、グウェン様とバルコニーに退避している真っ最中だ。

  

「キリア、大丈夫か? 疲れていないか? 今日はこの後も絶対に私から離れてはいけないぞ」


 とても心配そうにのぞき込む彼の目は、心配しているはずなのに、なぜか満足そうで、嬉しさがにじみ出ている。


 この、いつも私のことを心底案じてくれる優しい人がそばにいれば、不思議と色んなことが平気な気がしてきてしまう。

 あんなに不安になっていたのに、なんでも乗り越えていけそうな、そんな気がしてくる。


「大丈夫です。グウェン様のおそばにいますね!」


「ああ、そうしてくれ」


 月明かりに照らされて、月色に光る彼の髪がとっても綺麗で、思わずぽーっと見つめてしまう。


 ──私、こんな美しくてカッコイイ人とずっと一緒にいられるんだ……。


 意識し始めると急に頬が熱くなった。

 そんな想いを、少しでも伝えたい気持ちが胸に湧き起こる。


「……あの、グウェン様……その、ずっと一緒にいてくださいね?」


「え!? キリア、それって……!?」


 グウェン様の反応に、意味がちゃんと伝わったことが恥ずかしくなって、思わずその腕にしがみついて顔を隠そうとする。

 彼はクスッと笑って、ゆっくりと自分の腕から私を剥がすと、その顔を覗き込んだ。


 今までで一番幸せそうな、満面の笑みを浮かべた彼は、私の頬に手を添えて、目を瞑る私の唇にそっと口づけを落とした──。


お読みいただきありがとうございます。

こちらでこの物語は完結です。


最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。

本編はこちらで完結なのですが、番外編を書く予定です。

一応側近のジェラルド視点でのグウェンのキリアが現れる前とその後の変化の話とジェイシス視点の過去話を予定しています。


今回、初めての長編でちゃんと完結できるのかと不安を抱えつつ走ってきましたので、最後まで完走できて本当に良かったです。

それも、いつもいいねや☆評価、感想やレビューをくださった方々、そして何より読んでくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございました。


また番外編もお楽しみいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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