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第九章 仮誓約①

分割最終話前半です。

昼ではなく朝の更新になってしまい申し訳ありません。

本日は朝と夜に分けて更新予定です。

よろしくお願いいたします。

 父様たちによって公爵邸に連れ戻されてすぐ、実は私があの事件から五日間も目覚めなかったことを知った。


 従属魔法をかけられていたことと、獣人の魔力で染められた影響だったそうだけど、下手をしたら年単位で目覚めない可能性があると言われていたらしい。


 ──どうりであの時、グウェン様がものすごく心配していた訳だわ……。


 ジェイシス様も「ちょっと様子を見に」と気軽に言っていたけれど、実際はかなり心配してくださっていたらしい。

 なんなら父様たちにせっつかれて、あの日まで毎日通ってくださっていたのだそうな。


 公爵邸に戻ってきてからも、体調を心配され、屋敷からは出してもらえず、前の生活に逆戻り。


 ジェイシス様が時々診察と言って会いに来てくださり、その時に魔法を教わったりしている。


 獣人の魔力は扱いがとても難しく、今も苦労をしているけれど、魔法が使えるというだけでテンション爆上がりなので、特に大変だとは思っていない。

 しかも、なんとグウェン様の魔力のおかげで全属性!

 扱いに慣れれば何でもできるとジェイシス様に言われて、俄然やる気に満ちている。


 そんな訳で、公爵邸に戻ってきてから三ヶ月の月日が流れた。


 あの日から毎日、グウェン様から手紙と一輪の花が届く。

 それを楽しみにしていないと言えば嘘になるけれど、毎日兄様たちが検閲まがいのことをしているようで少し頭が痛い……。


 ──今朝もまた兄様たちが騒いでたみたいだけど……今日の分が届いたのかしら?


 今日は何が届いたのかなと少しソワソワしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「キリア、今良いかしら?」

「母様? ええ、大丈夫です」

 

 唐突な母様の訪れに何かあったかしら? と思いつつ、扉へと向かう。

 扉が開くと同時に甘い香りがふわっと部屋の中に入って来た。


 その香りに思わず扉の先を見ると、そこには母様と……その横で申し訳なさそうに平民風の服を纏い、一輪のガーベラを持ったグウェン様が立っていた。


「……グウェン様……そのお姿は……?」


 思わず驚きの声を上げてしまいそうになり、なんとかギリギリで抑える。


 ――母様の前で叫んだりしたら、絶対怒られてしまうわ。


「これはその……」


 少し恥ずかしそうに戸惑うグウェン様を部屋の中へ促すと、母様が謝罪の言葉を告げた。


「殿下。うちの愚息たちが本当に申し訳ありません。毎回毎回邪魔ばかり……。まあでも、愛は障害があるほど燃えますでしょ? こっそり潜んで訪ねて来るとか、良いですわね~! 今日のご訪問のされ方はとても素敵でしたわ! 思わずキュンとしましたもの! キリアが羨ましいわ~」


 謝りながらもとても楽しそうにとんでもないことを言う。

 けれど、そんな母様を見るグウェン様もとても楽しそうだ。


 それにしても……グウェン様が一体どんな訪れ方をされたのかが無茶苦茶気になる。


「そう言ってもらえると頑張った甲斐がある。毎回どう突破したものかと、作戦を考えてばかりいるよ」


 毎回そんな突破が必要な状況ということは、失敗した日は会えていないということなのかしら。

 公爵邸に戻ってから、三日に一度は会っていると思うのだけど、もしかして本当はもっと来てくださっていたりして……。


 気が付くと既に母様は部屋を出ていってしまっていたらしく、目の前には、慣れない服を着たグウェン様が私の顔を覗き込むように立っていた。


「やあ、キリア。三日ぶりだね。私の作戦がもう少し上手くいけば、もっと会える気がするのだけれど……不甲斐なくて申し訳ない」


「グウェン様……ということはやっぱりもっと多く来てくださっているのですね。兄様たちがごめんなさい……」


「いやいや、謝らなくて良い。私もこれでいて結構楽しませてもらっているんだ。今日もスパイごっこみたいで楽しかったよ」


 そう優しく微笑むグウェン様に思わずキュンとしてしまう。


 あの後、グウェン様は約束通り、真摯に私に寄り添ってくれた。

 お互いのことを知ろうと、できる限り我が家に通い、私との時間を持ってくれている。

 公爵様で、王弟殿下なグウェン様は、かなりお忙しいはずなのに……。

 

 異世界の記憶を持ち、獣人の魔力を得た私にはまだまだ慣れないことが多すぎる。

 そんな私を気遣って、私の元へ頻繁に来てくれるのだ。

 グウェン様は本当に私のことをとても大切に思ってくれている。


 番いだからなのかもしれないけれど、そんな誠実な彼の行動にいつしか自分も応えたいと自然に思えるようになってきた。


「ところでキリア、明日の準備はできたか?」


「はい。あ、ドレス! ありがとうございました。もう母様やマーヤたち侍女が大騒ぎで大変でした」


「そうか。それは良かった。早く私色のドレスを着たキリアが見たいな……」


 そう言いながら、私をうっとりと幸せそうに見つめるグウェン様。


「明日が楽しみだな」


「はい。楽しみですね」



 そう、実は明日。私はグウェン様と誓約を交わすことになった。


 誓約と言っても、私がまだ成人していないので、仮の誓約なのだけれど。

 一月前にいきなり言われた時は、仮の誓約ってどういうこと? と思わず頭を抱えてしまった。まあ、簡単に言うと「婚約」ということらしい。


 明日は仮誓約を交わす日つまり「婚約式」だ。


 貴族であれば、成人前でも婚約をすることはよくあることなので、あまり抵抗はないのだけれど……よくあの父様が折れたものだと、とても感心してしまった。


 聞くところによると、事件のせいで私をまた攫われるのではないかと不安になってしまったグウェン様が、国王陛下を動かして、当初は成人前に結婚を承諾させようとしたそうだ。

 けれど、それはさすがに難しいと判断した陛下が、成人前の仮誓約を提案したらしい。


 ちょうど事件の関係で、グウェン様に番いが現れたことが宮廷内でも話題になり、その上、アテルナ帝国とのこともあり、隠さずに大々的に公表して、私の守りを固めようということらしい。

 その為に、なぜか明日は王宮で婚約披露宴なるものが催される。


 まだ社交界デビューもしてないのに、いきなり披露宴の主役なんて……!


 正直今にも倒れてしまいそうなほど、ド緊張していて、とっても怖いのだけれど……。

 それでもきっと、グウェン様となら大丈夫。

 この公爵邸に戻ってからの彼の私への気遣いと思いやり、そして何より彼の私への愛情に、不思議と安心感が湧いてくる。



 そうして、ついに仮誓約の日を迎えた──。

お読みいただきありがとうございました。

次の後半でラストです。

本日の夜に更新予定です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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