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第八章 召喚の真相 ④ジェイシスの告白

今回切れ目が難しかったので、少し長めです。


キリアの体調を見に来たジェイシスですが……。

 ──それからしばらくした頃、部屋の扉をノックする音が響き渡った。


「入るぞ~」


 そう言って入ってきたのはジェイシス様だった。


 その姿を見て、グウェン様が一瞬眉間に(しわ)を寄せ、威嚇(いかく)するような鋭い視線を向ける。


 そんな彼を見たジェイシス様は、グウェン様に一礼すると、わざわざ大回りをして彼とは反対の、私の右側のベッド脇にやってきた。


「元気そうだな。気になって様子を見にきたんだ。具合はどうだ? 何か変わったところはないか?」


「特には何も。強いて言うなら、少し身体がポカポカしている気がします」


 うう……グウェン様の視線が痛い。


「ぽかぽか……ふむ」


 顎に手を当てそう言うと、急に私の手首に触れ、脈を取るような仕草をする。


 その様子にグウェン様はさらに威嚇するような表情になるものの、私の体調が気にはなっているのか、邪魔はせず、じっと鋭い視線を向けている。


 するとジェイシス様は、私の手首に触れていた手を離すと、今度は私の額に触れ、小さな魔法陣を展開させた。


「【シグナル】」


 そう唱えた途端、額を中心に光が広がる。


 その魔法を見たグウェン様は急に威嚇をやめ、じっと真剣にジェイシス様を見守り始めた。




 その後も、何やら難しい呪文を唱えては光を放つ動作を繰り返し、十分ほどで終了した。


 ジェイシス様の話によると、今の私はグウェン様の魔力で染め上げられている状態のため、体内の魔力の流れが不安定になっているらしい。


 ぽかぽかしているのは魔力枯渇の後、ほぼ火が枯れた状態になっていた魔力を製造する器官である魔力炉に、獣人の火種が入ったからだと説明された。


 なので、この魔力炉が安定するまでは定期的に様子を見る必要があるとのことだった。


 一通り診てもらいひとまず安心したところで、ジェイシス様は部屋を出ようとベッドを離れる。


 ──体調的には何も問題ないけど、やっぱりちゃんと定期的に診てもらっておいた方が安心だよね。


 少し不安そうな表情になっていたせいか、グウェン様は私の頭をポンポンと撫でて、ジェイシス様を見る。


「手間をかけるが、キリアのこと、よろしく頼む」


 そう言って頭を下げた。


 そんなグウェン様に力強く頷いたジェイシス様は、なぜかそのまま扉ではなくグウェン様の方へと近づいていく。


 そして、私の時と同様に、脈を取るようにグウェン様の手首を掴むと、心配そうに彼の顔を覗き見た。


「ところで、殿下の方は大丈夫なんですか? 覚醒されてからお身体に変化は?」


 グウェン様は一瞬キョトンとした後、なぜか嬉しそうに微笑む。


「ああ。特に問題はない。変化はあるといえばあるが……良い変化だ。力が溢れてくる。そして、()()が……とても温かい」


 「ここ」と言いながら自身の胸の辺りを拳でトンと叩くとじっと私の目を見つめてきた。


 なるほど……って、つまりは私に出会って、心があったかくなったって言いたいの!?


 恥ずかしい……!


 顔が熱くなってパタパタしていると、ジェイシス様が突然驚きの言葉を発した。


「良かったですね、殿下。これでライア様もうかばれるでしょう」


「母上がうかばれる?」


「ええ。生前、ライア様は殿下のことをとても心配されてましたから」


「どういうことだ? 母上は私を恨んでいたのではないのか?」


 先ほどとは一転、怪訝な表情でジェイシス様を睨みつける。


 けれど、ジェイシス様は全く気にしている様子はなく、それどころかさらに驚きの言葉を放った。


「……あの、殿下。私にも制約魔術がかけられているのですが、解いてもらえませんか? 殿下に、全ての真相をお話ししなければなりません」


 いつものジェイシス様とは違う真剣な雰囲気に、私もグウェン様も一瞬固まってしまう。


「……全ての真相? 一体何があると言うんだ。それに、私はお前を許してはいないのだからな」


「殿下。だから、先日も言ったじゃないですか。私がキリア嬢に制約魔術をかけた訳じゃありませんって。まあ、私の発言がキリア嬢に影響を及ぼしたのは確かですけど……」


 ジェイシス様がそう言った途端、部屋の気温が二度ほど下がった。

 グウェン様の目が怖い……。


「ほう……やはりお前が影響していたのか。キリアはお前のせいで苦しんだのか!」


「いや、ちょっと待っ」


 金色の魔力が不穏に放たれる。

 あまりに可哀想なので、私は思わずグウェン様の服の裾をぐいっと引っ張った。


「グウェン様、待ってください。ジェイシス様のせいじゃありませんから」


 裾ぐいに振り向いたグウェン様は……なぜかとても嬉しそうだ。


「私のキリアの仕草が可愛い……!」


「はい?」


 ジェイシス様の言葉に思わず立ち上がって魔力を放ったグウェン様の裾を後ろから引っ張ったせいで、気づけば上目遣いで裾を引っ張りながら彼を見上げる態勢になっていた。


「仕方がない。可愛いキリアに免じて、今のところは不問としよう。で、制約魔術を解けばいいのか?」


「はい!」


 え!? いやちょっと待って! それで良いの??


 私の心の戸惑いをよそに、やるぞと意気込んでいる。


 グウェン様が立ち上がると、数歩下がって扉近くまで来ていたジェイシス様は、慌ててベッドのほうへと戻ってきた。


「では、手を出せ。ただし、私が解呪を行えば、お前にかかっている全ての呪術や拘束、制約魔術が解けると思うが……問題ないのか? 区分することもできなくはないと思うが、数日かかる。どうする?」


 話の後半、不敵な笑みを浮かべるグウェン様。


 これ……きっとほんとは簡単にできるのに、私のことがあるからやらないつもりなのでは!?


 ジェイシス様は筆頭宮廷魔導士。

 立場上、必要な制約魔術はきっとあるはずだ。

 しかし彼は、全く躊躇うことなく頷いた。


「問題ないです。今すぐお願いします!」


 そう言って自らの手を差し出す。


 差し出された手にグウェン様が右手を重ねる。


 その瞬間、重なった手が金色の光を放ち、その光が何かを打ち砕いた。


 パンッ!という小さな音がいくつかして、砕けた何かがキラキラ光って消えていった。


「わぁ〜綺麗……!」


 思わず感嘆の声が漏れてしまう。


「お前……今何か大事そうな誓約魔術が解除されたけど大丈夫なのか?」


 え!? 誓約魔術も解除できちゃうの!?


「誓約魔術……ああ、それたぶん筆頭宮廷魔導士の国王と交わしてる誓約魔術ですね。さすが完全解呪……はははは」


 ジェイシス様は考え込んだ後、そう答え、引き攣りながら笑っている。


 大丈夫じゃなさそうな感じだけど、仕方ないのかな……。


「まあ、キリアが喜んでくれたから、私的には構わないんだが、さすがに兄上を困らせたくはない。あとで兄上には私から話しておこう」


「感謝します……」


「さて、では、『全ての真相』とやらを聞かせてもらおうか」


「わかりました……俺が預かった前筆頭宮廷魔導士マキュラスの記憶と私自身が持つ大切な記憶をお話しします」


「長くなるようなら座ってもかまわぬぞ」


 グウェン様はそのままベッド脇の椅子に座り込むと、足を組んでからジェイシス様に向かいの椅子を勧めた。


「いえ、俺は、このままで」


 ジェイシス様は重たい表情のまま、俯き加減で返事をする。


 そんな重い空気をよそに、グウェン様は「キリア、しんどくなったらいつでも私に言うんだぞ?」と水を継ぎ足した先ほどのコップをいそいそと手渡してきた。


 ふと触れたその手が僅かに震えているような気がして、グウェン様を見ると、少し緊張しているような、焦っているような、なんだか心許ない様子で、それを何かすることで隠そうとしている──そんなふうにも読み取れた。


 そんなグウェン様に気づいているのかはわからないけれど、ジェイシス様は少し躊躇いがちに話し始めた──。


お読みいただきありがとうございます。

今回は導入部分になりましたが、次からジェイシスによる過去の召喚の真相が明かされていきます。

(ここで飛ばした大事な誓約魔術については、番外編や閑話で書く予定です)

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


前回のもふもふ回、評価やいいね、メッセージをいただいて、とても嬉しかったです!!

本当にありがとうございます!

またラストに甘々もふもふ入れたいと思います。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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