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第八章 召喚の真相 ②贖罪

本日も2話更新予定です。まず、1本目。

泣き腫らしたキリアが色々グウェンに話します。


「少しは落ち着いたか?」

「……はい。ありがとうございます」


 体を離しつつ、グズグズに泣き続けて目を腫らした私の頭を撫でながら、グウェン様は心配そうにそう聞いてきた。


 思わず甘えてしまった……顔もボロボロ。

 こんなの見られたら、もうお嫁に行けないわ……!


「心配しなくても大丈夫だ。私がいつでも貰ってやる。むしろ、他の誰にも渡すつもりなどない」


 え? 私声に出してた? 心の声、読まれてる!?


 思わず口を押さえてキョロキョロする私を、グウェン様は楽しそうにクスクス笑いながら見る。

 その視線からは相変わらず甘さが溢れていて思わず顔が赤くなってしまう。


「ちなみにここは王宮の王族居住区にあるゲストルームだ。本当は私の部屋に通したかったのだが、アーヴァイン公の許しが出なくてな……」


「王宮……王族居住区!?」


「ああ」


 どうりで。豪華絢爛な天蓋ベッドだと思った。


「あの、父様たちは今どこに?」


「アーヴァイン公とキースは事件の騎士団関連の後処理と、アテルナ帝国との協議の準備を。カインは犯人の取り調べ中だ。皆王宮内で君の目覚めを待ちながら仕事に励んでいる」


「父様たち……怒っていましたか?」


「いや、犯人たちには国を沈められそうなほどに怒っていたが、キリアのことはまったく。むしろ、物凄く心配していた」


 国を沈められそうなほどって……。

 むしろ、犯人たちの命が大丈夫か気になる。

 とはいえ、私が父様や兄様たちに一緒に行って欲しいと言っていれば、こんなことにはならなかった。

 一人で出掛けてみたかった好奇心がこんなことになるだなんて……

 異世界を舐めていた私のせいだ……!


「やっぱり……早く謝らなきゃ」


「実は目覚めてすぐに連絡を入れようかと思ったんだが、キリアはその前に私に話したいことがあるんじゃないかと思って……」


「話? 私何か──」


「前に制約魔術に邪魔をされて話せなかった内容を聞いておきたい」


 グウェン様は私の両肩に手を置いて質問に食い気味に答える。


「で、でもあれは制約魔術が……」


「それは大丈夫だ。私の『完全解呪』で、既に制約魔術は解けている」


「完全解呪?」


「ああ。キリア、君のおかげで私は覚醒できたんだ。私の覚醒した能力の一つは『完全解呪』。どんな呪術や制約魔術も解くことができる」


 一体どこで覚醒なんてしたんだろう? と、ふと考えて、本で読んだ内容を思い出す。


 ──『番いとの出会いと接触、そして「接吻」によって「覚醒」する。─』


「あ!」


 ──あの応急処置で「覚醒」までしてたの!?


 驚きを隠しきれない私に悪戯が成功したように微笑む。


「そういうことだ。呪いに関しては獣人の魔力で無効化されている。まあ本当は完全解呪で解けていたらしいが……ジェイシスめ……ゴホンッ。あ、なんでもない。気にしないでくれ。完全解呪によって制約魔術も解けているから、心配する必要はない」


 何か今とんでもないことを誤魔化したような……。

 あまり突っ込んで聞かない方がいいのかな。


「あ、じゃあ、話せますね……」


 とはいえ、いざ話せるとなると、私が本当はキリアではないと話すことが無性に怖くなる。


 私はこの世界の人間じゃない。

 だけど元を正せばこちらの魂で……え? どう話せば良いの?


 考え込んでしまった私に、グウェン様は優しく声をかける。


「大丈夫。ゆっくりで良いから、順を追って話してみろ。私はどんな話でも受け止めるし、決して君を蔑んだり、嫌いになることはない」


「グウェン様……ありがとうございます」


 そうしてゆっくりとたどたどしく、私は魂の入れ替えについての話をし始めた。


 その間中、グウェン様は「そうか」と何度も頷きながら、優しく私の手を握ってくれた。

 その手から伝わる温もりが、焦る気持ちや不安を穏やかにしてくれているようで、落ち着いて話すことができた。



 ──話を聞き終わったグウェン様は、少し落ち込み俯き加減になりながらも、私に向かって笑みを向ける。

 その笑みがなんだか苦しそうで、思わず握られた手を両手で握り返した。


「……異世界に魂を飛ばされて、さらに向こうから連れ戻された……あれは事実だったのか。私の番いなせいで、君にはとんでもない人生を歩ませてしまった……本当になんと詫びればいいか……申し訳ない」


 そう言って、私の手を解くと、ベッドに頭がつきそうな状態まで頭を下げた。


 一方の私は、いわゆるほぼ土下座状態の王子様にどうしていいかわからず、アワアワと挙動不審になる。


「いや、そんなっ、グウェン様は何も悪くありません! 頭を上げてくださいっ」


「いや、私のせいだ! 私が獣人なんかに生まれたせいで、キリアを苦しめてしまった……」


 頭を上げずに自分のせいだと言い張る彼の肩にそっと触れて起こそうとするけれど、尚も彼は自分を責め続ける。


「それに、私がもっと自分をしっかり持てていたら、王妃に好き勝手されることもなかった……私がっ……」


 その声は悲痛なまでに強く、最後の方は泣いているのか、身体を小刻みに震わせ、声は少し湿り気を帯びていた。

 きっと何を言っても今の彼は自分を責めてしまう……そう思った私は、下げ続けている彼の頭を撫でようと、そっと手を伸ばした。


 触れた髪の最高級の毛皮のような手触りに驚く。

 およそ人間の髪とは思えない毛並み。


 こんなところまで獣人仕様だなんて……。


 一瞬ビクッとなったけれど、退けられることはなく、そのままされるがままに撫でられている。


 撫でていくと、彼の身体の強張りが段々と解けていくのがわかった。


「グウェン様。確かに私は、異世界に魂を飛ばされて、さらに無理矢理入れ替えられて、大変な目に遭いましたし、拉致もされました……」


「……」


「でもそれは、グウェン様がしたことではありませんし。そもそも番いとは、定められた運命で、神様が決めたこと、なんですよね?」


「……ああ」


 黙って頭を撫でられていた彼がそっと頷く。


「それは、変えることはできない。違いますか?」


「……そうだ。だが……!」


 そう言って勢いよく顔を上げた彼と目が合う。


「やっとお顔が見えましたね。ふふ」


 目が合ったことが嬉しくて、思わず笑ってしまう。

 けれど、グウェン様の情けないような、切ないような、やるせない表情に、思わず胸が痛くなる。


「……そんなお辛そうな顔をなさらないでください。今私は生きていて、あなたの目の前にいる。もうそれでいいじゃないですか」


「いや、しかし……」


「それにもう、誓約だけということは、状態的にはもうほぼ番いですよね?」


「……その通りだ。まあ、書面上はまだまだ番いではないのだが……」


 グウェン様は悩みながらも苦虫を潰したような顔で肯定し、そして私の顔を見て言葉を付け足した。

 

 あれかな? 向こうの世界でいうところの婚姻届は出してない的な? 事実婚的な?

 いやいや、十四歳で事実婚て……。


「ちなみに、これを取り消すことはできるのですか?」


「!? やはり私の番いにはなりたくないと──」


「違います!」


 私の質問に一気に顔を青ざめて、今にもまた泣き出しそうな表情になったので、慌てて否定する。


「だが、取り消したいと思っているのだろう? しかし、獣人の番い契約だけは『完全解呪』でも解けないんだ……すまない。気持ちを大事にすると言っておきながら、不可抗力とはいえ、次々に勝手に進めてしまって……」


「そうですけど……取り消せるか聞いたのは、もし取り消す方法があるのなら、やり直したいと思っただけです」


「やり直したい……?」


 目を見開きキョトンとした表情で、とても不思議そうに私の顔を見る。


「……私はもっと順序を踏んで、グウェン様のことを知っていきながら、絆を深めて、その上で番いの契約を交わしたかったので……」


「……ああもう。ほんと、君には敵わないな」


先ほどとは一転して、嬉しそうにグウェン様は私を見ると、再びそっと私の手を取った。


「ここまでの契約自体は取り消せないが、今すぐに誓約をする必要はない。何より誓約は本来、成人してから交わすものだ。だから、順番は逆になってしまったが、これから絆を深めては貰えないだろうか?」


 私の目をまっすぐ見てそう話すグウェン様の真摯な言葉に、私はコクリと頷いた。


「はい。私のことも知っていってください」

「もちろんだ。そうだ! キリアも全て明かしてくれたのだから、私も明かさなければならないな」


 そう言って笑うと、グウェン様は目の前で急に金色の光に包まれた──。

お読みいただきありがとうございます。

次は…ようやくもふもふ回です!

次回もお楽しみいただけますと幸いです。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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