第七章 獣人の魔力 ⑦終結(グウェン視点)
本日2話更新、2話目です。
引き続きグウェン視点になります。
この回で、キリア拉致事件は幕引きです。
◆グウェン視点◆
私がキリアに掛かりきりになっている一方で、キースはテキパキとオーガスを縛り、逃げようとする魔導士たちににじり寄っていた。
「黒い靄が何です? 要は実体を捻って縛り上げてしまえば良いのでしょう? 思い知るが良い……うちのキリアをあんな目に遭わせたのです! 普通に死ねると思わないでくださいね……ふふふ」
怯える魔導士たちは、次々に転移魔法を展開して逃げようと試みる。
ところが、彼らが足元に展開した魔法陣は次々にパキンッと音を立てて割れていった。
何度繰り返しても同じ現象が起こる。
「ど、どういうことだ!? なぜ魔法陣がっ!?」
それを見た魔導士たちは一斉に騒めき出す。
よく見ると、彼らの足元には先ほどの黒紫色の靄が薄っすらわずかに現れ、その靄からほんの少し金色の光が漏れている。
そのわずかな光が魔法陣に干渉して、次々に魔法陣を割っていた。
「……靄から魔力が逆流しているというのか!?」
そんな状況にキースも動揺しているのか、攻撃を入れるべきか悩んでいた。
黒紫色の靄が現れたということは、それがキリアに繋がっている可能性が高いからだ。
ところが、アーヴァイン公と一緒に加勢に現れたジェイシスの言葉に、状況が一変する。
「ああ、キース。そいつらはもうがっつり攻撃しちゃって大丈夫だ。今殿下がキリア嬢の呪いを完全解呪したみたいだから、思う存分攻撃してOKだぞ」
「完全解呪?」
「まあ詳しいことはまた後で。とりあえず、そいつらはそのままやっつけちゃって問題ない」
「ほぉ〜では、私も全力で加勢しようか……」
ジェイシスの言葉に、その隣に居たアーヴァイン公がキースと同じドス黒い空気を纏って、恐ろしい笑顔でそう言った。
──やはりあいつらは似たもの親子だ……。
そしてまたジェイシスが、それをとても嬉しそうに煽っていく。
「やる気になったんなら、俺、久々にサイの光魔法見たいな。あれ綺麗で好きなんだよ~。ちょうどそいつら闇属性ばっかみたいだし」
「そうか……ならちょうど良いな。キース、ちょっと手伝ってくれるか」
「はい、父上……ふふふ」
ドス黒い空気を纏う親子は、互いに不敵な笑みを浮かべた。
この後、魔導士たちはどうなったのか……気にしないでおこう。
◇◇◇
そんな彼らを尻目に、先ほどからかなり長い間魔力を注ぎ続けているが、まだまだ魔力が流れ込む。
枯渇状態と聞いてはいたが、完全にカラだったのではないかと思えるほどだ。
とはいえ、元々私自身の魔力量は純人とは異なるため、彼女に注ぎ切っても全く問題はないとは思うのだが……。
──これは……染めるというより、もはや私の魔力に塗り替えている気がしてきたな……。
そう思った矢先に、どうも魔力が最深部まで到達したようで、そこに来てようやくキリア自身の魔力炉にたどり着いた。
前回は少し魔力を与えただけだったが、今回は魔力炉ごと染めることになる。
そのため、魔力が侵食した途端、キリアの痛みも増すのか、ハッキリとした叫び声を上げ始める。
「いや、痛いっ! いやっ! やめ……」
意識はまだ戻っていないようで、目は閉じられたままだ。
けれど、かなりの痛みを伴っているのか、叫びを上げながらもさらに歯を食いしばる。
思わず頬に手を当てると、無意識に私の手を掴み、爪を立て始めた。
これがなかなかに痛い……。
だが、爪を立てながら頬に当てた手を必死に離そうとしない様子はなかなかに可愛らしいと思ってしまう。
そのうち爪を立てた辺りから血が滲み始め、彼女の頬に落ちる。
咄嗟に反対の手で拭おうとしたところ、拭った部分で食いしばっている彼女の唇に触れてしまった。
その途端、また先ほどのように、その部分が薄っすら赤く光った。
するとなぜか魔力の染め上げが一気に加速し、あんなに苦しんでいたにもかかわらず、一瞬で染め上がり、彼女の食いしばる様子も収まって、呼吸も穏やかになった。
「今のは一体……?」
穏やかな寝息を立てる彼女の体を抱きかかえ、立ち上がると、どうやら魔導士たちを片付けたキースとアーヴァイン公、それにジェイシスがちょうどこちらに向かってきているところだった。
「殿下、終わったようですね。いや~まさか血の契約まで結び終えてしまうなんて、ビックリしましたよ~」
「血の契約? ……あ! 無意識だ。あれは不可抗力だ!」
ニヤニヤしながらそう言うジェイシスに、血の契約を気付かされ、慌てふためく。
それと同時に魔力解放のために出していた耳と尻尾が引っ込んだ。
最初に現れた時の意味深な言い回しはそういうことだったのか……。
どうやら血の契約のおかげで魔力の染め上げが一気に弊害なく進んだようだ。
わかっていたのなら、もっと最初からそうしたのに……ジェイシスはそのことを知らなかったのだろうか。
それに完全解呪のことについてもだ。
ジェイシスにはあとで訊かなければならないことが山ほどあるようだ……。
そんなジェイシスの横で、この世の終わりのような様子で俯くキースと、立場など忘れたかのように全力で私を睨みつけるアーヴァイン公に、どう接したらいいものかと悩みながら、作戦の終了と退却の指示を出す。
腕の中で眠るキリアの温もりを感じて、私の胸は幸せでいっぱいになっていた──。
お読みいただきありがとうございます。
ようやく拉致事件解決しました!
思った以上に長くなってしまいすみません。
次は、王宮に戻って目覚めたキリア視点のお話になります。
かなり甘めな予定です。
次回も楽しみいただけますと幸いです。
(いけそうなら今夜更新します!)
ブックマークや評価、いいね、本当にありがとうございます。
この戦いの部分では特に、折れそうな心を支えていただきました。感謝いたします。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




