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第七章 獣人の魔力 ⑥魔力染め(グウェン視点)

本日2話更新予定です。まず1本目。

グウェン視点続きです。

キリアをケースから救い出したグウェンですが…。

◆グウェン視点◆


 ケースから出し、抱き寄せた彼女の様子をそっと伺う。

 電流やかまいたちの傷はそこまで深くはないようで、か細いものの聞こえてくる呼吸音に少し胸を撫で下ろす。


 けれど、抱き寄せた際に触れた部分から無自覚に私の魔力が流れ込んでしまい、彼女自身がどんどん金色に染まっていった。


「んぐっ……ああっ!」


 意識を失っているはずのキリアが苦しそうに声を上げる姿に、一瞬狼狽る。


 身体を離すか躊躇うが、ジェイシスの言葉を思い出し、申し訳なく思いながらも、さらに魔力を強めに流し、このまま一気に染めようと試みることにした。


「んああ……ゔぅ……」


 すると、彼女はさらに苦しそうな声を上げて呻き、歯を食いしばる。

 苦しみながらキリアが無意識に私の髪を引っ張った。


 よく見るとその手にはあちこちに切り傷のようなものがあった。


 かまいたちで切れた傷だろうか……


 その手の細さとあまりの痛々しさに、思わずその手を握りしめ、同時に治癒魔法を流す。


「キリア……すまない、私のせいで……」


 それから少しでも苦しみを減らせるように、全身にも少しずつ治癒魔法をかける。

 魔力を流し、魔法をかけながら、ふと腕や顔、見えている傷口を確かめると、その傷口のあまりの多さに胸がギュッと締め付けられた。


「キリア、守れなくて、すまない……もう二度とこんな目には遭わせない」


 そう言いながら、彼女の頬に手を当てる。

 頬にもいくつも切り傷ができ、痛々しい状態になっていた。

 その頬には涙を流した跡もくっきりと残されていて、申し訳なさでこちらが泣きそうになってしまう。


 拉致されて、拘束され、不安と恐怖と、そして痛み……十四歳の少女がそれに耐えて、今私のこの腕の中に居る。

 申し訳なさと同時に、愛おしくて堪らなくなり、思わず頬に顔を寄せ、私の唇がキリアの頬に触れた……

 触れた後、ほんのりと鉄の味が口の中に広がる。


 すると、その部分が薄っすら赤く光った。


 一瞬何が起こったのかわからなかった……。


 けれど、それまでよりもキリアの顔色がよくなり、体温が上がってきたことにホッとして、治癒魔法が効いたのだと思い込んだ私は、後ろから掛けられた声に慌てて振り返った。


「あらら〜これは予想外な感じに進みましたね〜」


 そこには、ジタバタするアーヴァイン公の口を塞ぎながら、ニヤニヤとこちらを見ているジェイシスの姿があった。

 転移魔法で駆けつけたのか、足元には薄っすら魔法陣が光っている。


 ──相変わらず神出鬼没な奴め……。


「それはどういう意味だ?」


「あ、今は気にしなくて良いです。そのまま染め上げちゃってください」


「わかっている。今やっているところだ。というか、なぜジェイシスがここにいる? 後方支援はどうした?」


「いえね、先ほど高位の従属魔法を数人で一気に放ったのを感知したんで、もしかしたらここかな〜と思いまして。それがキリア嬢に放たれていたらマズイなと……」


「!? 放たれていたら、どうマズいのだ!」


 すると、私の反応を受けたジェイシスは急に真剣な表情になり、低く落ち着いた声で続ける。


「……やはりキリア嬢にでしたか。殿下、もはや猶予はありません! 急いで染め上げてください! 魔力炉まで侵食されたら、キリア嬢はもう戻りません!」


「なんだとっ!?」


 その場の空気が一気に緊張感で満ちる。


 途端にジェイシスに口を塞がれていたアーヴァイン公も静まり、ジェイシスがそっと手をのけると、真剣な表情で私に向かって頭を下げた。


「殿下、キリアを頼みます……」


「わかった。すぐに染め上げる!」

 

 私は頷き、さらにキリアを抱き込むと、魔力染めを再開した。

 これまでとは比べ物にならない勢いで魔力を押し流していく。

 するとやはり、すぐに今までの比ではない大きな声が上がる。


「んゔぅ……うあああああああああ!」


 意識がない状態にも拘らず、耳を(つんざ)くほどの悲鳴に、思わず目をそらしたくなる。


 実際アーヴァイン公は見ていられないと耳を塞ぎ、泣きそうな顔をしながら、魔導士たちを追い詰めに行ったキースの方へ加勢に向かってしまった。


 苦しむキリアを可哀想に思ってゆっくり染めようと考えていたが、そんな悠長なことはもう言っていられない。


 どんなに苦しみ泣き叫ぼうとも、手を止めずに染め上げねば……!


 気持ちは焦るものの、やはりキリアの苦痛に歪んだ表情に胸が締め付けられる。

 そんな彼女の痛みを少しでも和らげるために、私は願いを込めて皺の寄っている彼女の額にキスを落とした。


 途端に、周辺を包み込むような金色の光がブワッと広がる。


 一瞬のことで、一体何が起きたのか、どうなっているのかもわからないものの、キリアの眉間の皺が少し解消されたのを見届けて、そのまま粛々と魔力を送り続ける──。

 

 すると、キースの元へ向かおうとしていたジェイシスのあまりにも間の抜けた緩い声が聞こえてきた。

 急いでこちらに引き返してきたらしい彼の声は、なぜかさっきの緊張感は一体どこへ行ったのかというくらい、いつもの調子に戻っている。


「殿下、え、ちょっと、知らない間に覚醒されてたんですか? もっと早く言ってくださいよ〜」


「覚醒? 何のことだ?」


「え? 無意識ですか!? 今やったじゃないですか。『完全解呪』。ブワッと光ったやつ」


「は……? 完全解呪? 一体何の話だ?」


 むしろ、何でお前はそんなに急に緊張感がなくなっているのだ?


 私が状況を把握できずにいると、ジェイシスは「まあ、今はいっか……」という気になる言葉を小さく呟いた後、先ほどよりもやや真剣に訴えかけてきた。


「とりあえず、殿下はこのまま魔力を流し続けて染め上げてください。どんなに苦しんでも、絶対途中でやめてはダメですよ!」


「ああ、わかっている!」


 そう強く返事をすると満足したように頷いて、ジェイシスは再びキースたちの居る方向へと戻っていった。

 なぜかその後ろ姿がウキウキしているように見えた。

 

 相変わらず、ジェイシスは何を考えているのかわからない……。


お読みいただきありがとうございます。

相変わらずジェイシスは神出鬼没で読めない人です。

次のお話で、このキリア拉致に関する部分はようやく終結します。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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