第七章 獣人の魔力 ④再会(グウェン視点)
グウェン視点の続きです。
ついに最奥の部屋に到達して犯人と遭遇したグウェンは……。
◆グウェン視点◆
キースと共に踏み込んだ最奥の部屋……。
部屋の奥の一段上がったところに男が数名の魔導士を従えて立っている。
ふと男のそばにおかれたガラスケースが目に入った。
最初はそれが何かわからず、ただ美しい人形が飾られているのだと思った。
まさか、その美しい人形がキリアだとは……。
まるでお人形のように座り、美しく着飾ったキリアがそこに飾られていたのだ。
キリアは眠らされているのか、座ったまま美しいお人形のようにケースに収められている。
魔力感知で生きていることはわかっているが、一体どういう状態なのか……。
彼女はピクリとも動かず、開いているはずの瞳には何も映っていない。
まるで瞳孔が開き切ったかのように焦点が定まらず、ただ目が開いているだけだった。
私もキースも憤りを通り越し、はらわたが煮えくり返る。
それと同時に体中から魔力が一気に溢れ出す。
もはや、自らの視界にも金色のオーラがゆらゆらと揺らめいている状態だった。
そんな私たちの様子を気にも留めず、その男は私の姿を確認すると、気持ちの悪い笑みを深めて媚びるような声を響かせた。
「グウェン王子、お久しぶりでございます。番いが無事に見つかったそうで、おめでとうございます」
私はこの中年の男に見覚えがあった。
幼い頃、父上に連れられアテルナ帝国へ視察に行った際見かけた男だ……。
アテルナ帝国の前宰相オーガス・ガレリア。
属国になる前のアテルナ帝国を動かしていた、確か母上の従兄弟で公爵家の人間だったか。
属国になったことで、当時の宰相や大臣は全て失脚して、ルナリアから送られた人間が政を行っているはずだ。
やはり狙いは私か……。
「お前は……オーガスだったか?」
「私のことを覚えておいでとは光栄でございますな」
オーガスは両手で媚びを売るような動作をしながら、嬉しそうに顔をニヤつかせる。
その態度に虫唾が走る。
「死にたくなければ、さっさと彼女を解放しろ!」
「おお、怖い怖い」
わざとらしく怖がった声を上げ、怯える素振りを見せる。
その仕草に、より苛立ちが込み上げてくる。
「グウェン王子、あなたには帝国の皇帝に、そしてこの国の王になっていただかなくてはならないのですよ」
「は? 何を言っている。そんなことより、早くキリアを解放しろ!」
予想はしていたがやはり私を担ぎ上げるためにキリアを攫ったのか……。
目的は判明したが、キリアが奴の横にいる以上、下手に手出しができない。
それがわかっているからか、私やキースの怒りに全く怯むことなく、オーガスは思いを滔々と述べ続ける。
「あなたこそが帝国の正統な後継者にして、この国を治めるに相応しい力の持ち主。今こそライア様の願いを叶えるのですよ!」
「母上の願いだと?」
この男は何を言っているのだ?
こんな犯人の戯言など聞くつもりはないのに、冷静に対処しなければと思うのに、なぜか聞かなければいけないような、知らなければいけないような、そんな気にさせられる。
「そうです。ライア様はあなたが獣人として覚醒して王になることを望んでおられた」
「……そんなはずはない! 母上は私が獣人であることを嘆いて恨んでいたと……」
「誰がそんな嘘を! ギュリア妃め……自分の息子を王に据えるために、ライア様の命を奪っただけでなく、王子に嘘を教えるなど!」
私の言葉を遮ったオーガスは憎々しげに王妃の名を挙げる。
どういうことだ……。
母上は私が生まれてすぐに亡くなっている。
でもそれは私が獣人だとわかり、正妃や王族、貴族たちとの関係に悩んだ末、心を病んだからだ。
獣人の私を産んだことを嘆き、恨み、亡くなった。
そんな母上が私を国王になど、望んでいたはずがない。
目の前のキリアを今すぐにでも助けなければならないのに……。
狼狽えて黙り込んでしまった私に、オーガスはさらなる言葉を投げかける。
「獣人として覚醒すれば、あなたは最強の存在になり、王位に就いてしまう。それを阻止するため、王妃はあなたの番いの魂を異界に送ったのですよ。ライア様はそれを止めようとして殺されたのです」
「……異界だと……そんな話、信じられるか! それより貴様、キリアに何をしたっ!」
「ああ、あなたのために、お人形になっていただいたのですよ。」
「なんだとっ!?」
「もうこの娘は私のいうことしか聞けない。だから、番いが欲しければ、あなたも私のいうことを聞くしかないのですよ」
「なんだと……ふざけるなっ!」
怒りのあまり思わず金色の魔力が身体から溢れ出し、オーガスに向けて放たれた。
オーガスは魔力の圧に一瞬怯んだものの、魔導士たちに支えられ、さも良い提案をするかのように話を続ける。
「まあ、信じる信じないは、あなたの番いに聞いてみると良いのではないですか?」
そう言うと、ガラスケースに向かって魔石を翳し、呪文を唱えた。
「【ライ】」
次の瞬間、ガラスケースの中で電流が暴れ出す。
ケースの中では、無数の光の筋が現れ、彼女の身体を襲う。
ところが彼女は声一つ上げないどころか、目を見開いたまま全く動かない。
一体キリアの身体はどうなっているんだ……。
「キリア!!!」
「ああ、やはりこれくらいじゃ意識は戻りませんか~」
オーガスはふざけた表情をしながら、そう言ってケースに触れると、高らかに笑う。
その不快な笑い声が響き渡る中、これまでずっと禍々しい気配を纏いながらも、横で静かにしていたキースの魔力が一気にぶわりと膨れ上がった。
キースの足元に魔法陣が現れる。
「うちのキリアに……キリアによくも……!」
「キース、やめろ!」
「【ウィンドブレイク】!」
私の声ももはや聞こえていないのか、いきなりオーガスに向けて風魔法を撃ち放った。
ところが、オーガスはそれを見てさらに楽しそうに鼻で笑う。
オーガスと魔導士たちに向かって放たれた攻撃は、突然現れた黒紫の靄がすべて吸収し、彼らを攻撃することなく消え去った。
そして、次の瞬間キリアの居るケースの中に靄が立ち込め、かまいたちのような細かい風が巻き起こり、次々にキリアの白いドレスと肌を裂いていく。
真っ白なドレスには、あちこちに赤い模様がじんわりと滲んでいた――。
お読みいただきありがとうございます。
犯人がようやく判明しました。思ったよりも進めなくてすみません!
もう少し戦いが続きます。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




