第七章 獣人の魔力 ③突入(グウェン視点)
今回から再びグウェン視点です。
キリア視点から少しだけ時間が戻ります。
ジェイシスたちと別れて、倉庫へと踏み込むところからです。
◆グウェン視点◆
――街道でジェイシスたちと別れた後、私たちはキリアが囚われている倉庫へと乗り込んだ。
私とキースが隊の先陣を切り、倉庫回りを警備していた敵を魔法や剣で一網打尽にして、倉庫内へと踏み入る。
「なんだここは……」
中は驚くほど広く、とても倉庫とは思えない。
貴族の屋敷のように綺麗に塗装され、幅広の廊下と左右にはいくつもの部屋が存在していた。
そして、その最奥にはメインルームと思しき、他とは違う形状の扉が見える。
「アジトというよりまるで貴族の邸宅ですね。随分前から準備していたのかもしれません……」
「そのようだな」
ここまで用意周到ということは、情報が漏れたというわけではなさそうだ。
キリアが番いと判明してからの行動で間に合う準備ではない。
では一体……?
疑問はたくさん浮かんでくるものの、そんなことを考えている暇はない。
「お前は私について来い! 他の者は各部屋をしらみ潰しに当たれ!」
「はっ!」
皆散り散りになり、近場の部屋から次々に開け、制圧していく。
私はキースを連れ、キリアが居ると思しき最奥の部屋を目指して進み出した。
すると、最奥の部屋に到達する直前に、その一つ手前の部屋の制圧に向かった騎士たちから声が上がった。
「発見しました! キリア様です! こちらにいらっしゃいました!」
「何っ!? すぐに保護しろ!」
「はっ!」
――キリアが見つかった……!
嬉しさに私とキースは思わず顔を見合わせ喜んだ。
私もキースも急いでその部屋へ向かった。
……ところがその喜びは、すぐに騎士の叫びによってかき消されてしまう。
「き、消えた……!?」
「そんなバカな……」
「発見したキリア嬢が突然消えました!!!」
キリアを見つけた騎士たちがざわめきだし、一人が大声を上げながら慌てて部屋から飛び出し、私たちと鉢合わせる。
「一体どういうことだ!」
「保護しようとキリア様に近づいたところ、急に黒紫色の靄に包まれて、お姿が見えなくなりましたっ!」
「何だとっ……!?」
「探せ! 他の部屋もしらみ潰しにあたるのだ!」
動揺して一瞬言葉を失った私に代わり、キースが指示を出す。
「一体どうなっているのだ……キリアは一体どこに……」
「殿下、落ち着いてください。キリアを見つけるためにも、まずはこの倉庫を掌握してしまいましょう」
「……そうだな」
キースもキリアを人一倍案じているはずなのに、気丈に振る舞っている上、取り乱してしまいそうな私をも気遣ってくれる。
──さすがは近衛騎士団の参謀。どんな時でも冷静に対処ができる男か……私も見習わなくてはな。
そんなことを考えていると、キースがさらに冷静な分析を始めた。
「黒紫の靄というのが少し気になりますが……転移魔法だったとしても、大きな魔力波動を感じなかったということは、転移先は近いはずです」
「確かにそうだな。長距離になればその分魔力も魔法陣も巨大になる。ということは、倉庫内の可能性が高い」
「はい。なので、きっとキリアはまだこの中に居るはずです!」
そう言い切った後、なぜかキースは気まずそうな顔で躊躇いがちに私を見る。
「……というか、その、殿下……非常に今更なのですが、魔力でたどれませんか?」
「あっ!」
私の間抜けな声に、申し訳なさそうにするキース。
気づいていて言えなかったのか、それとも彼自身も抜けていたのか……。
お互いキリアのことになると感情が先走ってしまうのかもしれない。
それに予想外の部屋数の多さと、急な変化に取り乱し過ぎて肝心なことが抜け落ちていたのだろう。
そうだ、魔力感知で探せば良いではないか。
気づいた途端、気持ちが落ち着いてきた。
私は魔力を研ぎ澄まして、再びキリアの中に残された自分の魔力を探る。
その間も、あちこちの部屋から戦う金属や鈍い音が聞こえてくる。
ここは戦場だ。静かにしてくれなどと言える状況ではない。
なんとか集中しなくては……!
そう努めた矢先、薄っすらと温かく懐かしい力を感じた。
――これだ!
「いた! やはりこの一番奥だ!」
私はキースを見ながら、向かっている方角の最奥の部屋を指差した。
すぐにその扉に辿り着き、中の様子を伺うこともなく扉をいきなり蹴り破ると、キースはこちらになんとも言えない恐ろし気な笑顔を向けた。
それどころか、なにやらドス黒い空気を纏っている。
どうやらキースはかなり怒りが溜まっていたらしい……。
その様子に驚いて攻撃をしてくる敵を風魔法で吹き飛ばし、笑いながら中へどんどん踏み入っていく。
私も遅れをとるまいと、蹴破られた扉の残骸を踏みしめながら部屋へと入った。
するとその部屋の奥の一段上がったところに、見覚えのある中年の男がニヤニヤと笑いながら魔導士を数名連れて立っていた。
まるで私を出迎えるように、厭らしい笑みを浮かべて私に向かって一礼する。
その男のそばにはガラスケースのようなものに収められた美しい人形が置かれていた――。
お読みいただきありがとうございます。
ちょうどキリア視点の裏側のお話になります。
(すみません……ネタ明かしはこの次からでした。。)
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




