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第七章 獣人の魔力  ①お人形

新章です。

薬と魔法で意識を手放したキリアの続きです。

少し重い展開ですが、よろしくお願いいたします。


 自分の身体なのに、まるで映画を見ているみたい……。


 檻のようなものの中から、目の前のスクリーンをただ見つめる。

 スクリーンにはさっきの倉庫の部屋がぼんやりと映っている。


 それをぼーっと見ているのだ。

 それしかできないことに何の歯痒さも感じない。

 感情がぬるま湯に浸かってしまったかのように、ただありのままを受け入れている。


 ──私は一体どうしてしまったんだろう?


 そうは思うものの、だからと言ってその先を深く考えることができない。

 とても気持ちの悪い不思議な感覚。


 そしてその感覚とは別に、身体が妙に重くてだるい……。

 身体の感覚はあるのに、動かし方を忘れてしまったように、全く動かすことができないのだ。


 とてもとても妙な感じ。

 お人形になる……思っていたのとはかなり違う気がする。



 すると、映像に映る景色に登場人物が現れる。

 私に魔法をかけた魔導士とあの中年男だ。


 どうやら私の身体は椅子に座らされているようだけれど、身体との感覚が完全に切り離されているのか、動かすことはおろか、彼らの会話する声を聞くこともできない。


 まるで無声映画を見ているよう。

 ただ、会話はわからないけれど、あの男はとても機嫌が表情に出るようで、物凄く上機嫌なのが伝わってくる。


 先ほどまではいなかった魔導士や騎士も加わって、何やら慌ただしそうに動き始めたところを見ると、そろそろここを移動するのかもしれない。


 そこへ侍女らしき女性たちが数名入ってきて、私の周りを取り囲む。

 どうやら私を別室へ連れて行こうとしているようだ。


 とはいえ、感覚もないのに、どうやって連れていくつもりなのか……。


 そう思っていると、男が何かを言ったと同時に私の身体を黒紫色の(もや)が漂う。

 その瞬間、スクリーンが靄でいっぱいになる。


 すると、私自身は声を発したつもりもないのに、勝手に口が動いて、彼の指示に同意した上、身体までもが勝手に動き出す。

 そうして隣の部屋へ移動して、侍女たちによって白いドレスに着替えさせられた。

 まさに着せ替え人形だ。


 なんだか前の世界のウェディングドレスっぽいな、とふと思う……。


 ところが先ほどより段階が進んだのか、そんなことを考えようとする思考の中にまで靄が立ち込め始め、思考が遮断される。


 身体の自由が奪われるとか、そんな可愛いレベルではないのかもしれない。


 自分自身のことさえも忘れてしまうのでは無いかという不安がジワジワと湧いてくるのに、そんな不安さえも靄が邪魔をして、何も考えられなくなりつつある……。


 こんな状態なら、映像なんて見えない方がまだマシなんじゃないだろうか。


 現状の恐怖と先への不安……

 それが湧いているはずなのに、その感覚すらもだんだんと靄に埋もれて虚ろになっていく……。


 思考なんて放棄してしまった方が楽なんだろう。

 精神まで侵されだし、そんな諦めの境地に片足を踏み入れたその時だった──。



 着替えていた部屋に一斉に見覚えのある騎士服を着た男たちが侵入してきた。


 ──え? 助けが……来たの?


 周りの侍女たちは一斉に逃げようとし始めるものの、次々に捕えられていく。

 そして、騎士の一人が私の姿を確認すると顔を綻ばせ、入口の騎士に向かって声を張り上げる。

 何を言っているかはわからないけれど、きっと私が見つかったことを知らせているのだろう。


 ──良かった……。


 安堵の思いがほんの少しだけ湧き上がる。


 ──まだ私の中に思いが残っているうちに来てくれた……。


 ところが、一人の騎士が私の前に跪き、私の手に触れようとした途端、私の周りを黒紫の靄が沸き出した。

 騎士はそれを見て立ち上がると、一歩後退り、それに倣うようにして他の騎士たちも少し下がって身構える。


 靄はそのまま、まるで私を拘束するかのように、私の周りにどんどん広がっていく。

 気がつくと私の視界は完全に遮断され、真っ暗になった。



──何も見えない。一体どうなってるの?



 しばらくすると、暗闇の中に一筋の光が見え始めた。

 その光に包まれ、再び視界が開けると……元居た部屋に、あの男の元に転移させられていた──。


お読みいただきありがとうございます。

魔法によって『お人形』にされてしまったキリア。

救いの手が一瞬差し伸べられたかと思いきや、転移させられてしまいました。果たして転移した先では……!?

次もキリア視点です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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