閑話 友の頼み(ジェイシス視点)
文フリに行ったら感化されてしまって、入れるか悩んでいた閑話を書いてしまいました。
ちょうど前のジェイシスが現れた話の裏話になります。
お楽しみいただけますと幸いです。
(すみません…後半間違いが多かったので、大幅に修正改稿しています【2023.05.22】)
取り乱しまくった友こと、サイラス・アーヴァインが急に魔塔の俺の部屋にやってきたのは、キリア嬢が攫われ、大所帯の騎士団が出発してすぐのことだった。
「頼む、ジェス! 一生のお願いだ! キリアを助け出すのを手伝ってくれ!」
部屋の魔法陣に現れるなり、サイはいきなり俺にしがみついてきた。
普段は落ち着いていて、宮廷内でも重鎮として一目を置かれている存在の彼だが、娘や家族のことになるとからきしだ。むしろポンコツと言ってもいい。
けれど、彼のそんな部分を知っているのは、一握りだろう。
この時々見せるポンコツな部分に何故か昔から弱い俺にとって、彼の頼みを断る選択肢などハナから存在しないのだが……。
──今回のはいつも以上にポンコツ度が高そうだ。
「おい、サイ。ちょっと落ち着け。手伝うったって何を手伝うんだ? 第一、もう騎士団は全部出発しちまっただろ? それにお前、手伝ってくれって、お前自身も行くつもりなのかよ。やることがあるから王宮に残ってるんじゃないのか?」
サイのことだ、本当に行きたいのであれば、最初に殿下に話を持ちかけた段階で自らも加わる形で計画案を出し、誰からも文句を言わさない形で前線に出ているはずだ。
それをしていないのだから、きっと王宮に残らなければならない何かのっぴきならない事情があったのだろう。
「いや、それはその……」
先ほどまでの勢いとは打って変わり、急に言葉に詰まり出す。
この感じを見るに、かなり重要な案件を抱えているのだろう。
「お前……それはもしかして、陛下の仕事か?」
俺の言葉にサイは気まずそうに視線を逸らし、いかにも動揺している。
「いやいやいやいや、ダメだろ。普通にダメだろ、それ。娘のことが大事なのはわかるが、お前の立場的には陛下を優先するのが当然だ。息子二人も向かったんだろ? なら、息子たちに任せとけば良いじゃないか。それに今回は、あの獣人殿下が出るんだ。あっという間に鎮圧して帰ってくるんじゃないか?」
俺の話を聞いた途端、先ほどまでの動揺が嘘かのように、サイは苦虫を潰したような顔になる。
こいつ、そんなに王弟殿下が嫌なのか……。
まあ、王弟殿下というよりは、キリア嬢を奪っていく存在がってことなんだろうけど。
「ジェス……殿下は確かに強い。きっとすぐに鎮圧するだろう。でも、問題はそこじゃないんだ。その殿下が今回のことをきっかけにキリアと急接近してしまうんじゃないかと、私はそこが気が気じゃないんだ!」
そう大真面目に今にも泣きそうな顔で言うサイを見て、不謹慎ながら思わず吹き出しそうになってしまう。
──こいつ……相変わらず拗らせてるな……。
これで中身が実は変わってます〜なんて言ったら、どうなっちまうんだろうな……
まあそれに関しては、制約魔術で話せないから大丈夫だろうけど。
とはいえ、やっぱり殿下たちには早く番いになってもらわないと……
こいつの子離れのためにもな。
「で、それで俺にどうしろと?」
「……ってくれ……」
「ああ? なんて?」
「わ、私を転移魔法で前線に連れてってくれ。陛下の仕事はそれまでになんとか片付ける! ……お前なら殿下を追えるだろう?」
「お前……俺に筆頭宮廷魔導士の権限を使えと!?」
「……頼む!」
そう言ってサイは俺に向かって必死に手を合わせた。
筆頭宮廷魔導士には、緊急時に王族の安全を守るために、事前に王族の魔力を登録した、所在を特定できる特別な魔導具が渡されている。
これを使うことで、殿下の位置がわかるのだ。
まあ、今回も緊急時ではあるので、使用することは特に問題にはならない。
だが、そうなると、位置の把握を行なっておいて、宮廷魔導士が出陣していないのはおかしな話になってしまう。
俺だけが単騎で出るわけにもいかないし……。
「少し待ってくれ……」
そう言ってから、俺はすぐに魔塔内に居る宮廷魔導士に呼びかけた。
「今からキリア嬢救出に出かけようと思うんだが、他に行きたい奴いるか〜?」
俺のゆるい問いかけを聞いたサイは目の前でワナワナしていたが、一斉に部屋の中に、魔法陣があちこちに現れ、宮廷魔導士たちが集結すると、嬉しそうにホッとした表情になる。
ただまあ、魔導士たちが口々に「なんか面白そう〜」「久々に魔法ぶっ放した〜い」「獣人殿下の戦い生で見てみたい!」「私、キリア嬢生で見たい!」とか色々言っていたが……
仕事を片付けに早々に部屋を去らせたサイには聞こえなかったのでセーフだ。
そして、それから半刻後、仕事を大急ぎで片付けたサイは再び魔塔にやってきた。
魔塔一階の大魔法陣を起動させた俺は、サイと志願した宮廷魔導士たち数名と共に、殿下の元へと馳せ参じた──。
お読みいただきありがとうございました。
この後、救出の章に突入するのですが、冒頭が結構重いので、急遽閑話を挟ませていただきました。
次はまだ登場しないのですが、その次辺りから殿下のモフモフも登場してきます。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




