第六章 偽りの真実 ①犯人の目的
再びキリア視点です。
いよいよ犯人の思惑が明らかになっていきます。
本日3本更新、2本目です!よろしくお願いいたします。
──攫われてから一体どれくらいの時間が経ったのだろう?
俵のように担がれ連れて来られた場所はカビのような匂いのする暗い部屋だった。
目隠しをされていても、布が薄いからか、薄っすらと室内が見える。
まるで倉庫のような、何もない部屋。
そこに毛布のようなものを敷かれて、その上に座らされた。
扉には鍵をかけられ、誰の気配もしない。
こんな中途半端に恐怖心を煽られるなら、魔法でずっと眠らされていた方がマシだったかもしれない……。
私を餌にすると言っていたし、これはまさにジェイシス様の言っていた『番いとして利用される』ということなのでしょうね。
殺されることはないと思うけど、これからどんな扱いを受けるかわからない。
下手をしたら生かされているだけ……なんてことになる可能性だってある。
平和な日本で大学生まで過ごした私には、あまりにも現実味がなさ過ぎる。
深く考えちゃダメだとわかってるけど、どうしようもない恐怖に身体の震えが止まらない。
──私、生きて帰れるのかしら……。
考えてはいけないとわかっていても、どうしても考えてしまう。
今にも叫び出しそうな恐怖を、歯を食いしばりながら懸命抑え込む。
そんな中、コツコツとこの部屋に向かって歩いてくる複数の足音と話し声が聞こえてきた。
──どうしよう!? 誰か来る!
「あの娘はきちんと拘束してあるんだろうな?」
「はい。お言いつけ通りに。ただ……微量ではありますが、既に魔力が金色になっていました。王子との接触があったものかと……」
「何!? 既に染め始めていたのか……早くしなければ、王子に気づかれてしまう! 急ぐぞ!」
急に声を荒らげた後、足音が忙しくなり、扉が乱暴に開かれる。
「ご機嫌いかがかな? お嬢さん」
最初に馬車で声をかけてきた中年の男の声だ。
そして、その声を皮切りに部屋には次々と人が入ってくる足音がする。
「まだ目隠しをしているのか。痕が残ると厄介だ。外せ。どうせこの後、自分の意思など無くなるのだから、見えたところで問題あるまい」
誰かが近寄る気配を感じ、思わず避けようとするが、すぐに捕まってしまう。
目隠しを外された私の前には、見下すような、舐め回すようなねっとりとした視線を向ける、先程の中年の姿が現れた。
きちんとした身なりと立ち姿、それに複数の従者を連れていることから、それなりの身分であろうことが伺える。
「私に、何をするつもりなの!?」
思わず睨んで声を上げる。
けれど、男はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべたまま、答えることはなく、じっとこちらを見ている。
「……アーヴァインの妖精姫か。本当に妖精のような見た目だな。獣人というのは面食いなのか? このまま売っても高く売れそうだ」
そう言って、私のほうへと手を伸ばし、顎を無理やり掴んで引き寄せると、値踏みをするように左右に動かしてから突き放す。
「っ!」
触られた部分が気持ち悪い……。
「そういえば、確か人形姫という呼び名もあったか。まさにおあつらえ向きだな。お前には我らの操り人形になってもらう」
先ほどの下品な笑みとはまた違う、不適な笑みを浮かべながら男はそう言った。
「どういう意味……?」
「そのままの意味だ。お前には王子を従わせるためのお人形になってもらう」
私を見下すようにちらりと一瞥すると、とんでもないことを言い出した。
「……私が嫌だと言ったら?」
「お前の意思など関係ない。自我なんてもの、魔法ですぐに失くしてやる。お人形とはそういう意味だ」
「!?」
さらなるとんでも台詞に思わず身をよじる。
最悪の予想が的中してしまった……。
こいつらは、私をただ生かされているだけの人形にしたいのだ。
どうしよう……やっぱりなんとかして逃げなくては!
でもどうやって……?
「お前はぼーっと夢を見たまま、綺麗なドレスを着て、ただ座っていれば良いんだよ。王子だっていずれ我らに感謝するに違いない。ライア様の願いを、叶えるのだから!」
「ライア様の願い……?」
「そうだ。今は亡き、我が帝国の華、ライア皇女殿下の悲願! ライア様のご子息であり帝国の正当なる後継者、そして何より、獣人であるグウェン王子こそが君主にふさわしい! 我らアテルナ帝国は主権を取り戻すのだ!」
そう言うと男は高らかに拳を振り上げて笑い出した──。
お読みいただきありがとうございました。
いよいよ攫われた犯人と目的が明らかになってきました。
ライア皇女殿下とは一体どういう人物なのか……。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
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