第五章 攫われた番い ④糸口と公爵(グウェン視点)
前回から引き続きグウェン視点です。
キリアが攫われて、あまりのショックに気を遠くしていたグウェンですが…
◆グウェン視点◆
──キースからの報告を受け、どうしようもない虚無感に囚われてしまった。
私が落ち込んでいてもどうしようもないというのに……。
それどころか、キリアは今この時も、どんな目に遭っているかわからない。
──彼女を、キリアを助けに向かわねば!
私は気持ちを切り替え、早速指示を出す。
「近衛騎士団長をここへ! サージェスト公爵家の騎士も全て集めよ! 私が指揮を取る!」
「ええ!? ちょっ! 殿下、待ってください! サージェストの騎士はいいですけど、近衛はさすがに、陛下に聞いてからじゃないとマズイですって……」
控えていたジェラルドが慌てて止めに入るが、指令を受けた侍従たちは慌ただしく動き出す。
私もアーヴァイン家の人間も、何よりも優先すべきものはキリアだ。
ジェラルドに止められる意味がわからない。
それに何より……キリアは私の番いなのだ。
「兄上には連絡を入れれば大丈夫だ。番いの事に関しては、特例が許される」
「いやまあ、確かにそうですけど……」
「いち早くキリアを見つけ出さねばならない!」
そう言ってジェラルドを睨む。
けれど、なぜそんなにも焦っているのかと不思議そうな顔をされる。
……どうやらジェラルドは事の重大さに気づいていないようだ。
果たしてキリアは、ただ公爵家の令嬢だから攫われたのか、それとも私の番いだから攫われたのか……。
まあ、あんなにも可愛くて美しいのだから、その他の可能性も捨てきれないが。
番いが理由の場合は最も厄介だ。
突発的なものではなく、かなり用意周到に計画されている可能性が高い。
もしそうなら、犯人は一体どこでキリアが私の番いだと知ったのか。
まだ成人前の令嬢で、しかも一週間ほど前に判明したばかりだ。
先日の公爵邸訪問後の私と国王のやり取りを見ていたのだとしても……
そこで知ったのであれば動きが早すぎる。
──そして、その場合、その真の狙いは間違いなく私だ。
獣人である私は、番いがいるのといないのとでは、赤子と仙人くらいの違いがある。
獣人は番いがいることで全ての力を覚醒することができるからだ。
魔力は、番いがいない状態であっても強い魔導士の三倍程の魔力量だが、番いがいればゆうにその十倍を超える。
覚醒した獣人の力はまさに桁外れなのだ。
その他にも特殊な能力に目覚めることが多いが、私はまだそれがどんな能力かわかっていない。
いずれキリアと番い契約や血の誓約を行った際に何らかの力が発現するはずだ。
どうせ犯人たちはキリアを使って私を意のままに操りたいのだろう。
だから、もし番いとして攫われている場合は、殺されることはないはずだ。
死んでしまえば、私は覚醒できなくなってしまう。
それどころか、もしこのまま彼女を失えば、ショックのあまり、そのまま儚くなる可能性も大いにある。
だからこそ、そんなことはしないだろう。
公爵家の令嬢として攫われた場合は、身代金目的であれば、ひとまず命の心配はなさそうだが……。
そもそもアーヴァインの妖精姫と呼ばれる愛らしいあの容姿な上、世間を知らない純粋な少女なのだ。
誰から狙われてもなんら不思議はない。
……やはり一刻も早く見つけ出さねば!
私がそう意気込んだ時だった。
アーヴァイン公爵と共に部屋を出ようとしていたキースが、おずおずと何か言いたそうに私に近づいて来た。
「殿下、あの……先日殿下がお帰りになった後、キリアの魔力が金の色を帯びていたのですが、何か心当たりはございませんか?」
「私の魔力だ。先日彼女を癒す際に、魔力抵抗が無さすぎたので、私の魔力を与えた。それがどうかしたのか?」
この焦っている中で聞くことなのか? と、苛立ちながら答える。
するとキースは一筋の光を見つけたように、ハッとして、嬉しそうに私の顔を見た。
「殿下の魔力を辿れないでしょうか!?」
その言葉に思わず私もハッとする。
「……そうか! その手があった!」
「可能なのですね! お願いします! キリアの居場所を!」
「ああ!」
不覚にも気づかなかった……。
私は獣人で、純人とは異なる特殊な魔力を持っている上、自分の魔力なら感知できる。
あの日は名前を呼ばれたことが衝撃的すぎて、魔力を与えたことなんてすっかり頭から抜け落ちていたが……
そうだ! そうじゃないか!
彼女に私の魔力を与えていたじゃないか!
突破口が見えたことで、思考がクリアになっていく。
私は早速魔力を辿るために椅子に座り、精神を集中させ──
「え!? キリアの居場所がわかるのですか!? どこに、キリアは今どこにいるのですか!? 殿下! 早く教えてください! 殿下!」
──ようとしたところに、キースの話をそばで聞いていたアーヴァイン公爵とカインが詰め寄ってくる。
「ええい! 騒ぐな! 集中できないだろう!」
私だって一刻一秒惜しいのだ。邪魔をしないでもらいたい!
私が声を張り上げると、ようやく我に返った公爵が、一瞬気まずそうな顔をして、自分と同じく詰め寄っていたカインを抑えた。
「コホン! 大変失礼いたしました」
「構わぬ。事が事だ。私も同じ気持ちだ。咎めはしない」
「……申し訳ありません」
「ただ気持ちはわかるが、少しの間静かにしていてくれないか。集中せねば魔力を辿れない」
「……! 承知いたしました!」
私の言葉を聞いた公爵の顔には、先ほどのキース同様に、光を見つけた喜びが滲んでいた。
父親に抑え込まれていたカインも力が抜けたのか、泣きそうな表情になる。
「よろしくお願いいたします」
「ああ、少し待っていろ」
そうして私は、自身の魔力を辿り始めた──。
お読みいただきありがとうございます。
なんとかキリアを探すための糸口を見つけたグウェンたち。
アーヴァイン公爵とカインがもう大変。(笑)
果たして上手く魔力を辿ることができるのでしょうか。
なので、次もグウェン視点です。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
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