第五章 攫われた番い ②不安
前回のあらすじ。
グウェンと共に魔塔のジェイシスに会う約束をしていたキリアは、一人(護衛騎士2名を連れて)馬車で王宮へと向かっていた。ところがその途中、謎の集団に襲われ、キリアは攫われてしまう。
粗末な馬車で攫われたキリアの続きです。
今回は少し短いですが、よろしくお願いいたします。
「んん……」
なんだかぼーっとして、頭が痛い。
あの後、すぐに布で目隠しをされ、さらに魔法をかけられて眠らされていたらしい。
どれくらいの時間、眠っていたのかしら?
身体の感覚からかなり時間が経っているのがわかる。
何かで両手の動きを封じられてはいるものの、少し固めの椅子に寝かされている状態のようで、長時間寝かされ続けていたせいか、身体の下側になっていた部分が痺れて痛い。
「起きちまったか……まあ、そろそろ着く頃合いか。ちょうど良い。準備しておけ」
少し高めの若い男の声……
それにもう一人、声を上げた男よりも弱々しい人の気配がする。
女性かしら? それとも子ども?
二人はじっと私の様子を伺っている感じね。
鋭い視線と、じっとりと見つめる視線を感じる。
一体何のために私を攫ったの?
馬車でずっと走っているみたいだけど、どこに向かっているのかしら?
攫われた理由を考えながら、ふと襲撃されたときのことを思い出す。
私がもし魔法を使えていたら、状況は変わっていただろうか?
とはいえ、護衛のガイたちも魔法は使えたはずなのに、魔法で戦ったようには聞こえなかった。
見えない状態で何か展開していたのかもしれないけど……。
それでも、私が魔法も使えない、全く戦えない状態じゃなければ、彼らは助かったかもしれない。
あまりの惨状に怖くてよく見れなかったけど、彼らはきっともう……。
思わずぎゅっと目を閉じる。あまりに現実味がなさ過ぎる。
こんな事態になるなんて……。
ここが異世界なのだと痛感させられる。
正直、怖くて怖くてたまらない。
このまま私はどうなってしまうの?
恐怖で呼吸が浅くなる。
……怖がってるなんて気づかれたくないのに。
そんな私の思いとは裏腹に、三人の呼吸音だけが馬車の中に響いていた。
◇ ◇ ◇
しばらくすると、ようやく馬車が止まった。
ここは一体どこなのかしら……?
気になって身体を起こそうとしてみる。
ところが、思った以上に身体が固まってしまっていたようで、あちこちから痛みが走り、声を上げてしまう。
「イタタタ……」
「おい、動くな! 大人しくしていろ」
再び若い男の声が響く。
今度は少し苛立っているようで、拘束されている私の腕を掴んだ。
「うわっ」
いきなり掴まれて驚いた拍子に、貴族の令嬢らしからぬ素の反応が出てしまう。
そして、掴んだまま無理矢理引っ張るようにして、椅子に座る体勢にさせられた。
急に体勢を変えさせられたせいで、バランスを崩しそうになったけれど、拘束されていない足でなんとか踏ん張る。
「出るぞ。歩かせるのは……時間がかかりそうだな。お前、コレだけ持って出ろ。俺が担ぐ」
男が何やらもう一人に声を掛ける。
ん? 担ぐ?? もしかして、私のこと!?
「ひゃっ!」
いきなり腕と腰を強く掴まれ、浮遊感に見舞われる。
どうやらお姫様抱っこではなく、米俵のように肩に担がれたようだ。
ガッチリとした安定感のある肩には、しっかり厚みのある筋肉がついている。
声が高いからもっとヒョロイ人かと思ったら……結構この人ゴツイのね。
こんなのが相手じゃ、逃げることもできないじゃない!
一体どうすればいいの!?
――そうして私はどこかわからない場所へと運ばれていった。
お読みいただきありがとうございます。
次は、グウェン視点のお話になります。
キリアが来るのをずっと首を長くして待っていたグウェンは……。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
評価やいいね、ブックマークもありがとうございます。
前回のお話が手前までと打って変わって急に重くなる回だったので、頂いた評価に少しホッといたしました。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




