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第四章 王弟殿下の来訪 ⑥初心な二人

「ようやく落ち着いたようだね」


「……はい。あの、ありがとう、ございます」

「無理に話さなくても良い。それに……私としてはかなり役得だったからな♪」


  私を膝に抱きかかえながら、嬉しそうにおどけて言うと、またさらに甘い香りが広がった。


「私の腕の中に貴女が居ることが、貴女を抱きしめられることが、これほどまでに幸せなことだとは思わなかった……」


 頬に手をそえられ、見つめられながらこんなことを言われて、正気を保っていられるほど、前世も今世も私は場数を踏んでいない……

 

 ああもう、本当に顔が熱くて仕方ない……。


 恥ずかしすぎてサージェスト様の顔がまともに見られなくて思わず顔を手のひらで隠そうとするけれど、彼の手で避けられてしまう。

 きっとこんなドキドキや恥ずかしさも筒抜けなのだろう。

 そんな私の様子さえも、なんだかすごく嬉しそうだ。


「照れて赤くなっているのも可愛らしいな。誰にも見られないように、ずっとこの腕の中に閉じ込めてしまいたいくらいだ」


 真顔で恥ずかしいことを言うサージェスト様に、そろそろ顔が沸騰して倒れてしまいそうになる。

 やがて耐えきれなくなりジタバタともがき始めると、ようやく膝から下ろしてくれた。


「とりあえず、詳しい話は、明日にでもジェイシスを問い詰めることにしよう。下手に貴女に聞いて、また苦しめたくはない」

「あ、いえ、あの、ジェイシス様はたぶん、悪くないと思います。私の勘違いというか、考え無しというか……」

「いや、あの制約魔術は宮廷魔導士が使用するものだ。あいつのせいに違いない」


 ジェイシスのお師匠様の制約魔術だから、宮廷魔導士の魔術で間違い無いけど、それを話そうとすると、またさっきみたいなことになるのよね……。


 どう説明すれば良いのー!? 困ったわ……どうしよう。

 思わず考え込んでしまう。


「貴女がそんなに悩まなくても大丈夫だ。あいつにはきっちり責任を取らせる!」

「いえ、それは、ダメです!」

「なぜだ?」

「えーっと……そこを深く話そうとすると、さっきみたいな事態になるので、避けたいのですが……」


 ここまでなら大丈夫だろうと、話してみたものの、やっぱり怖くて、後半は聞き取れるかギリギリのか細い声になる。

 けれど、サージェスト様には聞き取れたらしく、一瞬顔を歪め、私がその表情に怯えたのがわかったのか、取り繕うように笑った。


「なるほど。どちらにせよ、ジェイシスには話を聞く必要がありそうだな」


 その言葉に私はコクコクと頷いた。


「では、この話はここまでにしよう。本当は何よりも先に貴女にお願いしたいことがあったのだ」

「お願いしたいこと、ですか?」


 もしかしてまたさっきの応接室の時のように「番いになってほしい」と改めて言われるの!?

 私の気持ちを待ってくれるって言ったばかりなのに。


 一体何のお願いをされるのだろうか……


 そう恐れていると、返ってきた言葉はものすごく可愛らしいお願いだった。


「ああ。貴女をキリアと呼ぶ許可がほしい。私のことは、グウェンと呼んでくれ」


 まさかすぎる……純粋か!

 まあでも、呼び名は大事よね。うん。


「はい。では、これから私のことはキリアと呼んでください。……グ、グウェン様?」


 意外と改まって名前を呼ぶって恥ずかしい……!


 そう思いながら隣のグウェン様を見ると、彼は顔を真っ赤にして、慌てて手のひらで押さえた。

 その途端、今までで一番甘く強い香りがブワッと広がる。


 そして、顔を手のひらで覆ったまま「ありがとう、キリア……」と甘い声で囁かれ……

 私も一緒になって、熱くなった顔を手で覆った。



 そこへ様子を見に来た母様が扉をノックして、返答が無いものだから慌てて入ってきたのだけれど……


 ソファで隣同士に座って、真っ赤になりながら顔を押さえる二人を見て、少し固まった後、満足そうに再びゆっくり扉を閉めて出ていった。


 見られたことでより一層恥ずかしさが増して、二人ともしばらく動けなくなってしまったのは言うまでもない。


 にしても、グウェン様……

 抱きしめるのは平気なのに、名前呼ばれただけで真っ赤になるってどういうことなの!?

 ……まあ、私もひとのこと言えないんだけど。


 数分後、ようやくお互いに指の隙間から相手をチラチラ覗き見て、同じ行動をしていることに思わず吹き出す。

 二人で仲良く笑い合っているところに、マーヤが入ってきて、グウェン様に王宮から呼び出しが来ているとのことで、今日の訪問は終了となった。


 名残惜しいとホールで散々別れの挨拶を引き延ばされたのだけれど、今度一緒に魔塔を訪れる約束をすると、馬車に乗るまで何度も何度も振り返りながら、彼は嬉しそうに帰って行った。



 ──こうして、色んな問題を先送りにしたまま、なんとか王弟殿下の訪問は終わったのだった。


お読みいただきありがとうございます。


名前呼ばれるだけで嬉しくていっぱいいっぱいになってしまう王弟殿下25歳。笑

キリアも中身22歳なんですけどね……。あまりに恋愛初心者な二人です。

この王宮からの呼び出しは兄上なんですが……(笑)

そこはまた機会があれば書きたいと思います。


そして、実はこの章、あともう一回続きます。

グウェン様が帰った後に一人反省会と、兄様たちが騒ぎます。笑

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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