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直接的過ぎる将来予想

「もし。このまま跡取りが居なければどうなるか。です。

 十年、二十年後なら諦めがつきやすいでしょう。しかし新しい妻。養子。

 どうしようとも後継者に相応しく育てるまで公爵のお命が残っているか。そもそも二十年後までのお命自体、ですね。

 こういった数多の不安が近くの貴族。家臣。そしてお二人自身の心を苛み続け……それこそお二人の生活に暗い影を落とす。

 やがて日々起こる数多の問題さえ、お二人が互いの子を望み続けた所為で大きくなっている。と、人々は言い出しお二人自身も『相手の所為で子が産まれないのでは』という疑いに苦しむのは分かりきっています。

 閣下は当然、夫人の苦しみは筆舌に尽くしがたい物となり、お互いに側室を持つべきだったと酷い後悔で苦しむは必定。

 今行動を起こさないのは、ここまで考えてなのですか?」


―――臓腑を抉る言葉。とはこのことか。

 同じような話は何度も聞いた。しかしこれほど論理的で純粋なのは初めてだった。


「貴君の話。反する言葉が見つからぬ。しかし……なら、何故子を産みやすくなる知恵など与えた? (わたくし)を落ち着ける為か」


「いいえ。夫人に月のモノがある以上、私はお二人に子が産まれる希望もあると思います。

 それに新しい妻を迎えるには多くの準備と、お互いの話し合いが要る。ですので一年。お二人の子が産まれる努力を最優先にされては。……一年かけて子が産まれなければ、次の数年で産まれる可能性は非常に低いでしょうからね。

 一方で公爵は男です。側室を迎えても、側室が子を産み難い時に奥様との関係を持てばいい。私が話したような健康になる努力を続け、心の重圧が少しでも減れば。或いは十年後に産まれるかもしれません。

 ……過去、殆どの貴族は男女どちらの当主も複数の配偶者を持ったと歴史書にあるじゃないですか。どちらが原因かはっきりさせて対処し、今の公爵のような苦しみから逃げる為でしょう。

 結局、人に出来ることは時代、国が変わっても大差無く逃げようが無いのです」


―――これだ。と、ロレンツォは思う。酷く若い声のはずなのに、時に遥か年長の者からさえ感じた記憶の無い不可思議な重み。気圧されるものがあった。


(わたくし)が逃げている臆病者だと? それとも情に流された軟弱者か」


 ロレンツォの自分でも自虐的だと思う問いに対し、声は。


「御存じないようですが。人はどれほど努力しても賢さでは年齢を大幅には越えられません。少なくとも私が知る限りでは。

 公爵の年齢で簡単に判断するような方は危険な方ですね。しかしあなたが背負う物は大きい。若者が自分で解決出来る頃にはどうしようもない問題となりかねない。

 そう考えてこのような要らぬお節介を焼いています」


「……貴君には敵わん。それで側室を選ぶ準備とやらにも意見があるようだが?」 


「私ならばですが。直ぐに側室ではなく家臣、下働きといった身内の協力を願います。

 石女(うまずめ)と言われ離婚したが本当か疑いのある者。夫を亡くした子が欲しい者。職分を最優先とし結婚を諦めている者。

 勿論あなたに極めて忠実で口が堅くお家騒動などを起こす気が無く、そして相手と産まれた子があなたへ恨みを持たない。奥方とその者の関係が悪化し難い。といったような条件で選んだ者を。あとは……、」


「ま、待て。その話まさかセシ……あ、いや」


 思わず。と、口に出してから余計なことをと口を閉じる。が、手遅れだった。


「は? ―――あはっ。くっ、いや、失礼。

 私は出来るだけ起こり得そうな話を申し上げているだけです。そして閣下は多くの人をご存知。当てはまった人物が居るとしても偶然ですよ。

 ……ふふふっ。今、閣下の周りをよく探せば有能で忠実で美しい年長の家臣。そして若いころ閣下が恋心を抱いていた方が見つかるかも。などと悪戯心が産まれてしまいましたが……やめておきましょう。

 外れていれば大恥ですし若者を虐めるのは悪趣味だ。

 もし気づこうと誰にも言いませんのでどうかお気を安らかに」


 表情に苦味が出るのを抑えきれない。

 下らぬ弱みを見せたと思うが今更だと思い直して、

「続きを聞かせてもらおう」


「続きは……ああ。閣下は奥様に対して誠実でありたいとお考えの様子。

 ならば。あなたが側室を持つ時に、奥様にも他の男と関係を持つ機会があれば筋は通る。

 その場合は産まれた子をどうするかは決めておくべきでしょうね。養子を持つよりは、世継ぎとして収まりはいいかもしれませんが……己の心をよく見てご決断なさるようお勧めします」


 一瞬、話がロレンツォには分からなかった。確かに筋は通るだろう。しかしあまりにも、

「貴君は人の心というものが分からぬのか? (わたくし)はまだいい。公爵としての器の問題だ。しかし我が妻の様子は知っていよう。

 (わたくし)が他の女と交わり、更にそのような提案……どんなに苦しむか」


「私は話し方次第と考えます。二人で散策する時に『他所の家で妻がそのような不満を持つと聞いた』とでも相談すればよろしい。

 子の問題は大きく、ご自分の都合と感情のみしか視界に入らなくなりがちです。奥様にご自分への配慮と覚悟を期待するよりは、閣下が考えた方が建設的でしょう」


―――ことごとく正しい。とロレンツォは思う。ただ、

「確かに。しかし奥様を『他人』と言い換えた方が分かりやすくなりそうな言いよう。貴君はよほど他人に期待せず生きているようだな?」


 くだらない反発心に煽られ言葉が過ぎたか。と、ロレンツォが思うも言われた方はあっさりと、

「否定はしませんが、閣下に合わせて申し上げてもいます。

 自分以外の親切を期待して行動するようでは愚かな幼子。民草でもそうですのに閣下のお立場ならなおさら。と、考えました。

 さて。これで私が閣下へお話できることは全てです。後はお考えになって妥当と思われたものをお使いください。

 それと今夜は考えずご就寝を。まずは寝ること。これだけは自信があります」

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