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若き公爵閣下の嘆き

 やれやれ少し疲れた。日本語と比べてまだ少ない語彙で説明しようとして時間かかったな。途中で衛兵が来ちゃったよ。追い返してくれた時、実は指示しててここを人が囲んでたりしたら嫌だが……今更か。


「ふしどを共にする日を子供が産まれやすい日に。(わたくし)はその五日前からは子種を出さない。何より寝ること。多種多様な旬の食事、特に動物の乳と少量の臓物。酒を控え日が落ちたら妻と共に庭の林を散策……。他に何かあったような気がするのだが」


 知ってるのも幾つかあったようだが素直に確認で繰り返す。うむ。その姿勢が大事。若いのに感心感心。


「化粧を出来る限りしないを忘れてますね。理由は大丈夫ですか? あと赤子が産まれた後、十歳になるまで決して生水を飲まないようにする。とかは?」


「あ、ああ。忘れていた。何で作られてるか分からぬし、付けてる本人が不快であろうからだな。動物の乳と食材も、作ってる者たちが頑健で長寿な村から仕入れる。生水は常識だが特に気を付けよう」


 はいそーです。この時代では食ってる生産者が健康かどうかで判断が良いと思う。


「…………。無礼を、謝らせてもらえるだろうか」


 おあ?


「何がでしょう?」


「……貴君は賢人だ。かつてここまで知らぬ話を容易く理解できたことはない。

 なのに最初、怪しい山師であるかのような態度だったと思う」


「ん、ん。不安を感じるお言葉です。申しましたように、私の話は常に自分の体の様子を見て適用を。理解できた。などと思わないで欲しいのです。

 間違ってはいないはずですが、人により体の違いがありますので」


 自分で確認できる臓器。体調。の限りでは地球人類と変わらないのだが……全く同じか。更には必要な栄養素などが似通っているかを確かめられた訳ではない。

 自分自身の調査と感覚では奇妙なほど同一だけどねぇ。


「老練の医者のようだな。……声からして声変わりもしていない少年か、若い娘と感じたが我が不明の情けなきことよ」


 積み上げた声帯筋トレ効果による発音と、喋り方で騙せる限界がその程度だろう。

 まさかそれカマかけじゃないだろうねチミ?


「いや、失礼した。気にはなるが探る気はもうないのだ。

 お教え感謝する。(わたくし)だけでなく奥も少しは慰められよう。

 何か望みがあれば聞かせて欲しいが……」


 礼儀ただしくて立派。と、判断しておきますか。

 さて……ここからが本番だな。


「光栄なお言葉です。が、遠慮いたしましょう。そして。

 これでも子が産まれなければ。という話があるのですが。お聞きになりますか?

 私はこれこそ聞いた方が良いと考えます」


 そんな裏切られたような顔するな若人。仕方が無いだろう? 健康療法で必ず子が産まれるなら、懐かしき祖国の衰退も少しはマシだったろうさ。


******


 話の結論をロレンツォ・メディは分かっている。『側室を持て』だ。聞き飽きており、穏便に拒否するのに苦労することはない。

 ただこの話題になると数多の感情を煮詰めた怒りが湧くものなのに。今は非常に薄く、かえってロレンツォを動揺させた。


 それはこの声が時に見せる事情への深い配慮と、物の分からぬ子供へ言うような気配を混ぜ合わせた、えも言えぬ感触の所為だろう。

 幼いころから優秀と名高かった公爵へこのように話したのは両親のみであり、それも数が少なかった。見知らぬ相手からとすれば無礼としか言えない。


 しかし逆らう気は既に失せている。それほどまでに教えられた知識はどれもこれも新鮮で深い考察に満ちていた。だから、

「……お教えを願おう」


 苦渋に満ちた公爵の声に対して謎の声は無感情に、

「まず。ご夫婦どちらが原因で子が産まれないのか。分かっておられますか?」


 そう。それが大きく悩ましい。


「いいや、分からぬ」


「次に。閣下は奥様との子が欲しいご様子。それは政治などの実利ゆえにであり、他の女性と子を作るのは不可能なのでしょうか。それとも情ゆえに?」


 意識せず手に力がこもる。相手が正体不明なのに、あるいはだからこそか、感情を抑えるのが今度は酷く難しかった。

 残る理性の『叫べば寝ている貴族たちが起きる』との言葉で必死に自分を抑えて、

「政治と実利は当然ある。クラリーチェとの子はどんな意味でも有難い。―――とは言え他の……他の女との子も不可能では、ない。

 しかし……。しかしッ! クラリーチェとは幼いころから……ッ。誰も、貴君も知らぬし分からぬのだ。彼女がどれほど(わたくし)を支えようとしてきてくれたか。

 いや、貴君ほど賢ければそれでも必要だと見切り、別の女と子を作れるのかもしれん。だが誰もが、そのような無情な真似を出来るものではない!」


 大きな声で叫びはしなかったったはずなのに、乱れた呼吸をロレンツォは必死になってなだめ、手で顔を覆う。

 余りに無様だった。見知らぬ怪しいとしか言えない相手に激昂した挙句、道理の無い罵りをしてしまうなど。


「……見破られてしまいました。確かに私は情を無視して行動できるほうでしょう。 

 配慮が足りなく、ご不快にさせてしまったのをお詫びします」


「違う。教えを与えてくれているのに、このような……」


「私がぶしつけ過ぎるのです。出来れば数日に分けて話すべきですが、私は二度とあなた様と会う気がありませんので、聞く気がある限りはご配慮ください。

 さて。結論としては、予想されてるでしょう別の女性との子が第一なのですが。

 大半が分かりきった内容になるのですけど、理由を考えあいませんか。……誰とも話した事が無いのでは?」


 当然だとロレンツォの感情が叫ぶ。しかし話し合うべきだと自分自身が知っていた。

 そして恐らく今この相手へ相談しなければ。数年の内に誰かへ話すことは無いとも。


「言われた通り。今少し、もう数か月経てば産まれるだろうと甘えてる内にな。

 それで貴君の考える分かりきった話とは?」

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