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チエザの秘奥義

 なら私がすべきは。

 凡百の赤子のフリをする事と分かりきってる。後ろでハラハラしてるであろう家族たちもそれを望んでいる。


 しかし……ふっ。

 人には。利だけで動けぬ時がある。そう。哀れな若者へ親切にする義務があろう。

 そうやって世の中は住みやすくなる。……無意識厚かましい気配ある我がボンクラ父みたいなのは可能なら殺すけど。っと、今は関係ない。

 ああうちのボンクラ両親よ。私は埋没するつもりだ。と、思っていたよな? あれは嘘になった。だが謝らん。言葉に出してないし。沈黙は金である。

 

 されば。

 よろしいかな鍛えてきた表情筋たち。今こそ時だ。

 喜べ。お前たちはこの世で始めて見る者ぞ。人気者になり過ぎて、両親の殺意が増しては困ると封印してきた、我が秘奥を。

 愛嬌、レベル赤マックス。笑顔―――。全力、全開だぁあああああ!!!


「わは~。わっきゃっ♪」


 どうよこの手を振る小技! 何かこう立派な凄いお兄さん見て喜んでる赤ちゃんな感じで。違和感は、笑顔でまかり通る!!


「なん……おお。なんとも―――」


 む? 抱きかかえる気か。手を振ったのをそういう赤子の要求と誤解したかな。

 ふぅむ。ならば……戦術は頬ずり!


「あわぁ~。だぁー!」


 ウラウラウラ、う、少しおヒゲが伸びてて痛い。くっ。中身成人でも赤子肌は変わらんからな。

 持ってくれよ私の卵肌!


「―――喜んで、くれるか。この(わたくし)を」


 む? ……ふむ。一応私も喜んでる。公爵閣下に抱き上げられるなんてもう無いだろうし。得難い経験と言うか。うん。誤解は無いな。


「ロレンツオ様。妾にも抱かせてくださいませ」


 おう? 公爵夫人もお望みか。是非も無……わ。凄い不安そうな。

 安心したまえお嬢さん。欲しい物は承知の助。ただ……顔の筋肉に少し引き攣りを感じる。耐えろ我が表情筋!! ふぬぅうううううう。うおりゃああああ!


「だ! だ! はぅー!」


「まぁ、なんて……可愛らしい」


 ふっ。良い笑顔だねお嬢さん。お、抱き寄せるか。そうか。頬ずりが、この卵肌の感触がお望みか。よかろう。

 ヌーーーリャ。ヌーーーリャヌ……ぬ? ……。わ。何か油みたいなのを肌に塗ってるこの人。

 余りに輝くお肌と思ったら! ままま、待て。変な素材使ってないこれ? し、しかし……今更退けぬ!

 でも口に入るのは勘弁。と、お嬢さん抱き方ちょっと力込めすぎよ。少し痛い。

 いや……よかろう。痛みに耐えて抱かせてやるのも男の器である。我がプニプニの体はかぐわしいかねお嬢さん。


「……クラリーチェ。そろそろ良いだろう。ローヴェレ伯がお困りだ」


 いや、それ多分違う理由です。口には出しませんが。

 はいはい。素直にボケ親父の方へ移りますよ。……ふっ。名残惜し気だなお嬢さん。……あれ? 想像以上に何か強い情念を感じる、ような。

 ……あれ? お嬢さんの表情、これは子を産めてないっぽいお嬢さんへ私も無神経だったのでしょうか……。


「失礼したローヴェレ伯。いや、実に壮健で賢く愛らしい赤子だ。ローヴェレ家は盤石であるな」


 だっ! ボケ親父手に力込めすぎ! 社交辞令の範囲じゃん。そんな反応すると面倒が増えるだけだよ。そんなんだからボケなのよ。あなたさっきから私を公爵夫人が熱い目で見てるの気づいてないでしょ。

 私が手を振り払ったら困ったことになるというのに……やれやれ。ボケの世話は骨が軋む。衣食住代と思えば仕方ないけどさ。


「は、……はい。あ、我が長子の挨拶もどうかお聞きください。

 ほらホアン挨拶なさい。メディ公爵閣下よ。お話ししたでしょう?

 ど、どうしたの前に出て。怖くないわよ。ね、頑張って?」


 はぁ~。ボケ母ちゃん。その幼児は最初からあなたのスカート鷲掴みで隠れてたでしょ。

 なのに挨拶させようって……あなたの目はイボか? 無様晒しちゃってまぁ。

 公爵閣下に迷惑かけてどうすんの。感情で衝動的なの反省したら? しないと存じてますが。


「健康そうなご長男だなローヴェレ伯。実は(わたくし)は幼子に嫌われやすいのだ。日頃から悩んでおるのさ。

 何にしても健康な子が二人とは羨ましい。ご次男もこの賢さならさぞ長男の助けとなろう。なぁクラリーチェ?」


「え、あ、そうですわね。……ローヴェレご夫妻は本当に幸せな方々と存じます。

 こんな健康で、愛らしく、賢そうな赤子を初めて見ましたもの。

 妾もこのような赤子が欲しいくらい……くら……うっ―――くぅ……」


 え……げ。泣いておられる。

 やはりやり過ぎたか。御免よお嬢さん。悲しい気持ちになるかも。と思って止めなかった私が悪かった。

 楽しさの方が勝ると思ったのだけど……浅かったか。


「クラリーチェ―――。今日はもう良い。休みなさい。

 失礼したローヴェレ伯。頼りになるからと妻を働かせすぎたようだ」


「い、いえ。とんでもございません。夫人に子の失礼をお詫びしていたと、お伝えいただければ幸いです」


「うむ。気遣い感謝する。では宴席を楽しんでくれ」


 はいさようなら公爵閣下。一応振り返ってみる……あ、まだ私を見てた。……マジ可哀想。しかし私に出来るのはこの笑顔が精いっぱい。にかーっ! とな。


 ふぅ。笑顔で疲れた。こっそり顔をグニグニ。あと頬に付いてる化粧みたいなの落とさないと。

 どこかに安っぽい布ないかしら。

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