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図鑑最高

 ふぅむマザーデスダイブ! から何日だっけ。とにかくそれなりに経ったな。

 よし。思ったよりセーフだった。と、判断して良さそうだ。


 家族は姿を見せなくなったが、元から屋敷の端だったお陰か部屋も変わらず。

 食事はお手伝いの皆さんが持ってきてくれる。不景気な顔で世話をしていた野菜頭と違い、同情的で待遇が良くなったくらいだ。ま、同情できる一番の理由は他人事だから。だろうけども。


 うむ何の問題も無いな。幸せな毎日だ。

 あれだけ嫌! と言ってたのに飯の用意を止めない母ちゃんへ感謝すべきかも。

 今後も目障りな真似をしなければ。屋根裏部屋になるとしても衣食住は提供して貰えそう。


 となると哲学する赤子としては……。体のどこがおかしくなったという訳でもなし。恨んだ気もするけど、あれだな。

 激昂というやつだな。ろくな結果にならないやつだ。


 それに相手は剣と槍でガチってる時代のお貴族。敵となれば一族丸ごと皆殺し。を前提に考えなければ頭お花畑の誹りをまぬがれない。

 痛くて心臓バクバクした。ってだけでそうまで頑張っちゃうのは流石に流石に。


 今後の損は……家族の情を全く期待できない。くらい? どうでもいいじゃん。

 そりゃ自分で自分を育てる知恵の無い赤ん坊なら非常に大変だろうけど、こちとら元社会人。

 二十年も生きれば『親から嫌われて辛い』なんて思う訳もなく。前途の明かりは十分だ。


 思いつく懸念は……。養子に出されたり勉強の金を出してもらえなかったり。で教育を受けられない可能性か。からのー文盲は流石に不味い。

 使用人の中にも文字を読めないらしき人が居る。そういうお家へポイされちゃうと学ぶのは難しい。


 しかし今なら。目の前に兄が読み聞かされていた本の詰まっている本棚がある。

 デスマザーダイブされた日より迷ってきたが……異常行動を取ってでも本を開くべきだろう。

 我が赤ちゃんカゴが床に置かれ、私がはい出ようと大して奇妙でなさそうなのも天意である。

 そうと決まった!

 大丈夫大丈夫。本を読むんじゃない。『あだー』と開いて見るだけ。赤ちゃんがそうしてるの見たことあるし変じゃない。

 即、紙を掴んでグシャグシャにしてたけど。


 うんしょ。こらしょ。とな。歩けるのに匍匐前進もダリーわ。

 さ、て、と。この本は……駄目だ。文字だけの本だと読み方が分からん。

 ヒエログリフの読解染みた執念の努力は流石に嫌ざんす。

 絵だ。絵つきのを頼む。言葉自体は喋れるのだ。後は絵とそれにあった単語が分かれば文字の発音も分かり、読めるようになる。はず。


 これも、これも駄目。おっと、本棚に戻したらおかしい。置くのは床にしなければ。

 ……絵本。惜しい。読み聞かせてくれた内容を覚えてれば解読できたのだが。あのスポイル長男はどの本も途中で嫌がりやがったからな。流石に覚えてない。


 何時か私に読み聞かせをしてくれるまで待つというのも手だけど……幾ら同情気味なお手伝いさんたちも、当主家族の不興を買った赤子の面倒をそうまで見てくれるか……お。おお? おおおおおおお!?!??!?


 こ、こ、こ、これはあああ!? 動植物、家具の大量の絵と。単語が書いてある!

 まぎれもない図鑑だ。幼児用のやつだ。しゅ、しゅげえええ!? 絵は手書きじゃん。本一冊の絵を手書き……凄いお高いやつでしょこれ!

 長男の為に買ったのかな? はー勿体ない。使われたの見たこと無い。

 豚ぁ! に真珠じゃないですか。余りに勿体ないので私が嘗め回さなければ!


 ―――うへ。ぐへぐへへへへ。これはチョレーわ。すーぐ文字覚えられそう。

 ぬふふふ。我が将来は安泰です! 商人となってタラタラ人生路線発進進行! 良い家に産まれましたぜ!

 やはりね。少し嫌なことがあろうとも振り向いちゃ駄目ね。そんな暇あったら匍匐前進ですよそれが賢い人生よ。匍匐前進すれば面倒ごとの目からも隠れやすいしね。


「まぁ。見てチエザ様が本を見てるわ」


「あらまぁ。可愛らしい。……もうカゴから出られるのね」


 むっお手伝いさんたちに見られたか。この匍匐前進のチエザを見つけるとは出来おる。今座ってるけど。

 しかしこの図鑑はぜぇったい渡さんぞ!

 あ。そんな様子を赤子が見せるのは変だ。えーと。

 おば、いや。お姉さんたちなにを喋ってるのー? にっこにこー。


「わ……可愛い。―――奥さまは、前から情の強い方とは思っていたけども……」


 けども……ゴミ親だと? 良い事言うじゃん。でもあのヒステリーを追い詰めるような噂はやめておくれ? 結局私が迷惑しそうだ。


「こらっ。それ以上は止めた方がいいわ。それに少し分かる所もあるじゃない? チエザ様の賢さは異常よ」


 わー。そういうこと言います? 確かに私の赤ちゃんのフリが下手だったゆえの事態だけども。


「賢くて何が悪いの? 家の息子と代えて欲しいわ。もう、本当夜泣きの無い子がどんなに助かるか……」


 そうそうソレですよ。どんなに部屋を隔てても貫通する泣き声だぞ。はー全く。感謝の無い人は駄目だよなー。おば、おっと。お姉さんもそう思うでしょ?


「それは分かるけど……。あ。あの本。流石に取り上げた方が良いんじゃないかしら? 随分高価そうよ」


 おい。正論だが止めろ。私の大事なタラタラ人生レール一本目を取り外そうと言うのか? あなたを末代にするくらい恨みますよ。


「え、あれは良いでしょう。ホアン様は本がお嫌いだし。というかここの本は全てメディ公爵閣下の祝いの品よ?」


 なんと。これ用意してくれたの母ちゃんじゃないの? やっぱりなー。こんな良い物を見つけられる見識は無いと思ってましたよ。ケッケッケ。


「閣下の贈り物ならますます赤ん坊のよだれで駄目にしたらまずいでしょう?」


 うんだと。私が何時よだれ垂らした。ほぼ無いはずだぞ観察力皆無か? ……あ。これも野菜母から不気味がられた要因か。


「あなたねぇ。閣下はほら。あれでしょ。それで……より子の貴族で出産があった全ての家に、こういう贈り物をなさってるのよ。

 願掛けみたいなものなのだから赤子が駄目にすれば本望じゃない? 一応これからは本の様子を見て、壊れないように手当すべきとはおもうけど」


 願掛け? ……どうでも良いか。とにかくこのスンバラシィ! 本をくださったのはメディ公爵とやらだと。

 よしこれから毎夜メディ公爵に幸せがあるよう祈ろう。

 私にこんな科学を越えた現象が起こった以上、真面目に人へ干渉する神が居そうだしな。

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