赤子を抱いて嬉し気に笑う公爵夫婦を見ている別夫婦の様子が……
心配そうな声とお顔。赤ちゃん相手に大げさだと周囲が困惑してるから止めて欲しい。しかし仕方ないか。
それに奥さんだけ敵対なんて花丸馬鹿たれでしょう。なので、ほれほれ。すまんが抱きかかえてくれないかね。笑顔でお頼み申し上げる。
「まぁ。変わらず愛くるしい。……信じられませんわ」
抱き抱えながら変なこと言わないで。失言するんじゃないかと笑顔強張ったらどうする。
はいはい。だっだー頬スリスリとね。お、今日は油も何も塗って無いな。素直に試してるようで賢い……む? 抱きしめる力が強まった何事、げ。野菜母が強い意思の感じるお顔で片膝ついてやがる。いやーな感じ。
「メディ公爵閣下。メディ公爵夫人。ローヴェレ伯爵として願います。
過去、我らがリシア王国の偉大なる祖先にならい。我が息子チエザをより親であらせられますメディ公爵家へ人質として差し出すこと。お許しください」
―――チエザ。私を。人質に? ……こ、こいつ! きっしょい赤子を他人に押し付けようとしてやがる!
想定内ではある。しかしこのご夫婦は勘弁して公爵家て。国二番とかコイてたし。力がでかくなると面倒ごともネズミ算で増大なのだ。観光地としては良くても住むなんて冗談じゃない。何よりアレな赤子だと知られている。
大丈夫。のはず。お手伝いさんたちが、私の疎まれっぷりからふた昔前『なら』人質に出されてしまったかも。みたいな話をしてたよーな記憶が薄っすらと……。
それに私、公爵家と関わりたく『ない』とはっきり言いましたよね若人よ。覚えててくれてるよね?
「ローヴェレ伯。知っておられようがそのような慣習は絶えて久しい。我が公爵家としても伯の忠誠心への安堵より、人質を要求するまでに余裕が無い。と、世で話される損の方が多く思える」
うむ。良いぞ若人。断ってくれれば何でも良い。
「名目は人質、養育、何でも構いません。つまり……。
わたくしはチエザのそのような笑顔を初めて見ました。何よりお二人が愚息をお気に召されたご様子。なら公爵閣下の下で育つ方がチエザは幸せでありましょう。
加えて我が家へ更なるご信頼も頂戴でき、何もかも良い結果となるように思えます」
げ。上手い言い訳なのでは? もしや前々から文言考えていたか。
頑張れ若人。断れ。立場の強さで捻り潰せ。呪うと言いやがった不気味な赤子押し付けられそうなんだぞ何とかしろ。
「―――伯の言葉、嬉しく思う。子を預けて良いとまでの信頼もな。しかし、」
「妾は良いように存じますわ」
!? こ、な……お、奥さま? 何を言ってらっしゃるのですか? 眼差しがどうも挑戦的に見えるような? おめーの旦那様が断ってたのに不服従ですか?
おい。どういうことだ旦那……え? 驚いたような顔してやがる。いや、貴族当主の表情に内心が出るとは……。
「子育ては長くしていると疲れてしまうそうです。伯爵はとても子煩悩で、お忙しいのに自らの手で赤子の世話をよくなさる。と、聞きます。
少しばかり我が家で預かっても良いではありませんか。勿論人質などではありませんわ。伯爵のご要望。またチエザ殿が……えっと、長く預かったら。の話ですけども。望まれたら直ぐにお戻ししましょう。
それまではこのクラリーチェも名をかけて。健やかに育つよう力を尽くすと誓約いたします」
は、て、てめ、ざっけんなよ。数段偉いお家で当主夫婦から目を掛けられてるなんて噂付きで育って堪るか。私は帰るあの屋敷の隅っこに帰るの、
「有難うございます公爵夫人! 閣下どうかご承知ください。わたくしも相応の認識を持って申し上げました。
チエザに何があろうと閣下。そしてメディ家には恩在るのみでございます」
こ、この野菜髪! キショイ子だから死んでも文句言わないよ。ってか?
若人! 閣下! 断るよね? いや、他人に頼らず自分で暴れてこの野菜髪へ泣いて手を伸ばすくらい……不自然過ぎる。こんな衆目の中で話が分かってるかのような様子を……ッ! お、おい。閣下。その目つきは却下の目だろうね?
「……ならぬ。見込んで頂けたのには感謝しよう。チエザ殿がご家族と無事にご領地へ戻られるよう祈らせていただこう」
よぉおおおおっし! 信じていたぞ閣下。恨んでごめん。先日の眠い中クソ不快な時間を取られたのは、これで完全に無かったことと、
「旦那様。ご反対なのは……お考えがおあり故とは存じますけども……。
でしたらこの妻一人の責任として預かるのは如何でしょう。ローヴェレ伯爵。不安がおありですかしら?」
「いいえ! 我が想いをくみ取って下さる夫人の清らかなお心に感謝申し上げます」
……。意味わかんない。責任? 妻一人の問題ですむの? あ、違う。問題はなんで、私をそんなに引き取りたい訳? は? 本気で呪いますよ? 意味があるとは思えないが、毎夜神にあなたが血反吐吐いて死ぬよう願うよ?
大丈夫だ。閣下は道理の分かった方……こっちを見てる。待て何か嫌な目つき。あれ。この若人汗をかいてる? 今日は涼しいくらいなの、
「分かった。奥がそうまで望むならチエザ殿は預かろう」
は、は、はぁぁああああ!?
裏切り、やがった。
そりゃ奥さんと他人の赤子。どちらを優先するかは決まってる。
しかし幾ら我儘言うからと毒蛇を家に置く奴がいるか? そこまでの脳腐れだったのか? 毒蛇を始末すると決めてる? それだって外でやった方が良い。
どんな判断で公爵家と関わりたくないと必死に言ってた、祟りそうな赤子を引き取るとなるの。
あああぁ、うちの野菜髪は当然、土髪の若造まで安堵した顔しやがって……。
これはもう受け入れるしかないな。泣こうがわめこうが懐かしき屋敷の隅部屋へ帰られるとは思えん。
「チエザ殿は何時でも望むときに帰られると、ここで約そう。伯爵も何時でも帰すよう言うように」
「はっ! 承知致しました。我が想いご理解くださり感謝申し上げます」
……。我が想い。ご無視くださり。お恨み申し上げます。
以上をもちまして不人気でしたので打ち切りです。
最高順位日間ファンタジージャンル10位。総合評価点1980点の作品でした。
お読みくださり有難うございました。




