表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/16

家に帰ることは出来そうだと安心したチエザのところへ

 今日でパーティーも終わり。お貴族様が一斉に御帰宅だ。前回と同じでスゲー五月蠅い。やがて家格順とかの決まりが出来るんだろうねぇ。

 それよりは礼儀で雁字搦めにしてないゆとりを感じて好みではある。

 ゆとりと言えば、日中赤子と幼児が一つの部屋に集められてたのもやがて考えられなくなりそう。

 暇だったがおやつは最高だった。

 特に海苔。まさか再び口にできようとは。めちゃパリパリさせて頂きごちそうさまでした。


 何にしても―――とりあえず生き延びられた。一番危ないのは私の生死がうちのパッパラパー夫婦の責任となる領地へ帰ったその日だが……今日まで何もなかったなら。

 公爵夫婦は引いてくれる確率が高く思える。時が経ち冷静になるほど、まずは様子見が賢いと考えるはず。私ならそうする。何時でも殺せるのだから。

 

 そして段々安心するだろう。私は年毎に貴族社会から離れる。将来は公爵家の目の届かない温泉町で緩い公務員か、商人。まだまだ最高の勝ち組になる野望は捨てぬぞぉ。ぬおおぉ、お?

 遠くだった挨拶の声が近づいてきてる。……嫌な予感、やっぱり。公爵。妻付き。

 慎重な歩みの奥方には付き添いが三人かい。そんなに歩くのが不安なら素直に箱に乗って動いたら?


「こ、これは公爵閣下。素晴らしいひと時感謝いたします。直にご挨拶出来るとは光栄です。

 しかも奥方まで。ご体調はよろしいのでしょうか?」


 そうだよね。前回はお別れの挨拶をしていない。家格が二つくらい足りないんじゃなかろうか。だから理由は……私だな。夫人がこちらをチラリと見たし。

 余計な真似すんなよなぁ。凄い注目浴びてるじゃないの。

 君ら、また私の敵となってますよ? 呪われたいの? 大人と同じように喋る赤子が恐ろしかろう? お? シャー! エリマキ広げたろか。シャーッ! 

 あ。もしかして。呪いうんぬんは所詮脅しと見切られたとか……まさかね。私自身でもこの超常現象にビビってるのに。


「奥はまぁまぁといったところだ。案じてくれて感謝する。さて忙しくしてる時にすまないが願いたい。面倒とは思うが、あの荷馬車も領地まで同行させて欲しい。それと一仕事を」


 荷馬車? む。裏手から一台こちらへ。相当量のタルが積んである。何あれ。


「はっ。それは勿論かまいませんが。あれをどのように? それと仕事とは」


「実は伯爵の愛くるしいご次男を夫婦揃って構い過ぎ、不快にさせてしまった。

 あれは詫びの貢物。干した野菜、果物、海苔といったところだ。腐らないようにして食べたがるだけ与えて欲しい。何か費用が足らなければ文を頼む」


『……は?』


 あれ。今、私声に出してた? っべぇ。自分の行為に自信がねぇ。周りは……私を見てない。なら大丈夫。

 ……おいこら公爵閣下よぉ。遠くの貴族様たちが耳打ちで会話してやがるぞ。絶対これ伯爵家の次男坊に対する公爵家の入れ込みようで噂になるぞ。

 滅茶苦茶不本意なんだが? チエザ激昂形態になりそうなくらい。……でも……。


「チエザに詫び、で御座いますか。しかしこの通りの赤子ですが……」


「あ、……あー。そうだな。送り続けるゆえに言葉を解すようになったら、(わたくし)からの詫びで贈られている。と、伝えてくれれば幸いだ」


 え、それ年単位って意味? うちのボンクラ夫婦は当然使用人の皆さんも茫然としておられる。ですよね。

 ……ああ。子供部屋にあった多種多様なおやつ。あれ私の好みを探る為か。そういえばあの夜の次の日から種類が増えてた。

 こやつめ。やりおる。次の日には懐柔へ出るとは驚きの行動の速さ。


「その、恐悦至極ですが……、チエザはこの通り元気ですし、お二人の失礼はお構いになるようなものでは」


 こいつへ注目するな。と言いたいのかね野菜髪ママ。

 分かるけど、残念ながら適当な理由付けなのでどんな反論も的外れよ。


「いや、これは(わたくし)の気を晴らす為だと受け入れて欲しい。余りに愛らしいからと構い過ぎて嫌われたのが最後では、気分が落ち着かない。

 ほら。以前は見せてくれた笑顔が無かろう?」


 こうも注目を浴びて近づける訳ねーだろボケぇ。と、今の兄ちゃんの台詞も適当なだけだな。

 そう。注目を浴びるのは不本意だ。しかし。しかし……海苔。大好きなんだなぁ。

 しかも健康に良いはず。記憶にある海苔と同じ味だ。血管を強くしてくれるだろう。

 他の乾燥野菜と果物もそう。食べた事の無い物、栄養豊富そうな味。それを常食できるくらいくれると言う。我が腸内細菌も喜んでおるわ。ムキムキと増えてる音がする。


 と、言うか。小理屈は考えるも無様だな。

 心の底から、純粋に、ホッとした……。懐柔に出てくれるとはね。敵になる気は無い。と判断して良いでしょう。親からも厄介扱い受けてる赤子をどうこうするなら、こうやって接点を世に見せるのはドでかいアホウ。公爵にそれが分からない訳はない。

 かくなる上は受け入れたと示し、相手の不安を減らすのみ。そう。これは食べ物に釣られた訳では無……いや。海苔には釣られる価値があるけども。


 ま。折角ボールをこぼしてくれた訳で拾いましょう。閣下の足までよっちよちよち。とね。うんで足をギュッ、お。中々鍛えてるんじゃない? そしてニコッとな。


「お……おお」


 あん? 手を差し出してきおった。しゃーねーなー。ほーれ。抱きあげてー。


「……暖かい。受け入れてくれる、か―――。良かっ、た。……感謝する」


 ほぉ。心底ほっとしたようなため息まで。演技なら大したもの。と言いますかそれ私の台詞ね。


「旦那様。……妾は、如何でしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ