ぼんくら父と同じ無様を晒した結果
「こ……な……、なんという無礼っ! 不吉を並べ悪しき話ばかり。声からして年若い子供でしょうに、知ったような口を」
「愚者が知っている話をするだけ。と言ったでは無いですか。
何も強制しておりません。話の内容もお好きなように捨ててください。
さて。無能非才の限りは尽くしました。これで失礼いたします」
実際すんばらしい助言をしたでしょ。不可能に拘わらずなるようになると悟りを得たまえ。そうやって心が落ち着けば、子供が健康に産まれて育つ確率も上がるさー。
うんじゃ気配消してカゴへ帰るとしま「……待つのです」
やっぱり? 話すに足らぬやつ。という事で下がらせて貰えないかなーと思ったけど無理か。
あーぁ。ちょい前デスマザーダイブ食らった時、ヒステリー状態な母上を言葉で何とかしようとする親父をアンポンタンとけなしてたのに。
自分が同じ真似をしちまったい。とんだ口だけ野郎だ私は。情けな……げ。雄々しく怒りに満ちた、それでも美しい歩調でこちらへおいでか。
止めてくれ若造、ってなんだその手を伸ばしただけのポーズは。
……あ、そう。若造。こちらを知ってるのにそういう判断する。
なら詰みだ。あなたが義理を踏み付けて大事にした奥方は、これから私へ強制する。分かりきってる。チクショー。真面目に殺されそうだ。
「さぁ、姿を見せ……え。赤子? えっと、え? 声はここから。あ、隠れたのかしら。でも……あれ? この子は」
おぉ? 同情してくれてるお顔。あの怒りで即このお顔は、俗に言う『お優しい方』なのだな。まぁ、優しい人は単なる考えなしだったりするのだが。
それはそれとして、もしかしてこのままなし崩しですり抜け……公爵が居るのに未練がましいか。仕方ない。
「姿をお見せします夫人。愚者で御座います」
で、貴族の礼はこんなものですかね。
「は、い。よき挨拶です……え。何が―――あ。隠れて喋る者が、でも今の礼は」
「心を落ち着けて聞きなさいクラリーチェ。そちらのローヴェレ伯が次男。去年お生まれになったチエザ殿が、話していた賢人で間違いない」
「……そう、ですの。―――ではチエザ殿。
改めて問います。この子を健やかに、賢く産むにどうすればよいか。述べなさい」
混乱してる中でもとりあえず一番大事な質問かい。賢いねー。拍手してあげたいー。ド厚かましいプリンセスめ。
「はぁぁぁぁ……。そんな方法は。無い。と言ってます。
過去、夫人より遥かに偉大で多くの国を従えた王。より美しく賢い女王。
夫人を歯牙にもかけない方々も、当然同じような望みを子に抱いてきた。しかしその解決策、何か伝わっていますか? ご友人とご親類も同じように悩んだのくらいご存知でしょう。で、秘訣は教わりましたか? それが無いなら無いのです。なのにまだ望むとは……。
夫人はご両親、親戚、ご友人とは全く違う『あり得ない秘密』を得られる存在でしたか。大した自負だ。お幸せに。
しかし私は歳のわりに物を知ってるだけ。そんな特別を求められても不可能です。
今も公爵閣下に真夜中叩き起こされて眠いという普通ぶりでして」
「なんっ! …………いえ。そなたは、子を産めなかった我らへ子を授けたのでしょう。十分に特別ですわ。当然の期待ではないですか」
「私が閣下へお教えしたのは学者の方々なら知っている理ですよ。
特別な事ではありません。そして何よりお二人の巡り合わせが良かったのだと私は考えています。
公爵家の夫人ともなれば、閣下にした話が根本的にはそういう物だと分かる程度の知識はあると思ってました。
更に求めるなら学者へなさい。私より遥かに安心して聞けるでしょう」
一言ごとに苛立っておられますけど、当然の話と了承してくれないかなぁ。無理よなぁ。
「そなたが! 赤子ながら賢く健やかではありませんか! そなた程度でよい。如何にしてそうなれたか、話しなさい!」
それ今考えましたよね? ここに来た時、私が赤子だって知らな―――成程。
目の前の高貴な方に考える時間は無い。しかし後ろで心配そうに見える、公爵閣下の脳裏にはこれが? それで私が求める知識を持っていると思い、こうまでしたか。
そうかそうか大変腑に落ちた。己の子を奇跡的に健康で頭の良い子とする為であれば、義理も疎まれてる赤子一匹も生贄として安いね。論理的だな大したもんだ。
うんうん。でもさ……『私程度』とは。こんな超常現象が欲しいと。自分の覚悟程度で得られると? 笑えて来た。
「は、はははは。私『程度』で良い。ですか。素晴らしい。私『程度』なら覚悟とやらで得ることが出来るとお考え。これは。これはこれは」
「お、お待ちを! 奥は、言葉選びを間違えただけで、」
何を止める旦那。言葉は変わろうとも聞きたいのは同じ内容でしょう。
「夫人。ご自分の手が何故動くか。知っていますか? 爪は切っても伸びてくるのに腕は切ったらそれまで。何故? 生きてる間は人は考えるのに死ぬと考えない。何故? 二十年生きておられるのに、まだ自分さえ分からないのが人間とご存知無いとはね。
私が、何故、生後一年でこれほど知識を持ってるか。どうしたら同じような赤子になるか。なんて欠片も分かりませんよ」
この世のことわりだろーがボケぇ。なのに理解する気ないのかよ。うんだこら更に覚悟決めたと言わんばかりに眉を逆立てやがって。こちとら詰んでると承知だぞ。
「妾は、この子のためなら何でもすると申しましたわ。
それはそなたへの褒美の意味でも、そなたを責めてでもです。
その体では長くは耐えられないでしょうし、万が一は妾も不本意です。
知恵を申しなさい。或いはどのように神の祝福を得れば良いのか」
だろうね。そう言うよね。ならいよいよ進退窮まった。出来るのはもうエリマキトカゲの真似だけ。精々盛大に広げてやる。




