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ズドンするしか無いと思えて言った結果、加速する不利状況

「奥。先に話した賢人があちらに居られる。挨拶を。……決して大声を出してはいけないよ。人が来てしまうからね」


「え? いえ、はい。失礼いたしましたわ。ロレンツォ・メディ公爵が妻。クラリーチェ・メディがご挨拶いたします」


 闇夜の植木へ向かって挨拶なんて茶番をやらされて戸惑っていても、礼の姿勢の美しさは変わらず。流石。

 ……なるほど。寝る前にうちのボンクラ夫婦がこの人がパーティーを欠席した。みたいな話をしてたけど。この暗さでも見える憔悴では当然か。

 原因は少し大きくなっているお腹。……悩みねぇ。もう確信と言って良いくらいの予想が。ウンザリする声に出ちゃいそう。


「丁寧に有難うございますメディ夫人。私は己の愚かさを省みず、以前閣下へ自分の考える常識をお話した者です。

 そして今、閣下から無理やりこちらへ連れてこられ、夫人の悩みを聞けと命令を受けました。

 私に話せるのは愚者がどのように考えるか。程度ですが。それでもよろしければお悩みをお聞かせください」


 不安と戸惑いが見て取れる。そのまま諦めて欲しいけども、安心させようとする笑みの公爵を見て落ち着いてしまった。仲睦まじくて結構毛だらけですよ。


「悩みは当然このお腹に居る子ですわ。妾が妻の責任を果たせるか不安で苦しいのです。

 メディ家に相応しい美しく、賢く、健やかな子を産むにはどうしたら良いか。そしてどう育てるべきか。知恵をお与えくださいませ。

 その為なら妾は何でもいたします」


 ……やべ。『覚悟しています』みたいな顔へつば吐きそう。凄く帰りたい。……あ、今帰りたいと思ったの何か違和感あると思ったら。一年前まで暮らしてた日本の家じゃないですか。

 はぁぁあああ。十割予想通りなのに現実逃避してしまった。

 はー。うん。良い情報を仕入れられたな。この惑星に住む人類は、地球人類と全く変わらないアホでーす!

 覚悟如きで大三元一発な子供を産むだと? 不可能な妄想追いかけて処女の生き血でも被ってろダボスケがぁ。

 二十越えてるんでしょあなた。流石にどう『感じるか』『したいか』ではなく、現実の対処の為に動きなさい痛々しい。


 で、どうしたもんかね。

 以前公爵へ話した健康方みたいなのを話して、ご納得いただくという手もあるが……上手く行けば次々と知恵を要求されるだろうし、逆に常識外のことをさせて『健康』で『賢く』『美しい』子が産まれなければ私の所為と言って殺しに来そうだ。

 そもそもこの奥さんの問題は根幹からして間違ってる。それを正せば殆どの悩みは軽減される。はず。

 しかし……そんな求めてない話で説得は無理よなぁ。


 ぬぎー。話が始まる前なのに。限りなく詰みに近い五分の状況とはコレですか。

 だとしても頑張る以外何も出来ないけども。クソゥ。公爵家という暴力に近づいたのが愚かだったかなー。


「まず確認の質問があります。

 夫人はメディ公爵家の繁栄を目標としておられるのですか。それともお二人の子が居ないなら、メディ家が滅べば良いとお考えですか」


「―――、繁栄の為に主人を支えるのが妾の望みです。……なるほど。もし子が産まれなければ。という話をロレンツォ様にしたのもそなたですの。

 しかし賢人ならばご存知でしょう。この子の健やかな成長はメディ家にとって非常に重要だと。側室の子だとこの子の代わりにはどんな意味でもなれません。

 ですから、このように悩んでいるのです」


「私は賢人ではないのでご存知じゃありませんし、知っても理解出来ませんよ。

 さて。となると不思議です。夫人はもう責任を果たしておられる。悩んでいること自体が実に奇妙だ」


 妻はともかく夫も理解出来ないという顔をするか。……まぁ、目の前で精いっぱいとなるくらい社会秩序のため働いてくれてる。そう思おう。


「お腹の子によりお二人は子供を作れると分かったのです。何より公爵閣下に子を作る能力があると証明された。それを何故喜ばないのです?

 これにて夫人にも数多の道が開けました。その子が死のうと、どのように育とうと瑣末事。出産が終わり体調が整う度に子をお作りになればよろしい。

 一人子が産まれる度にあなたのお望みが叶う可能性は二倍、三倍になる」


 最後の一言は当たり前すぎて余計だな。馬鹿なこと言った。


「な……こ、この子は死にません! それに産みの苦しみがどれほどのものか知りもせずのぅのぅと……!!」


 おっと間違ってはいないね。しかし問題がズレてる。


「苦しいから産むのを止めようと、流産し子を産めなくなろうと。あなたが閣下にとって信頼できる相手ならばより子貴族たちとの折衝。様子見。幾らでも頼みたい仕事はあるでしょうから、今後産むかはお好きなようになされば良いと愚考します。

 側室が公爵家に馴染むのを助けるとよろしい。歴史の偉人にも配偶者の愛人、外で作った子を慈しみ立派に育て、名を残した方々がいるのはご存知でしょう。かの方々にならうのです。

 ゆえにそのお腹の子がどうなろうと小さな話。夫人が現実をきちんと理解し、先を見て備えれば前途は明るい」


 そして現実を見ないで動くなら前途は暗いわけだが、旦那の好意が安定してるのなら少しの理性があれば明るかろう。

 羨ましいくらいです。夫人の表情を見るにこちらの前途の方が先に闇に閉ざされそうだもの。

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