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10/16

数か月後。再び公爵傘下の宴に呼ばれて

 これだけの話をしておいて、終われば即帰れとの言い草にロレンツォは何か尋ねたいことがなかったと焦り、考え、

「どうにも話全てを覚えている自信が無い。再びお会いする方法はあるだろうか。……これでも国で第二を争う者だ。何かとお力になれるはず」


「そして力の分面倒を抱えておられる。私はその面倒を分かち合う器がないのです。

 なので会う機会もありません。忘れても何か失った訳ではありませんよ。お気になさらず」


「……最後まで割り切ったお考えであるな。承知した。今夜の親切、感謝申し上げる。貴君に神の祝福のあらんことを」


「公爵と奥方に神の祝福を願います」


 一瞬、ロレンツォの中に庭木の向こうを確かめたいとの衝動が産まれる。

 しかし……と、思いとどまった。非礼であるし何より、超常と言ってよい出来事の相手へ逆らうのは非常に愚かな選択と思えて。

 そして庭から自室へ帰り、寝台に入ってロレンツォ・メディは気づく。


 何時以来か思い出せないほど安らかな心持ちだった。


******


 遠くから音楽と和やかな談笑の声が聞こえる。

 ……楽しそうなパーティーじゃのぅ。こっちは大量の赤ん坊の泣き声大合唱の中、暇してるというのに。

 大量におやつが置いてあって食べ放題飲み放題なのは素晴らしいんですがね。


 はぁあ。半年前あの助言をした時は赤ん坊も幾らかは参加させてくれたのになー。毎度毎度はやってられませんって話なんだろうなー。

 じゃあなんで赤子同行って書いたのよ公爵。うちのボンクラ夫婦も戸惑っていた。例年通りだと今回は子供たちが不参加と聞きましたよ?


 もう寝ちゃおうかな。そしてまた夜のお散歩が乙か? 前回と同じ真似は危険な気もするけど……うー、ん? 扉の外が変に騒がしい。誰か来る……ゲ。


「お前たち下がれ。少し赤子たちの様子を見たい」


 公爵閣下。うわぁ。赤子たちを見ていたおばさんたちも驚いてる。ゲー。これは多分。……ならば。

 秘技。赤ちゃん寝返り! これで閣下が何をしようと知らぬフリよ。そして埋没してくれるわ!


「は、はいっ! そ、その閣下、よろしければ世話のお手伝いをいたしますが」


「よい。砂一つ分程度の時だ。何かあれば呼ぶ。ああ、今世話している赤子たちは哀れゆえ抱いていけ」


 のあああ。世話しててもらうんだったぁ! ってこれもう私目当てでしょ。……。

 やっぱなー。怪しいやつが自分を探すなと言っても聞いてくれませんよね。ケッ。

 ふん。世界が変わっても親切にすると損をするのが人かい。

 おお神よ。どーしてこーいう駄目な生物をお創りになったんですか? それとも二回目の人生でなお学ばない私がアホなだけ?


「貴君よ。どうかお許しいただきたい。翌日にはおおよそ目星をつけていた。

 勿論、誰にも話してはおらぬ。しかし……今、我が妻が。まだ誰にも報せてないのだが、腹に宿った我らの子で酷く気に病んでいて。

 故に……恥知らずではあるが今一度、知恵をお貸しいただきたく」


 ほぉ妊娠したの。それはグレイトおめでとう。大変お悩みなのも理解できる。出産は夫婦共に大仕事だ。凄くこっち向いて言ってそうな声の中に、苦渋が満ち満ちているのもさもありなんと思うよ。

 しかし返事なんてする訳ねーでしょアホンダラぁ! 我赤ちゃんである! 何言ってるか分からなくて何の差しさわりがある!


「……。今夜、皆が寝静まった後。同じ場所にて待つ。情けを切に望む」


 ……あ。出て行った。ほぅ。もし私とご存知ならよく我慢した。

 そしてお待ちになるんですか。何時まで待つんでしょうね。お布団用意して寝て待ってはどうかな。

 私行きませんのでね! 誰が行くかい。分かってないならこのまま逃げるし。そうでなくても気の迷いで諦める可能性を自分から消す手はございません!


 子のことで気に病んでる。ええ気に病むでしょう。色々と想像もつきます。しかし夫婦の問題はお二人で解決してください。それが道理というもの。


 しかしこうなると夜の散歩も無理か。暇だが夜眠れるよう起きておかないと。面倒見てくれてる方々が楽しい雑談をしてくれると良いのだけど。

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